第10話 元には戻れない

 体と心の間で揺れ動いていた。隼人との関係は体的な快楽をもたらしたが、心は常に友への思いに引き裂かれていた。


 隼人と過ごした後の日々、私は自分の感情に混乱していた。彼との時間は熱狂的で、新しい自分を発見できた。しかし、そのすべてが終わると、私の心は罪悪感で満たされた。


 友との関係は、安心感と深い絆で結ばれていた。彼と過ごす時間は、穏やかで心地よかった。でも、隼人との激しい関係を経験した後、友との関係が物足りなく感じられることもあった。


 友は私の心の中で特別な存在だ。私たちは多くの思い出を共有してきた。でも、隼人との体験は、私に別の世界を見せた。それは友とは異なる、刺激的な世界だった。


「どうすればいいの……」


 私は自分自身に問いかけた。私の心は、快楽を求める一方で、友への愛情と罪悪感に苛まれていた。


 誰にも相談できないほどの複雑な感情に苦しんでいた。こんな恋愛のこと、家族や友達に話すことなんてできない。


 家族の中では、私はいつも期待されていた。両親からは褒められることが多く、それが私にとってのプレッシャーにもなっていた。そのプレッシャーに応えようとする自分は、徐々に疲れ果てていた。


 そんな時、いつも優しく相談に乗ってくれたのは友だった。彼は私の話を静かに聞いてくれ、心に寄り添うような励ましをくれた。今回も、もし友がいたら、彼はどう助けてくれただろうか?でも、もう友はいない。私が自分から彼を裏切ったのに。


「あ……」

 と声が漏れた。


 私は携帯を取り出し、友とのメッセージのやり取りを見返した。私たちの会話は、いつも温かく、幸せなものだった。今見ると、その幸せが痛切に感じられた。


 私は部屋の片隅で、一人、過去のメッセージを見つめていた。友との思い出が、心を締め付けるようだった。私はなぜ、こんな選択をしてしまったのだろう?


 私の心は、過去と現在の間で揺れていた。隼人との新しい関係は刺激的だけど、友との関係がもたらした安心感と愛情は、今でも私の心の中に残っている。


 私は涙をこらえながら、友とのメッセージを読み返した。彼の言葉一つ一つが、今は遠い思い出のように感じられた。私はまだ、自分の心と向き合い、答えを探し続けている。


 私は最後に送ったメッセージをじっと見つめた。


 それは、「ごめん、身勝手かもしれないけどもう一度話がしたい」というものだった。


 私はそのメッセージを見て、軽く笑った。なんでこんなことを送ったんだろう。自分から別れを告げて、最低な行為をしたのに。


「馬鹿で強欲な女……」


 私は自分自身につぶやいた。体も心も満たしてくれる男を求めて、結局、自分自身を見失っていた。才色兼備で可愛くて、周りから羨ましがられる私だけど、実際は脆くて弱い。


 そして、妹の絵里を思い出した。彼女は私とは違う。何にもできないかもしれないけれど、強い。それは私が一番よく知っている。


 絵里は私のことをどう思っているのだろう? 彼女は私の弱さを見抜いているのかもしれない。私は自分自身に嘘をつき続け、結局、自分を見失ってしまった。


 私は深くため息をついた。友への思い、隼人との関係、そして自分自身への疑問。これらすべてが私の心を重くしていた。



 友からの返信はなかった。メッセージに既読マークがついていない。当然だろう。私が彼を裏切った後、彼が私のメッセージに反応するはずがない。でも、私はどこかで彼がいつかそれを読んでくれることを望んでいた。だから、これ以上は何も送らないと決めた。


 携帯の画面が真っ暗になると、心に大きな穴が空いたような感覚がした。その瞬間、私は自分の体が疼くのを感じた。異常な性欲が私を襲った。


 携帯を手放し、私は自分の手で自分の身体を触り始めた。


「あん……」


 小さな喘ぎ声が静かな部屋に響き渡った。私は自分の思うままに、その欲求を解消した。


 全てが終わり、体中の力が抜けた瞬間、私はぽつりとつぶやいた。

「何をやっているんだろう……」


 蕩けた表情のまま、私は再び携帯を手に取り、隼人にメッセージを送った。


「今から会える?」


 私は自分が最低だと分かっていても、もう引き返せなかった。隼人への依存、友への未練、そして自分自身への戸惑い。これらすべてが私の心を支配していた。


 私は自分の感情と向き合い、自分自身を見つめ直そうとした。でも、その答えはまだ見つからない。私の心は、快楽と罪悪感、迷いと決断の間で、答えを探し続けている。

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