第17話 独立戦車大隊
「早く終わらせてマルコの店で一杯やるぞ」
ベッリゾーニア帝国陸軍の第8機甲師団で独立戦車大隊を任されているロベルト・アッバティーニ少佐は複合装甲に守られたアリエテMark3の車内からジョークを飛ばす。
「我が情報本部によれば敵はわずか4両のポンコツと新兵だらけの有象無象だそうです。かつての大王国が落ちぶれたものですね」
副官のミケーレ・デ・アンジェリス大尉が笑った。
「まったくだ──4両? そうか、たったのそれだけか。センチュリオンを出してきたからと勢い気張ったが30両も引き連れる必要はなかったな」
「たとえ増援が来てもセンチュリオンなど1世代前の鉄くずです。我らアリエテMark3には勝てませんよ。なんといっても、こっちは最新のコンピュータで火器管制を完全制御する最新型です。衛星ともリンクし目標を自動でロックオン。眠っていても撃破出来ます」
「おいおい、それは言い過ぎだろう……我らは一心不乱、日々の生活を訓練に明け暮れてきたのだ。今回の訓練目標だって一応、戦車なのだぞ」
ロベルト大隊長は「がはは」と声をあげた。
「そうでした。訓練は真剣にやらねばいけませんね。総員、居眠りせずちゃんと目標を目で見て撃破するように」
ミケーレ副官の言葉に各自が一斉に
「「「シィ、シィニョーレ!」」」
勝ちどきをあげた。
「降下を開始する」
ヴァン・ニョルズの搭載機、大型輸送機のPⅡは低空飛行のまま戦場のど真ん中へ突進する。
大地を駆け回る敵を対地用機銃で払うとカーゴベイが勢いよく開かれた。
ドンッ、と空気を圧する音。
パラシュートが開かれた瞬間、シノ・アンザイは安堵の溜息をつく。
だが着地までの数秒は無防備だ。たとえミアトゥといえども要するに戦車だ。戦車の弱点は底板の薄さにある。案の定、数発のライフル弾が外装を奏でる音にコクピット内のシノはビクついた。
「アディ軍曹とヘイリー軍曹は着地と同時に全車
旧友の清んだ声が、そんなシノの心をさらに追い詰めた。
「目標をレーダーで捕捉」
ミケーレ副官の報告をうけてロベルトは全車へ対し「殲滅」を命じようとした──その瞬間だった。
「目標、ロスト。ロストしました!」
ミケーレの焦り。
だがロベルトはすぐに「電波妨害か、多少はやる気にさせてくれる」と呟く。
「このまま突っ込むぞ。ポンコツの弾にあたる間抜けはいないと信じる」
シノが着地と同時にコンソールモニターで確認したのは敵の戦車部隊だった。
おそらく大隊規模。まっすぐ、こちらへ突進してくる。
「シノ少尉とグレイス曹長はイノシシ狩りだ。ディビーズ少尉はわたしと情報収集に専念しろ」
「はーいっ、アリス頑張る」
アリス・ディビーズ少尉の無邪気な返事に「ああ、そういえば日本の高校にも、こういう子いたなぁ」などと、シノは一瞬感傷に浸ったが、それどころでは無い命令であることに気づき「ちょ、ちょっと……」と思わず声が上擦った。
「なにか、シノ少尉」
「相手は大隊規模よ……ですよ。戦闘に従事するのが2両では少な過ぎます」
「継ぎ接ぎのオンボロ戦車であるアリエテ相手に何を言ってる。ミアトゥ2両あれば大隊どころか1個師団だって壊滅出来る」
「そんな無茶苦茶な」
「第1小隊と第2小隊の選抜混合チームだ。輸送機で運んでもらうことを考えれば数両を絞らざるを得ない。少し大変だけど要領良くやれば大丈夫よ」
レイナの「泣き言は一切聞かない」な態度に苛ついた。
何か言い返してやろうと思ったが、薄暗がりのコクピットでほのかに光るモニターを見ていま一度心を落ち着ける。
この環境は癒やし効果もあるのだろうか?
などと思いつつ、モニターに表示される衛星情報から敵は30両だとわかった。やはり大隊規模だった。
ミアトゥのAIが何パターンかの戦闘シミュレーションを提案してきた。
「……そうか、やれるのね」
操縦桿を握り直してシノは第2小隊から唯一連れてきたグレイス曹長へ伝える。
「この子が大丈夫だって、言ってるわ」
少しの間をあけグレイスから返答がある。
「当然ですよ少尉。さあ、我々の大地を守るために進みましょう」
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