第2話 殻

人が見えなくなってからしばらくの時間がたった。

駅で発症した日はどうすることもできないままホームに座っていると、急に何かに引っ張られ、そのままタクシーに押し込まれた。

それから数日は家族に手を引かれながら外を歩いてみたりした。

しかしこの病の見えなくなる範囲はまちまちのようで、場所や日によってわずかに変わり、ひどい日は車も、自転車も、動物さえも見えなくなる。

そんな状態だから危ないということで、俺はいま自室に押し込まれていた。


いつものようにパソコンの画面の前で時間をつぶしていると、部屋の扉が開く。

しばらくしてから扉のほうを振り返ると、おぼんとそれに乗った食事、そして紙が置いてあった。

紙には「食事は後でとりに来るから、いつものように食べ終わったらここに置いておいて」と書いてあり、最後に「たまには勉強もしたら?」と付け加えられていた。


こんな状態で勉強をして何になるんだと思いつつ、近くに用意されたペンで紙に”いつもありがとう、勉強はそのうちやる”と書いてそのばに置き、食事だけをもって机に移動した。

そうやって食事を終えると、おぼんをもとの位置に戻して目的もなくネットを漂う。


ネットの記事によるとあれからもずっとこの病の患者は増えているが、解決法は何もわかっていないらしい。

一通りニュース記事を読んでから、いつものように自称人が見えなくなる病になったという人たちの集まる掲示板を訪れた。

けっして書き込みをするようなことはなかったが、他人のやり取りを見るだけでなぜだか心が安らいだ。

そこに書き込まれている内容のほとんどが、この病になって安心しただとかいうものとそれに賛同するものばかりだったが、それと同じくらいに寂しいだとかいう内容の書き込みもあった。

そんな画面を一通り見ると、することもない俺は寝転がって目を閉じた。

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