女子小学生と大学生のラブラブな新学期と進学
第1話 大好きな人の上京
マンションの玄関にオレンジ色のランドセルを置き、
駅までの道には何本か桜の木が植わっており、そのつぼみの幾つかはもう開いている。
雫は駅前の中央通りを走り抜け、タクシーのロータリーに至って、駅への階段をかけ上がる。息切れしたが、雫は最後の力を振り絞って改札前に飛び出る。
「
自動改札の向こうに恋している従兄、
静流は従妹に呼ばれ、照れくさそうな笑顔を浮かべながら自動改札を通り、雫の前に歩いていく。静流はDバッグを背負い、肩からかけたベルトで大きな荷物を担いでいるのだが、そんなことお構いなしに雫は大ジャンプして静流の肩にしがみついて全体重を預ける。
「静流ぅ! 久しぶりぃー!」
「お、重いよ雫ちゃん……」
いかにも田舎の純朴そうな少年と言った
「そんな久しぶりでもないよ。お正月以来じゃないか」
「ウチには長かったの! とってもとっても長かったの!」
そして顔を彼の肩に埋め、スーハースーハーと匂いを嗅いだ。
「よし、静流分、充填完了」
好きな人の匂いは、心地よいものだ。
「なんだいそれは。そろそろ限界だ、降りてくれないか」
静流は苦笑しながら足を震わせた。
「ちっ! そろそろ許してやるか」
雫は静流から降りるが、彼の右手をしっかりと両手で握っている。静流は大きな荷物を再び肩からかけ、歩き始める。
2人は駅の高架下にあるショッピングセンター沿いに歩いて行く。ウィンドウに映る2人の姿は兄妹といった風である。いとこ同士だからか、似ているといっていい。
しかし大人しそうな静流と違い、雫の方は利発かつ活発な性格が外にあふれ出ているというのだろうか、エネルギッシュさに輝いている。まだ少し寒いのにホットパンツだったりするのは小学生だなという感じだし、ショートカットで、寒色系のシャツにウィンドブレーカーというのも男の子風で、アクティブな印象を受ける。しかし顔は男の子と間違われるような感じではもうない。既に女の艶みたいなものが出始めており、将来は絶対に美人になると誰もが太鼓判を押したくなるような美少女度だ。
「えっへへへへ~」
そんな美少女が腕に抱きついているのにもかかわらず、静流は少々迷惑そうだ。この春、大学生になる静流からすれば当然かもしれない。学年で8つも離れているのだ。道行く人に『何だこのロリコン』という目で見られる。また、年齢だけでなく身長差30センチオーバーは、かなりある。
「雫ちゃん、そろそろ離してよ」
「まだダメ~ もっとくっついてるの~」
雫は露骨に目を細め、唇をへの字にして抵抗の意思表示をする。
「もう外だから」
ショッピングセンターを出て、静流は少し空いているスペースを見つけると大きな荷物を開け、クロスバイクを組み立て始める。輪行状態のままクロスバイクを担いでいくより押していった方が楽に決まっている。逆さまに置いたフレームに前後のホイールをはめ、チェーンを掛けるだけでクロスバイクは自転車の形を取り戻す。慣れてしまえば折りたたみ自転車と大差ない簡単さだ。
「まさか1人で乗っていかないよね?」
雫は涙目になる。クロスバイクに2人乗りできるような荷台はない。静流はクロスバイクをひっくり返すとハンドルバーを持って言う。
「置いていくわけないだろ」
雫は大いに安心し、今度は自転車を押していくのに邪魔にならないように左腕にひしとすがりつく。静流の意外なほど筋肉質の腕が頼もしい。
「ねえねえ、どこか食べに行こうよ」
「お昼ご飯用意してくれてあるってお母さんから連絡あったよ」
「だってそれ作ったのウチだし~ 自分で作った料理なんて飽きた~」
「でも僕は雫ちゃんが作ったご飯、食べたいな」
そう言われると雫は悪い気がしない。ぱああと笑顔になる自分を見つける。
「これから毎日食べさせてあげるから」
「たまには僕も作るよ」
「期待してる!」
これから4年間、大好きな静流と一緒に暮らせる。雫はメチャクチャ嬉しい。いろんなことを静流とできるに違いないと思うと雫は自分でもにやけているのがわかる。
まずは花見だ。お買い物にも一緒に行きたい。都心に遊びにも連れて行ってもらいたい。夜通しゲームもしたいし友達に静流を見せびらかしたいしGWにはどこか遠くに連れて行ってもらいたい。これだけ計画してもまだ2ヶ月にも満たないくらいの期間しか経っていない。
「ふふふ、静流~」
雫はにやけた顔で静流を見上げる。静流はきょとんとした顔で雫を見る。
「どうしたの?」
「一緒にいっぱい遊ぼうね~」
「勉強が先だけどね」
「そうだった……」
静流は雫の家庭教師役を果たす必要もある。これからの大学生活4年間を、雫の家に居候と雫の家庭教師をして過ごすのだ。
「でもでも、人生は勉強ばっかりじゃないじゃん!」
「分かっているよ」
静流の笑顔に雫は安堵する。
「静流大好きー!」
そしてまた雫はひしと静流の腕にしがみつき、彼はやや苦笑気味に頬を緩ませ、答える。
「ありがとう」
これは初恋をこじらせた女子小学生と、彼女に翻弄された大学生の少年が無事結婚するまでのエピソードを、たまに時系列を無視して紹介するお話である。
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