第3話 人を殺す魔法

 AH27年


 海辺の街についたフリーレンとフェルン


フリーレン 「じゃあ手分けして、旅の物資を集めようか?」


フェルン  「手分けって、必需品ほぼ私ですよね?」


フリーレン 「薬草…とかだよ」 


フェルン  「あっ、私に何か隠してる顔だ。これ」


 回想シーン

 服だけとかす薬を買うフリーレン。←フェルン「返品して来なさい!」


 ということで、フェルンはフリーレンを尾行することにします。


 アクセサリーを、いつになく真剣に選ぶフリーレン。

 それから、酒場の荒くれ者たちに美味しいスイーツの店を聞くフリーレン。


フェルン  「いやいや。明らかにスイーツの店、聞ける場所じゃないでしょ」



荒くれ者1 「スイーツの店だぁ? 舐めてんのか?」


フェルン  「ごくり」



荒くれ者1 「この街には、うまいスイーツを出す店が山のようにある。いくらでも教えてやるぜぇ」


フェルン  「ここ、スイーツについてきける場所だったんだ」


 フェルンの「ごくり」が唾を飲み込む音じゃなく口頭だったり、荒くれ者が意外にもスイーツが好きだったり親切だったりするギャグ、なんか好き。


 フリーレンは宿に戻ったのでフェルンも宿に戻ります。


フリーレン 「たまには甘い物でも食べに行こう!」


 海辺の高台。眼下の夕日に照らされた街並みは絵画のごとく美しい!


フリーレン 「いい眺めだね。おすすめなだけはある」


フェルン  「フリーレン様、疑ってすいませんでした」


フリーレン 「ん?」


 フェルンはフリーレンだけがこっそり1人でスイーツを食べに行こうとしてると思っていました。

フェルンは、もう何ヶ月も甘いものなど食べていないのに。


フリーレン 「どれでも頼んでいいよ」


フェルン  「お金は大丈夫なのですか?」


フリーレン 「へそくりが、あるからね?」



フェルン  「フリーレン様はどれになさいますか?」


フリーレン 「そうだねぇ。今日の気分は……」


フェルン  「メルクーアプリン、ですよね」 


 回想シーン。


 勇者一行の好きな食べ物が分かります。


 ヒンメルは、ルフオムレツ。

 アイゼンは、葡萄。酸っぱいほどいい。

 ハイターはもちろん酒。


 ハイターだけフリーレンに好きなものを把握されていることに「えへっ」と照れたところが気持ち悪い。

そして、フリーレンが〝葡萄を酸っぱくする魔法〟を習得しているのは、アイゼンのためだと分かるところもポイントが高いです。


フリーレン 「フェルン、ごめん」


フェルン  「何故謝るのですか?」


フリーレン 「私はフェルンのこと、なにもわからない。だから、どんな物が好きなのか分からなくて……」


 箱を渡すフリーレン。


フェルン  「そういえば、今日は私の誕生日でしたね」


 箱を開けるフェルン。


フェルン 「あ、綺麗な髪飾り……ありがとうございます。とても嬉しいです」


フリーレン 「本当に?」 


フェルン  「フリーレン様は、本当に人の感情がわかっていませんね」


 フェルンが微妙に失礼。というか、率直。それだけうちとけてきたのだろう。


 次の日。宿を出て次の地に向かう旅路の中。


フリーレン 「しかし、ついに背も抜かされてしまったか」


 フリーレンが自分より背が高いフェルンにめいいっばい手を伸ばして頭を撫でているのがエモい。フリーレンがハイターに頭をポンポン撫でられていたのも関係しているか?


フェルン  「もう16ですからね。お姉さんですっ」


 得意げなフェルン。


フリーレン 「お姉さんかぁ」


 フェルンの胸を見るフリーレン。


フリーレン 「食べてる物はほとんど同じはずなのになぁ。不思議だ」


 フェルンの成長速度は目を見張るものがあります。特に胸の辺り。対するフリーレンは、ほぼまな板。これが種族差というものか?


♠️

 AH27年。中央諸国、クレーゼ森林


フェルン  「ここが目的の村ですね。また変な魔法の集収ですか?」


フリーレン 「いや、今回は違う」


 村人が集まって何かを話し合っている。


フリーレン 「ちょと聞きたいことがあるんだけと」


村人1 「もしや、フリーレン様ですかな?」


フリーレン 「何で知ってるの?」


村人1 「クバールの封印場所ですよね? ご案内します」


 かつて勇者一行が封印した腐敗の賢老・クバール。もうすぐその封印が解けるころだからフリーレンは村にやってきたのである。


 封印するしかなかったのは、クバールが魔王軍でも屈指の魔法使いだったから。勝てなくて封印するしかなかった。この地方では、冒険者の4割・魔法使いの7割がクバールに殺されたという。


フリーレンいわく、「クバールは強い。いや、強すぎたんだ」


♠️

 次の日


フリーレン 「封印を解くよ。油断しないようにね」


 封印を解くフリーレン。


 クバールの体躯がっしりしていて、その体長はフリーレンの3倍から4倍ほどもある。その姿は、白髭を蓄えヤギのような角がはえた白老鬼といった感じ。その顔には、縄文人の入れ墨みたいな紋様もある。


クバール  「久しいのぅ、フリーレン。何年たった?」


 声は静かだが、重厚で威厳に満ちている。一言一言が聞くものの腹に響くよう。


 クバールとは、ドイツ語で〝苦悩〟とか〝苦痛〟を意味する。〝苦痛〟を与えられるのは、対戦する相手の方であろうが。


フリーレン 「80年」


クバール  「たった80年、かぁ」


フリーレン 「私達にとっては、ね」


クバール  「魔王様は?」


フリーレン 「殺した」


クバール  「そうかっ! では……敵討ちと行こうか、のぅ」


 ゆっくりとフリーレン達に向かって腕を伸ばし、クワッと開かれるクバールの掌。敵討ちと言う割には、復讐心とかの激情はこもってないように思える。無いのだ、そんな物。


フリーレン 「フェルン、前方に防御魔法」


クバール  「【ゾルトラーク】っ!!」


 放たれるは、漆黒の閃光呪文。大地がごっそりと削られます。巻き上がる粉塵は、一瞬、あたりが何も見えなくなるほど。



 粉塵が治ったときに見えたのは……。



 青い亀甲紋様の防御シールド。


クバール  「ほう…驚いた……ゾルトラークを防ぐとは。……ずいぶん…高度な防御術式じゃ、のぅ?」


 クバールは目を細めて感心する。


 なんで目の端を縫い付けているの? 魔族の風習??


フェルン 「フリーレン様、これは…どういうことですかっ? あれは、【一般攻撃魔法】です」


 ゾルトラークがに驚愕するフェルン。しかも、普通の防御魔法で。


フリーレン 「あれが【ゾルトラーク】。奴が開発した、いわゆる〝人を殺す魔法〟だよ」


 かつて、あらゆる人間の防御魔法も防具も貫通することから〝人を殺す魔法〟とまで言われた画期的な魔法——【ゾルトラーク】。今では、一人前の魔法使いなら誰でも使え、防げる〝一般攻撃魔法〟と化してしまったようです。


フリーレン 「80年は人間にとって、相当長い時間らしい。クバール、大人しくしていれば楽に殺してやる!」


クバール  「なるほど。……なるほど、のぅ……」


 掌に、亀甲紋様の防御結界を展開してみせるクバール。

人間の何年もの研究を一瞬で模倣してみせたのです。

それは、紛うことなき鬼才。魔王軍随一の魔法の使い手の面目躍如です!


クバール  「攻撃魔法に同調し、威力を分散させる仕組みか。……複雑な術式じゃ、のぅ。魔力の消費も、さぞ、辛かろぅ!」


 厳かに言いながら、魔力を高めるクバール。その魔力は、天にとどきそう。そして、多重に展開されたゾルトラークは天空に輝く幾多の星屑のようです。

 


フリーレン 「防御魔法の弱点にきずかれた! フェルン、対処できるよね?」


フェルン  「はい。練習でもう見ましたから」


 フリーレンは、フェルンにクバールが次にどんな攻撃を仕掛けてくるか予測した修行を課してました。

 それは、【ゾルトラーク】の飽和攻撃を面や全包囲ではなく点で受けるもの。全周に防御魔法を張り続けるのは、魔法力の消費が激しすぎて一瞬で魔法力が尽きてしまうからです。



フリーレン 「じゃあ、私の分も防御、お願い」


フェルン  「はい!」


 一瞬のうち合わせ。

 それは、フリーレンのフェルンに対する信頼の証。


 多重に展開された【ゾルトラーク】の魔法陣。そこから雨アラレのようにフェルンに降り注ぐ絨毯爆撃。いや、飽和攻撃というべきか? 米軍か??


 フェルンは、全周囲から降り注ぐ飽和攻撃を的確に点で防御していきます。


 ニヤリと嗤うクバール。さらに連射速度を上げていきます。


 パリンと割れる、防御魔法。


クバール (とどめだ!)


 フェルンの防御が限界と見たのか、ここぞとばかりにクバールが放つ1本の極太ビーム。

 それに対して、多重結界で対処するフェルン。


 一瞬の駆け引き。

 フェルンが防御を崩して見せたのは、わざとだろう。


 拮抗する極太ビームと多重結界。

 とはいえ、フェルンの魔法力も無限ではない。

 (そろそろ、きついだろう)と判断したのか、フリーレンはある魔法を使う。


クバール 「ほう、飛べるのか! 面白い!!」



 【飛行魔法】。


 人間が飛べるとは思ってなかったのか、ニヤリと笑って攻撃対象をクバールの体長よりはるか上に飛び上がったフリーレンに移す。


フリーレン 「【ゾルトラーク】」


 フリーレンが天空から放つは、【ゾルトラーク】。腐敗の賢老が生涯をかけて開発した魔法。

ただし、フリーレンが対魔族用に改良した、より強力なものであり……。


 同じく【ゾルトラーク】を放とうとしていたクバールには防御できない。


 クバールを貫通するフリーレンの【ゾルトラーク】。


 貫通? いや、するクバールの胸から下。


 この撃ち合い、おそらくクバールが【ゾルトラーク】を撃てていても、フリーレンは防御できただろう。

 負けたのだ。かつて勇者パーティーが4人がかりで封印するしかできなかった圧倒的な強者がエルフの魔法使いに完膚なきまでに! 攻撃でも、防御でも。


 おそらく、一対一でもフリーレンはクバールに完勝できた。

 防御をフェルンに任せたのは、経験値を積ませるためだろう。防御魔法の習熟は魔法使いの生存率を格段にあげるから。弟子思いのいい師匠です。


 それにきちんと答えるフェルン。ていうか、フリーレンとハイターが求める〝一人前の魔法使い〟の水準の高さよ!


クバール 「フリーレン、儂の魔法を……」


 魔族は死ぬと消滅するようで、残る胸から上も消えて行きます。


 フリーレンの修行についていき、戦闘中に魔族の中で随一と名高い魔法使いであるクバールと駆け引きしてみせるフェルンもすごいですが、クバールもそれをはるかに超える成長速度を示しました。

フリーレンがそれを見越して、とどめを刺さなければフェルンは魔法力がつきて負けていたでしょう。 

 フェルン、フリーレンがクバールにとどめを刺した時、疲労困憊で片膝ついてるんですよね。


 魔王を倒した人間界最強集団の一角であるハイターとフリーレンが手塩にかけた天才少女をも、クバールの才覚は大きく上回っていたのです。

 人類の80年の研鑽をクバールはたった一度の戦闘で覆すところだった。ここで倒しきれなかったらクバールはまた災厄級の脅威になる、そんな確信のもてる戦闘だったのです。


 クバールの格を落とさず、フェルンを成長させるためのフリーレンの確かな手腕も見せる、すごい戦闘シーンでした。

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