第20話 それぞれの想い
《残り8両》
AIが告げる。
「曹長、3両がそちらへ向かった。わたしは前方の5両を片付ける」
「イエス、マム」
ミアトゥのレールガンはマシンガンのように連射した。たちまち数両が炎上、そして爆発した。
狭く薄暗いコクピットの中でモニターに表示されるカメラ映像。表示される数字や記号だけをながめ、シノは「テレビゲームだ」と呟く。
あまりに実感がない。むしろ、だからこそ命の争奪戦を平然と行えるのかもしれない。ミアトゥは将兵の心も守っているのかもしれない。
そんな感傷に一瞬の隙が生まれたか、敵弾が車体へ命中した。
否、実際にはミアトゥの曲線外装を滑るように掠めたが、アリエテの大柄な戦車弾はその外装を剥ぎ取っていった。勢いにまかせ車体がぐるり、一回転して止まる。
正面に敵!
「きゃあーっ!」
シノの悲鳴に呼応するようにAIが自己判断で前面の敵戦車を砲撃する。
爆発炎上するアリエテ。衝撃波でミアトゥの軽い車体は浮かび、転がる。履帯がバーストし外部モニターまで映らなくなった。
動けない。
見えない。
シノは初めて戦場の恐怖に身を震わせる。
「少尉、大丈夫ですか。応答して、シノ!」
グレイスの悲鳴に近い叫びを初めて聞いた。
クスッ、と笑みが漏れる。
「大丈夫。グレイスの声を聞いたら安心したわ」
「驚かせないでよ。怪我はない?」
「うん、平気。でもわたしのミアトゥが動かなくなったわ。回収してもらわなきゃ……ああ、整備したばっかりなのに」
幸いというべきか、ミアトゥはもともとそう作られているのか、爆風に転がされてもキャタピラを下に、ガルウイングのドアもちゃんと開いた。
寒いはずのホワイトベルンでシノは熱風を感じて手をかざす。
目の前で敵戦車のアリエテが燃えている。腰のピストルを確認して身を出した瞬間、ぞわりとする男の声が聞こえた。
「どんな魔法かとおもえば、本当に魔女だったとは驚いたね」
片言のレルム語に振り返る。ヘルメットは脱ぎ捨てたのだろうか、ゴツい頭から血を流している──それはベッリゾーニアの将校だった。階級章は少佐だろうか、だとすれば敵戦車大隊の大隊長か。
無精髭の目立つ昔気質な軍人。右手にはバズーカ砲をぶら下げていた。
「しかも、こんなに若い魔女とはね。王国が本当にルイス・キャロルの
男の右腕があがる瞬間、シノは無意識に腰のピストルを抜いた。
「少尉ッ!」
ようやく気づいたグレイスが声を荒げたとき、既に勝敗は決していた。
シノはそのまま後ろに下がり、ミアトゥへ寄りかかるようにしゃがむ。
手にしたピストルへ視線を落とすと、震えた。
そして──泣いた。額を撃ち抜かれた男が目の前に倒れていた。
「人を……殺しちゃった」
敵が撤退したホワイトベルン国境線には多くの将兵が横たわっていた。
人の形を保っているのはまだ良いほうで、肉片になって散らばっている状況は駆けつけた回収部隊も手の施しようがなかった。
その脇をぞろぞろと、疲れ切った兵士が輸送ヘリに向けて歩いている。
一団の中には担架で運ばれる者もいた。
ジョージ・トーマス2等兵もその一人だ。
彼は空を見つめたまま仲間に運ばれている。
真っ青な空だ。
憔悴しきった顔に一筋の涙が流れた。涙はやがて量を増して顔面全体を覆う。
鼻が苦しくなって顔を横へ向けると、あのとき見た軽戦車が目に入った。
仲間の会話が耳に入る。
「あれが俺ら王国の最新戦車なんだろ」
「スゲぇよなぁ、たった6両で30両のアリエテを全滅させたって」
「マジかよ」
「帝国の連中慌てて逃げ帰ったらしいぜ」
話を聞きながら、トーマスもまた思いを口にした。
「なんだトーマス。何か言ったか?」
「……たい」
「ん?」
「ぼくは、もっと、強くなりたい」
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