第5話 全部記録してあるよ
部屋の中で、俺は深くため息をついた。絵里が去った後の静寂が、俺の心を重くしていた。亜美との過去、絵里との現在、そして、彼女の新しい彼氏のこと。これらについて聞きたくないと思いつつも、聞かなければ前に進めないこともわかっていた。
俺は勇気を出して、絵里に聞くことにした。彼女が手に入れた情報、亜美と彼女の新しい彼氏について。俺が知らない真実を知ることは、痛みを伴うかもしれないが、それが俺を前に進ませる唯一の道だった。
絵里ちゃんが次に来たとき、俺は決心を固めて彼女に言った。
「絵里ちゃん、亜美とその新しい彼氏のこと、教えてくれないか?」
絵里ちゃんは少し驚いたように見えたが、すぐに真剣な表情に変わった。
「はい、先輩! でも、辛いかもしれませんよ」
「大丈夫だ……俺は知りたい、それが俺のためになるんだから」
俺は彼女の目をじっと見つめた。
絵里ちゃんは静かに頷く。
「分かりました。では、お話ししますね」と言って、ゆっくりと話し始めた。
俺は絵里ちゃんの話を聞きながら、信じられない気持ちでいっぱいだった。彼女は亜美とその新しい彼氏のことを詳細に記録していたと言う。それだけではなく、証拠のビデオも撮ってあるという。
「絵里ちゃん、それは本当なのか?」
俺は彼女に尋ねた。彼女の行動は、俺にとって信じがたいものだった。
絵里ちゃんは頷き、「はい、本当です。先輩に知ってもらいたいと思って」彼女は彼女のスマホを取り出し、ビデオのファイルを開いた。
俺はそのビデオを見て、さらに混乱した。亜美とその新しい彼氏の日常が、詳細に記録されていた。彼らがどこに行き、何をしているのか。それすべてが、絵里ちゃんの手によって捉えられていた。
「絵里ちゃん、なぜこんなことを……」
俺は言葉を失った。彼女の行動は、ただの好奇心を超えていた。
絵里ちゃんは静かに言った。
「先輩が亜美さんと別れた後のことを知ってほしかったんです。それに、もし先輩が復縁を望むなら、私は先輩を全力でサポートしますから」
その言葉に、俺はさらに動揺した。復縁?そんなこと、俺には考えられなかった。亜美との関係はもう終わった。今は、絵里ちゃんとの新しい関係に向き合うべきだ。
「絵里ちゃん、ありがとう……でも、もう亜美のことは終わったんだ。俺たちは、これからを考えないといけない」
俺はそう彼女に伝えた。
絵里ちゃんは少し寂しそうにしたが、すぐに笑顔を取り戻した。
「わかりました、先輩。それでは、これからの先輩のために、私ができることをしますね」
絵里の話を聞いた後、俺はショックと混乱でいっぱいだった。彼女は亜美と彼女の新しい彼氏の親密なデートの詳細を知っていた。楽しそうな表情の亜美と、彼女の新しい彼氏が楽しく過ごしている様子が、俺の胸を痛くさせた。
新しい彼氏の名前は、絵里も知っていた。どこでそんな情報を得たのか、あえて聞かなかった。俺はただ、彼女が見せてくれたビデオに目を奪われていた。
ビデオには、俺の部屋が映っていた。一瞬、見間違いかと思ったが、確かに俺の部屋だった。そこには亜美が彼氏を連れてきて、行為に及んでいる生々しい記録が残されていた。
「これって……俺の部屋?」
俺は声を震わせながら絵里に尋ねた。どうやってこんな録画を手に入れたのか、色々と突っ込みどころがあったが、まずはその衝撃に対処しなければならなかった。
絵里は静かに頷き、「はい、先輩の部屋です。私、先輩に真実を知ってもらいたくて……」
俺はその場に座り込んだ。俺の部屋で、亜美と彼氏が……。その事実が、俺の心を引き裂いた。絵里が何を意図してこれを見せたのかはわからないが、この映像は俺の心に深い傷を残した。
絵里が俺の部屋を盗撮していたという事実。俺はそれを聞いていないが、それ以外に考えられなかった。どこにカメラが設置されているのかはわからないが、ただただ怖かった。
それ以上に、亜美と彼女の新しい彼氏が俺のベッドで行為に及んでいたという事実。その映像を見て、俺の胸は苦しみでいっぱいになった。吐き気がこみ上げてきて、思わず台所まで駆け込んだ。喉の奥で吐きそうになりながら、俺は必死にそれをこらえた。
リビングに戻ると、スマホからは新しい彼氏が亜美に。
「どっちが気持ちいい?」
と聞いている声が聞こえた。
そして、亜美は「あなたの方が気持ちいいのぉぉぉ!」と答えていた。
その言葉を聞いた瞬間、俺の心は完全に崩れ落ちた。俺との時間、あの思い出すべてが、一瞬で嘘のように感じられた。
俺はリビングのソファに座り込み、ただ茫然としていた。亜美との思い出が頭の中を駆け巡る。愛していたはずの彼女が、俺のベッドで別の男と……。その現実を受け入れることができなかった。
「なぜ……」と俺はつぶやいた。絵里ちゃんがこれを見せた意図はわからないが、この映像は俺の心に深い傷を残した。
映像を見た後、絵里は微笑みながら俺に言った。
「これが姉の本性です! わかりました? もう姉は先輩のことなんてどうでもいいらしいんですよ? 復縁って言いましたけど、考えない方がいいですよ? 姉は先輩より新しい彼氏さんの方がいいんですね」
その言葉は、俺の心にさらなる傷をつけた。男として、完全に侮辱されているように感じた。俺はその場に立ち尽くし、何も言えなかった。
絵里ちゃんの言葉は事実かもしれないが、それを聞いても何の慰めにもならなかった。俺はただ、失われた愛と裏切られた感情に苛まれていた。
「俺は……俺はどうしたらいいんだ……」と、俺は絶望的な声でつぶやいた。
絵里ちゃんは俺のそばに座り、「先輩、辛いでしょうけど、私がいますから」と言った。彼女の言葉には優しさがあったが、俺はその優しさすらも受け入れることができなかった。
俺はリビングのソファに沈み込み、心の中で亜美との思い出と絶望を繰り返し反芻した。俺の心は完全に壊れてしまったように感じられた。
絵里ちゃんはそっと俺の隣で見守っていたが、俺は何も感じることができなかった。失った愛の痛みと裏切られた感情が、俺の全てを覆い尽くしていた。
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