第15話 戦車戦

 北海ほっかい側のブリテン海峡に展開する強襲揚陸潜水母艦ヴァン・ニョルズから発進した大型輸送機は、ルミエール共和国上空を飛行していた。



 共和国の許可は得ていた。

 そこは同盟国同士の信頼関係だろうか。


 ただし、ルミエールの大統領が電話口で語ったのは「協力はしない。邪魔もしない」という──つまり、我が国は一切無関係だ。おまえらだけで好きにしろ。という意味だ。


 むろんそれで構わなかった。

 軍事大国のレルム・ブリテン大王国がブーツの国の弱小帝国に負けるはずなどないのだから。




「ビックマンタ・ワンよりブルーレイク。まもなく投下に入る」


 ヴァン・ニョルズの格納庫。

 ミアトゥのコクピットで電子系を調整していたシノは無線を傍受しながら溜息をついた。

 そして「わたしじゃなくて良かった」と本音が漏れる。


「少尉ッ!」


 レシーバーをハンズフリーにしていたことを忘れていた。

 戦闘指揮官であるシノ・アンザイ少尉の愚痴を、命を預ける第2小隊の全員が聞くはめになった。それを年配者のグレイス曹長が咎めた。


「あ、ち、ちがうの。変な意味じゃなくて……ほら、整備がたくさん残っているから。マッカラン中隊が作戦を遂行しているあいだに、我々レイナ中隊は戦闘準備が出来るでしょ」




 ヴァン・ニョルズには『ミアトゥ隊』または『ウエーブ中隊』とも呼ばれるレイナ中隊の他に、伝統的な戦車中隊も2個中隊配属されていた。

 フィービー中隊とマッカラン中隊だ。

 いずれも歴戦の強者を思わせる男臭くてクラシカルでゴツい戦車部隊だ。




 ルミエール共和国とベッリゾーニア帝国の間に位置するホワイトベルンはレルム王国の属領、つまり植民地だ。

 そこへ突如ベッリゾーニアが進軍した。


 寒い高地しかない、これといって取り柄のない土地だ。

 たいした防衛装備など必要無いと、全土でたったの一個大隊しか配備されていなかった。この地に軍隊はいないも同然だった。


 本国は慌てて援軍を送り込もうとしたが、どこの部隊も人員を割きたくない。

 結果的に徴用兵士ばかりの寄せ集めで臨時の防備隊を編成した。そして現在、苦戦している。




「ホワイトベルンを守れ」

 それがヴァン・ニョルズに課せられた命令だった。


「海軍の潜水艦で高地を守れと?」


「それが出来る潜水艦だと聞いている」


「了解しました。勘違いしたハイカーらに潜水艦一隻をもって、雪山の恐ろしさを堪能させてやりましょう」


それが王立軍の頭脳たる統合参謀本部戦務せんむとヴァン・ニョルズのステリー艦長との会話だった。




「ブリーフィングどおりの手順で降下する。マーク15がより役に立つところをみせてやれ!」

 マッカラン大尉の檄が飛ぶ。


 レルムの伝統的戦車センチュリオンの最終形態型がマーク15だ。

 全長は9.8㍍、全幅3.4㍍、重量は52トンに及ぶ巡航戦車で車長、砲手、装填手操縦士の四名で動かす豪華な車両だ。

 それを4両搭載し飛行する大型輸送機PⅡもまた6発のエンジンを搭載する怪鳥だった。


「幸運を祈る。神は我らに」

 機長からの合図でカーゴベイが開く。

 低空飛行しているとはいえ4両もの重戦車が空中から順次投下されるのだ。


 パラシュートは瞬時に開く。

 ドンッ、と空気をぶん殴る重い音。僅かに墜落を緩める程度の減速が車内のクルーたちを余計に強ばらせる。


 一瞬の静寂の後、躰にぶつかる衝撃波。

 肉体がバラバラなりそうな痛みから根性だけで腰を浮かせると「いくぞ、野郎どもッ!」センチュリオンのキャタピラが大地の泥を跳ね、時速40キロ近いスピードで自軍兵士らの背後へ到着した。


 自動小銃一本で突撃に向かっていた兵たちから歓声があがった。

 それに応えるように戦車砲が地を揺らすような咆哮を放った。

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