第4話 逃げないで下さい 先輩?
深夜のリビングで、俺は一人、深く悩んでいた。絵里ちゃんが帰った後、部屋の静けさが俺の葛藤をより深くしていた。
亜美への想いはまだ心の中に残っている。一緒に過ごした時間、共有した喜び、そして突然の別れ。それらが時折、俺を苦しめる。
それに、絵里ちゃんとの出会いもある。彼女は亜美とは正反対で、明るくて前向き。でも、彼女の強い愛情表現には圧倒されるばかりだ。どう向き合っていいのか、まだわからない。
「俺はどうすればいいんだ……?」
俺はつぶやいた。絵里ちゃんの強い感情と、自分の未練が心の中で交錯している。
窓の外を見つめながら、俺は深く考え込んだ。亜美との過去をどう乗り越えるか、絵里ちゃんとの関係をどう築いていくか。頭の中は、解決策を模索していた。
「亜美のことは、もう過去のこととして捨て去るべきなのか?それとも……」
でも、答えは簡単には出なかった。
夜は更けていく。俺の心の中の悩みは深まるばかりだった。絵里ちゃんとの関係、そして亜美との過去。すべてが、俺の心を揺さぶり続けていた。
深夜1時、俺はベッドに入ろうとしていた。亜美のこと、絵里ちゃんのこと、頭の中は混乱していた。これからどうすればいいんだろうと思っていると、突然インターホンが鳴った。
「こんな時間に誰だよ……」
と思いながら、俺は玄関の扉を開けた。そこに立っていたのは、なんと絵里ちゃんだった。
「先輩……なんで逃げるんですか?」
彼女の声は困惑と心配が混じっていた。
俺は唖然として立ち尽くした。なぜ彼女がここにいるのか。夢でも見ているのか。俺の気持ちは追いつかない。
絵里ちゃんは、俺の驚きをよそに、強引に家に上がってきた。
「絵里ちゃん、こんな時間にどうしたの?」
混乱が収まらない。
絵里ちゃんの突然の訪問に、俺は驚きと戸惑いを隠せなかった。
「絵里ちゃん、こんな時間に来るって、どういうこと?」
俺はそっと尋ねた。
彼女は一瞬ためらったが、すぐに元気な表情を取り戻した。
「先輩、私、ただ先輩のことが心配で、心配で……」
俺は彼女の行動に不安を感じた。
絵里ちゃんのこの行動は、あまりにも突然過ぎる。
「絵里ちゃん、ありがとう。でも、これからはもう少し考えて行動してほしい。こんな時間に来るのは、ちょっと……」
深夜に女の子が家にやってくるなんて、ありえない。しかも、なんで絵里ちゃんは俺の住んでる場所を知っているんだ? 俺の恐怖はどんどん深くなっていった。
「絵里ちゃん、というか、どうしてここを知ってるの?
俺は彼女に問いただした。彼女の行動には、理解が追いつかない。
絵里ちゃんは少し困ったように笑う。
「えっと、それは……ちょっと調べちゃいました」
「調べたって……」
俺の心は混乱と不安でいっぱいだった。彼女はいったい何を考えているんだろう。本当に俺のことが好きなのか、それとも何か別の意図があるのか。
「絵里ちゃん、俺のことが本当に好きなの? それとも俺をからかっているの?」
俺は彼女の目をじっと見つめながら尋ねた。
絵里ちゃんは少し驚いたように見えたが、すぐに真剣な表情に変わった。
「先輩、私、本気です! 先輩のことが好きで好きでたまらないんです」
彼女の言葉は真剣そのものだった。でも、俺には彼女のこの強い感情が重く感じられた。好意を持たれるのは嬉しいが、絵里ちゃんの行動は俺にとって少し怖かった。
絵里ちゃんの言葉には、強い意志が感じられた。
「そうですね、でも私は姉と付き合っているときから先輩のことが好きでした……たまらなく。だから、今夜も悪いとは思いつつ、来ちゃいました」
彼女の手にはスーパーの袋があった。24時間営業の店で買ったのだろうか。そんなことはどうでもいいと思いつつも、「わざわざこんな時間に?」と俺は尋ねた。
「はい、先輩の好物のカレーを作りに来たんです」絵里ちゃんの声は明るく、彼女は台所に向かって言った。「台所、お借りしますね!」
俺はその場に立ち尽くした。小腹は減っているけど、こんな展開には驚きすぎて、お腹がいっぱいだ。でも、断るのもなんだか悪いし、頼むことにした。
「うん、いいよ。お願いします」
俺は仕方なく答えた。
絵里ちゃんは目を輝かせながら台所で働き始めた。その様子を見て、俺はふと亜美のことを思い出した。亜美にも何度か料理を作ってもらったことがある。その時の優しさと温かさが、今は遠い記憶だ。
亜美は料理が上手だった。いつも無言で、俺の好きなカレーを何度も作ってくれた。その甘くて優しい味は、今でも俺の心に残っている。
一方で、絵里は台所から聞こえる鼻歌交じりで楽しそうに料理をしているのが分かる。俺は怖いと思いながらも、リビングから彼女の表情を見ていた。彼女はとても嬉しそうにしている。その表情は、何かを訴えているようだ。
彼女が俺に執着する理由は未だに不思議である。正直言って、俺には彼女とは不釣り合いだ。亜美だって、俺にはもったいないほどの彼女だった。絵里も同じだ。彼女はモテるだろう。可愛くて、明るくて、気が利いて、一途だから。
そんなことを考えているうちに。
「はい、出来ましたよ!」
と絵里の声がした。カレーが完成したらしい。台所から出てくる彼女の手には、とても美味しそうなカレーが盛られていた。
俺はテーブルに向かい、彼女が作ったカレーを見た。見た目は亜美の作るカレーとは違うが、それでも美味しそうだった。
俺は絵里ちゃんの作ったカレーを口に含んだ。少し辛いけれど、うまい。彼女はご丁寧に水まで用意してくれていた。その優しさに、心が温かくなる。
カレーを食べながら、俺はふと亜美と一緒にご飯を食べた日々を思い出した。あの頃の幸せな時間。思い出すと、またもや涙がこぼれそうになる。
「また泣いているんですか? そんなに私のカレー美味しかったですか?」
絵里ちゃんが心配そうに俺を見ていた。
俺は無言で頷きながら、彼女が作ってくれたカレーを完食した。言葉が出なかった。ただ、彼女の料理に感謝する気持ちでいっぱいだった。
食後、絵里ちゃんから意外なことを告げられた。
「教えましょうか?」
俺は水を飲みながら、彼女の方を見た。
「何を教えるの?」と聞くと、彼女は微笑みながら答えた。
「姉と新しい彼氏さんの色々な事情についてですよ」
その言葉を聞いて、俺は驚きと興味を同時に感じた。亜美と新しい彼氏の事情?絵里ちゃんはどれほどのことを知っているのだろう。
「本当に?それって……」俺は言葉を探しながら、彼女の話に耳を傾けた。
絵里ちゃんはゆっくりと、しかし確信を持って話し始めた。彼女の口から出る亜美と彼女の新しい彼氏に関する話は、俺にとって新しい情報だった。
それを聞いて、俺の心はさらに複雑になった。亜美との過去、絵里ちゃんとの現在。そのすべてが、俺の心を揺さぶり続けていた。
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