第4話 人?
部屋に引きこもってから長い時間が経った。
ネットの記事によれば病の患者は増える一方で、治ったなんて話は一つもなかった。
夜になって俺は歯を磨きに下に降りる。
洗面台の前に立って鏡を見るが、誰も映らない。
誰もいない鏡を見つめながら歯を磨く。
歯を磨き終えるとユタユタとした足取りで部屋に戻り、眠りにつく。
次に目を覚ました時に俺は木々に囲まれた薄暗い森の中にいた。
「どこだここ」
重い体を起こしてあたりを見渡すが、どこを向いても木、木、木。
少しでも動けばケガをしそうなほどに木が鬱蒼としていた。
はじめは俺もついに捨てられたかと思ったが、さすがにないなと考え直す。
「本当に異世界転生でもしたかぁ? ははは、」
俺の独り言はただ自然のなかに吸い込まれて消えていく。
口では冗談を言ってみたが、実際は自分の身に起きたことに思い当たりがあった。
最近、ニュースで人が見えなくなる病を患って療養していた人がいきなり失踪するという事件が多く起きているという話を耳にしていた。
おそらくこれがそれなのだろう。
...そうだとしてもここはどこだ?
とりあえず俺は斜面に沿って上方向...だと思う方向へ登っていくことにした。
ずっと薄暗い森を寝た時のままの恰好、つまるところはだしで歩いていると、数分もしないうちに足に限界が来た。
「_いてえ」
足の裏を見てみると土に交じって、血が出ている。
こんなことになるのであればせめて靴下でもはいて寝るんだった。
そんなどうしようもない後悔を胸に抱えつつ、ろくに動くこともできないで近くの木に寄り掛かった。
_どうしろっていうんだ。
葉と葉の隙間から差し込む光を見つめていると、どこからともなく不安と恐怖がわいてきた。
後のことを考えれば考えるほど、息が荒くなっていく。
そうして、じっとしているのが怖くなってきて後のことも考えずにその場から走り出してしまった。
パチパチやらしゃらしゃらやら音を立てながら、服が引っかかるのも気にせずにただ走った。
しばらく走ると、木々がはけてあたりを見渡せる小高い場所にたどり着いた。
「ハハ、なんだよ_コレ」
木々の隙間から見えた景色。
それは木々の生い茂る森とその先にあるどこまでも続く真っ黒な海のようなものだった。
雲一つない空は青ではなく金色に輝いていて、直視できないほどにまぶしかった。
「_」
その風景は一言、きれいと表現するのがピッタリだと感じたが、それと同時にとても怖かった。
胸のあたりをクイッと持ち上げられたような感覚が俺を襲う。
この場所がよく見知ったところとは全く違う、どうしようもないほどに遠い場所だと気が付いて俺はその場にへたった。
そして、俺はあきらめるようにゆっくりと目を閉じた。
人が消える病 mackey_monkey @macky_monkey
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