第2話 別に魔法じゃなくたって

 川で釣りをするフリーレンとフェルン。晩御飯かな?


 フリーレンはドイツ語で〝凍る〟。フェルンはドイツ語で〝遠い〟を意味する。

 〝遠い〟とは、長距離魔法を必死で覚えるフェルンを表しているのだろうか?


フリーレン 「えーとね……。長距離魔法は魔法使いに必須な3つの要素の合わせ技で構成されているんだけど。一つは魔力の量とそれを打ち出す力の強さ、そして、コントロールする力。ここまでは知っているよね?」


フェルン 「はい」


フリーレン 「さっきは途中で魔法が離散してしまったね。魔力の量と打ち出す力の強さが足りないことを示している。それは一朝一夕でどうにかなる事じゃない。才能に関わらず何年もかけていかなければいけないよ」


 また俯くフェルン。


 フリーレンの竿にかかる魚。釣竿のしなり、フリーレンの重心移動的な動きなどから、大物であることがわかる。


フリーレン 「けど、魔力をコントロールする力はとても高いみたいだね。みんなそこで手こずるんだけど…その心配は無さそうだ。気長に取り組むことだね」


フェルン 「はい」


フェルンには、時間などないのだ。



♠️

 晩御飯。

 サラダと鮭のソテー(?)とホワイトシチュー。

むっちゃ、うまそう。僕も今日、同じメニュー作ろうかな?


 それはともかく……フリーレンが釣った魚は鮭っぽいなにかだったのだろう。

 3人で談笑しながら食べる姿は、まるで仲の良い擬似家族。


 季節はうつろい、みんなで水浴びしたり魔法の修行をしたり魔導書の解読したりする日々。

 晩御飯時、ブロッコリー(?)をポイポイ自分の皿からフリーレンの皿に投げ入れるハイターがシュール。


(おいこら、この生臭坊主! 子供の前で堂々と好き嫌いをするんじゃありません!!)


 そんな、ある日。


ハイター 「フェルンの修行は順調ですか?」


フリーレン 「常人なら10年かかる道のりを4年で超えた。あの娘は打ち込みすぎだ。あまりいいことじゃない」


ハイター 「最近、ずっと森に引きこもりきりですからね。…それだけ魔法が好きなのでしょう」


フリーレン 「それでも一人前になるのはまだ先のことだ。魔導書の解読の方が早く終わるよ」


ハイター 「そうですか」


フリーレン 「ねぇ、ハイター。この魔導書だけど……。多分」


 バタン。ドテッ。カラン。


フリーレン 「ハイター?」


 ハイターが倒れた。


♠️

 窓を叩く風と雨音。外は嵐か? 風見鶏がぐるんぐるんまわっています。


 ベッドに横たわるハイター。


ハイター 「そんな顔をしないでください。今までまともに動けていた方が奇跡だったのです」


フリーレン 「魔導書の解読、急ぐよ」



ハイター 「お願いします」


 この場面、フリーレンはハイターにおそらく気を使っています。

 ハイターが倒れる直前に言おうとしたことを飲み込んで、かわりに「解読を急ぐよ」って言ってますから。

 人の生死に鈍感なエルフには、至って珍しいこと。



♠️

フリーレン 「フェルン、修行は中止だ。ハイターが倒れた。側にいてやってくれ」


フェルン 「……まだ一番岩を撃ち抜けておりません」


 一番岩を魔法で撃ち抜くために崖の上に佇むフェルンの声色は、沈んでいると同時に震えている。感情を滅多に表に出さないフェルンには、これまた珍しいことに。


フリーレン 「それは、いずれ必ず出来ることだ。今は…」


フェルン 「いずれでは、ダメなのです!」


 感情的に叫ぶフェルン。


フリーレン 「うん?」


フェルン 「いずれではっ! ハイター様が死んでしまう!!」


フェルン 「私は、あの方に命を救われましたっ」


 回想シーン


 ペンダントの中の家族の絵(写真?)を眺めながら、崖の上に佇む幼いフェルン。


フェルン 「はぁ」


 ペンダントをぎゅっと握りしめ、決意を固める。フェルン。その決意とは、崖から飛び降りようとするものだということは明白。


ハイター 「今、死ぬのはもったいないと思いますよ?」


フェルン 「ふぇっ?」


 後ろを振り向くフェルン。その声には感情がこもっている。今の感情を抑えがちな彼女とは明らかに異なる反応。可愛い声。


フェルン 「もったいない?」


 酒瓶を持って、岩の上に座っているハイター。酒瓶は栓も抜かれず酒は満タンのままです。


ハイター 「もう随分前になりますか、古くからの友人を亡くしましてね。私とは違って、ひたすらに真っ直ぐで困っている人を決して見捨てないような人間でした。私ではなく彼が生き残っていれば、多くの者を救えたはずです。私は彼とは違うので大人しく余生を過ごそうと思っていたのですが、ある時ふと気がついてしまいまして。私がこのまま死だら、彼から学んだ勇気や意志や友情や大切な思い出までこの世からなくなってしまうのではないかと」


フェルン 「ああ」


 回想シーン。


 ハイターの元を訪れている、フェルンと両親。フェルンは少し前にハイターと会っていたようです。


ハイター 「あなたの中にも大切な思い出があるとするなれば、死ぬのはもったいないと思います」


 ペンダントを握りしめるフェルン。


♠️

フェルン 「ハイター様はずっと、私を置いて死ぬことを危惧しておりました。あの方は救ったことを後悔して欲しくない。魔法使いでもなんでもいい。1人で生きていく術を身につけることが私の恩返しなのです。救って良かったと、もう大丈夫だと、そう思って欲しいのです」


 このセリフ、〝正しいことをしたのです〟に引っかかったのは僕だけでしょうか?

 〝正しいこと〟っていうのは主観的な言葉で、この世に絶対正しいことなど無いというのが僕の考え方。


 フェルンを救ったことは、フリーレンからしてみれば〝ハイターらしくない行い〟です。

 当のハイターからすれば、〝死んだ幼馴染を思った感傷的な行い〟かもしれません。

 この行為に対して〝正しい〟とは、フェルンが幼なく、硬直的な思考の持ち主であると感じました。ハイターにたいする盲信。〝盲信は理解からもっとも離れた物〟なのです。

 いや、ハイターに心労を残さないようにと必死に努力するフェルンの姿は健気で思いやり深く、尊くもあるのですが……。


フリーレン 「私が教えたことは、全部覚えているよね」


フェルン 「はい」


フリーレン 「じゃあ、好きにすればいい」


 静かにきびすを返すフリーレン。


 フェルンは、フリーレンの背中を見送りながらにっこりと微笑みます。


 これは、おそらく……フリーレンがフェルンはハイターの側で看病すべきという考えをフェルンの意志を尊重して撤回したからだと思われます。フェルンは、フリーレンのそういう変化を好ましく思ったのでしょう。(この人は、自分を尊重してくれた。いい師匠だな。人間と時間感覚や死生観はかけ離れているけれど……)って。

 フェルンがフリーレンに心を開いた瞬間です。



 この時を境に、フリーレンはフェルンが楽しめるような修行(フェルンが魔法を大好きだと思っていたから)をつけることを辞めて、ある意味放置し出します(修行の要点はすでに十分伝えきってるし)。


 そして……


 本の解読にひたすら打ち込むフリーレン。

 1人で必死に修行を励むフェルン。


 月日は、流れ……。


 崖の淵を踏み締めるフェルン。


 展開される魔法陣。収束していくビーム。千の葉が舞うマッドシティ!←俺妹おれいもネタです💦



 バサっ。

 投げつけられる紙の束。

 場面は変わり、ハイターの寝室。


ハイター 「あっ!?」


フリーレン 「死者蘇生の魔法も不死の魔法も書かれてなかったよ」


ハイター 「そうですか?」


フリーレン 「知っていたの?」


ハイター 「死への恐怖は計り知れないものです。そんな物があるなら、エイビッヒ自身が使っていたことでしょう」


フリーレン 「じゃあ、何故?」


ハイター 「フェルンはどうなりましたか?」


フリーレン 「まだ荒いところはあるけど……。一人前といって遜色のないレベルだよ?」


ハイター 「ふっ。そうですか…間に合いましたか」


 悪い雰囲気のハイター。


フリーレン 「ん?」


ハイター 「もう足手まといではありませんねっ。フリーレン?」


フリーレン 「あっ」


「足手まといになるから」と言って、フェルンを旅に同行させることを拒んだフリーレン。


フリーレン 「計ったな? ハイター」


 病床のハイターを覗きこむ。


ハイター 「ふっふっふっ」


 何かを企んでいるようだったハイター。その企みは、フェルンを生贄とかにして自分が生き延びようとするような邪悪な物ではなく、フェルンとおそらくフリーレンのためを思っての物だったのです。いや、最初からそうだろうと思ってましたけどね!


ハイター 「解読の手間賃は机の引き出しに……。今夜にはここを去ってください」


フリーレン 「なんのつもり?」 


ハイター 「見てのとおり私はもう長くはありません。私はもうあの娘に誰かを失う経験をさせたくは無いのです。フリーレン、あの娘を頼みましたよ」


フリーレン 「また格好をつけるのか? ハイター」


 フリーレンの言葉からは怒りが滲み出ている。


ハイター 「ん?」


フリーレン 「フェルンは、とっくに別れの準備ができている。お前が死ぬまでにやるべきことは、あの娘にしっかりと別れを告げて、なるべくたくさんの思い出を作ってやることだ」


 幼い頃とは違い、無表情なフェルン。多分、必死に育ててくれたハイターとの別れの恐怖と戦っていたのだろう。


ハイター 「フリーレン。あなたはやはり優しい娘です」


フリーレン 「ねぇ、なんでフェルンを引き取ったの?」


ハイター 「勇者ヒンメルならそうしたからです」


フリーレン 「じゃあ、私もそうするかな?」


♠️

 ゴーン、ゴーン。


 教会の鐘の音。


 キュポ…


 墓場。酒瓶の栓を抜き、ドボドボと酒を墓石の上からかけるフリーレン。

 

(こらこら、この行為は……)


フェルン 「ありがとうございました。おかげでハイター様に恩をかえすことができました」


フリーレン 「私はただ、してやられただけだよ。……この生臭坊主に!」


 2本目の酒瓶をあけて、また墓石の上からドバドバドバ。

 この行為、よくアニメで見かけますが……実は、NGだとご存知でしょうか?

 墓石の上からお酒をぶっかけるのは、死者の頭から酒をぶっかけるのと同意で無礼です。水をかけるのは良いらしいですが。


 ハイターは、「」と言っていたのであって、「墓石にぶっかけろ」とは言っていません。おそらく意図的にやっていますね(苦笑)。フリーレンは、「してやられた」って言ってるし。多分、フリーレンなりの意趣返し。あと、いつも無遠慮に髪を撫でられていたことも関係しているかも。こういう演出、細かいです。

 

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