This world is merciless. and... it's also very beautiful.
第14話 前略、戦場にて。
大地を揺るがす爆撃が何度も、何度も繰り返される。
熱風にハネられた泥が雨のように頭の上へ降り注ぐ。
大地を削って建築された巨大な
鼻を刺激するのは硝煙と肉の焼ける臭い。耳にまとわりつくのは鉄が軋む音と兵士があげるうめき声。
──バッ、と天空を遮るは
それが戦場。
それが兵士の生きる世界。
泥塗れの
高校の卒業式が終わり家族団
事実上の召集令状だった。
「2年程度の期間だし休暇のたびに帰宅は出来る。平和な世の中で軍事訓練なんてお遊びみたいなものさ」
書類を持ってきた陸軍の広報官は「それに躰を鍛えるのは悪いことじゃない。女の子にもモテるぞ」と笑顔で諭す。
「国で決まっていることなら、まあ、従いますよ。来週でいいんでしょ」
父親が背中を優しく摩り、母親が少し離れた場所で見守るなか、トーマス少年は不貞腐れながらも承諾する。
そもそも承諾しか選択肢はない。断れば「非協力的国民」として就職などに影響が出る。国民は基本ナンバーが割り振られているから役所や病院でカードを機械に通した段階で「兵役拒否」はすぐにバレる。
それが軍事大国ブリテン・レルム大王国の社会システムだった。
とはいえ、この強大かつ圧倒的軍事力をもつレルムに『喧嘩を売る』バカな国はなく、せいぜいがテロや海賊がちょっかいをかける程度だった。
しかもこれら警察的な非軍事活動に投入されるのは、自ら志願した士官や手慣れた特殊部隊の構成員ばかりだ。
徴兵された少年兵は一般国民同様にテレビニュースで活躍を知るだけ。
彼ら懲役兵士は、日々を鬼教官に扱かれながら駐屯地内の決まったエリアで『戦争ごっこ』に明け暮れる。
それでも昨今の若者は兵役を疎ましく感じており、徴兵拒否は増えていた。
焦りを感じた軍は『魅力化対策』としてクリスマス休暇をはじめ、長期休暇を何度も与えるよう『優しい兵役』へ転換していた。
もちろん休暇のたびに家族の元へも帰郷出来た。
軍の生活では気の合う仲間も出来るし、新たな学びも得られる。優秀な兵士には高度な科学技術教育も受けられた。除隊後の就職先に困らないよう民間企業へ斡旋もしてくれた。
考え方次第では『体育会系の厳しい専門学校』とも捉えられる。
広報官の言う「女の子にモテるぞ」も嘘ではなく、地元の根暗な先輩が逞しい胸板と希望に燃える瞳で爽やかな笑顔とともに帰郷した姿をトーマスは知っていた。
事実、その先輩は高校時代とは別人のように女の子にモテまくった。
そしてカンタライ一の美人と結婚し、軍で得たコンピュータプログラムのスキルで大手の電機メーカーへ就職した。
だからトーマスは渋々ながらも入隊を決意し、両親は不安な想いを抱きつつも息子を応援して送り出した。
だが、彼が入隊してまもなく戦争は始まった。
ブリテン・レルム大王国にすれば『不当な』臨検を強行されたことが理由で、ベッリゾーニア帝国にすれば『正当な』臨検を軍事力によって邪魔されたことが理由で、双方が歩み寄ることなく戦端は開かれた。
ベッリゾーニア帝国は自国の財産である駆逐艦がレルムの巡洋艦に撃沈され、多くの海軍将兵が死傷したのだ。
許される行為ではない。
ベッリゾーニア帝国は欧州本土にあるレルムの植民地へ進軍を開始した。
これにブリテン・レルム大王国の政治家連中は驚愕した。
大袈裟な表現ではない。よもや我が国に戦争を仕掛ける国が──しかも軍事的にも経済的にも劣るベッリゾーニアが攻めてくるなど想像だにしていなかった。
さらに、この馬鹿げた進軍の直前に経済大国のグローリアンラント帝国だけでなく歴史的友好関係であったはずのカイゼリッヒ公国が、ベッリゾーニアと三国同盟を締結した。
あきらかにレルムに対する挑発だった。
「王室はなんと言っている」
レルムの若き首相からの問いかけに貴族院総務は「沈黙を守られています」と応えた。政治上の問題は政治の判断で解決しろということか。
塹壕に響く笛の音。
敵が装填している瞬間を狙って兵士たちは一斉に突撃を開始する。
迫り来るは敵歩兵と……戦車。分厚い装甲に守られ巨大な砲をもつ鋼鉄の獣。
塹壕のなかで怯えていたトーマス2等兵もまた、力強い雄叫びをあげながら死線を駆けていった。
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