人が消える病

mackey_monkey

第1話 人が見えなくなる病

世界には人が見えなくなる病があるらしい。

それはある日突然に発症するのだとか。


こんな話を耳にするようになったのは確か一年ほど前からだった。

動画サイトやらブログやらで取り上げられているのを見て、そんなものもあるのかと他人事のように思ったのを覚えている。

この病の話が出始めたころは、本当にあるのかも分からない都市伝説のような扱いだったと思う。


それでも時間がたつにつれ徐々にその病も広まっていき、いつからかテレビや新聞には毎日のようにその話題が取り上げられるようになっていた。

その頃には日本でも患者がかなりいたと記憶している。

ネットではかなりの盛り上がりを見せていたが、日常生活にはさほど影響がない。

そんな日々が続いていた。


そんなある日だった。

いつものように学校からの帰り道、人気のない駅の通路を歩いていた。

遠くからは誰かが改札を通るピッピという音が絶え間なく聞こえてくる。

少しすると何とも言えない違和感を覚えた。


いつもと同じ景色ではあったが、何かが”合っていない”そんな気がした。

歩く速度を緩めて左右をちらりと確認するが、やっぱりいつも通りのこぎれいな通路があるだけだった。

勘違いだと自分を納得させ、そのまま駅のホームへ降りた。


生ぬるい熱気に包まれたホームはいつもと違い、閑散としていて誰一人として人がいなかった。

ただただ自分の心音が耳元でなっている。

唖然としながらゆっくりと歩いていると、急にガタンという音が横の自販機から聞こえてきた。

驚きつつ自販機のほうを向くがやはり誰もいない。


誰もいないホームで線路を背に自販機を見つめていると、次はガーという音とともに強い風が背中を押した。

振り向くと電車がちょうど駅に入ってきたところだった。

電車の扉が開くが誰も出てこない。

扉をじっと見つめ、窓から中を眺めるがやはりそこにも誰もいない。

耳が熱をおび、心臓の音がどんどんと近くなる。

何をすることもできないでその場できょろきょろとしていると、電車のとびらは閉まり、ホームから発車していった。


まるで異世界にでも迷い込んでしまったような、興奮と不安を感じながら恐る恐る近くのベンチまで移動し、腰を掛けた。

そこでポケットから携帯を取り出して母に電話をかける。

耳に当ててじっとしていると、しばらく呼び出しの音がなったあと、電話がつながった。

が、何も聞こえることはなかった。

口をぎゅっと結びながら恐る恐る画面を確認する。

かすかにふるえる画面には確かに通話中の文字が出ている。

俺はふうと深く息を吸って、目をつぶりながら通話を切った。


それからずっとなり続ける着信を無視し、震える指で急いで文字を打ち、それを送った。


『人が見えなくなる病なった』

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