第5話 とりあえずの現状。

さて。どうやら俺は。

属性同人作家な俺が旅をしながら世界を彩色!

なーんてラノベみたいな事を現実にしないといけなくなったらしい。


「えー・・・」


春にもらった、退職金という泡銭で買ったちょっといいソファに寝転んで、チャラ神様がいなくなった天井を見つめる。


「マジかー・・・」


俺、死んだんだってさ。

全然実感ない。

だって普通にカラダあるし。喋れるし、お腹空くし、食えるし。・・・そういや昨日からトイレは行ってないな。

・・・・・。

えー・・・。


俺は三日月家の長男に生まれて、つーか一人っ子で。両親とじいちゃんばあちゃんがいて。祖父母にとって親父は遅くに出来た一人っ子で。更に俺は両親にとっても不妊治療の末に出来た待望の子供だったせいか、食事中のマナーとか基本的な躾は厳しかったけどそれ以外では俺は両親祖父母にもの凄く可愛がられて幸せに暮らしてた。

けど両親は俺が高校の頃に事故で亡くなって、一人息子とそのお嫁さんである母さんをいっぺんに亡くして意気消沈した祖父母の顔を見るのは辛かったな・・・。

その祖父母も俺が就職して2年目の時に相次いで老衰で亡くなった。二人とも百歳近かったし大往生でよかったけど、何も同じ年に逝かなくたってよくね?どんだけ仲良かったんだよ。

ばあちゃんが亡くなった次の日見つけた遺書を読んで俺は、それこそ干乾びるくらいに泣いた。

ありがとうとか、ごめんなんて俺のセリフだっつーの。

すんげえ可愛がってもらったのに、ロクに孝行も出来なくてごめんな。

そうして俺は、24歳にして天涯孤独になった。

じいちゃんが家族3世代一緒に住もうって言って小学校低学年の時に建てた家は一人暮らしには無駄に広くて、一時期帰るのが辛かった。衝動的にホテルに泊まったら枕が合わなくて眠れなくて、結局次の日には家に帰ったけど。

両親祖父母の保険金で変に浪費しなきゃ死ぬまで働かなくても暮らしていけるくらいの金だけはあって何のために働いたらいいのか分からなくなったけど一応副顧問だった美術部の女子に心配されて、こんな子供に心配されるのは大人としてどうなんだって、笑って「大丈夫だよ、ありがとう」と返しておいた。

それから数年、その高校の美術教師として働いて。

去年、2年から持ち上がりで副担任の予定だった3年のクラスの担任予定だった大先輩教諭に癌が見つかって急遽担任をやらされて。

副顧問とか副担任とか微妙な立場でのんびりやってた俺に受験生の担任なんて向かなかったと思い知った。

自由な校風を謳っているくせに偏差値だけは高い学校の生徒はほぼ100%の進学率で、自分じゃ分からなかったけどどうやら思ったより繊細だった俺はピリピリした生徒との距離感を上手く取れずに2学期の半ばに胃を壊し薬漬けになったが、それでも必死に受験生と向き合った。

毎朝キリキリ痛む胃を薬で宥め、耐えられなくなった2月に辞職願を出し彼らの卒業と同時、その年度末で仕事を辞めた。

運良く新卒で採用されて7年。俺は30手前で一般的な社会生活からドロップアウトした。


胃潰瘍という立派な(?)病気を抱え、療養を理由に暫く就職活動はやめてのんびりする事にした俺は、忙しくて暫く出来なかった漫画を描き始めた。

病気での退職の為、雇用保険やじいちゃんの勧めでいくつか掛けていた保険もいっぺんに下り、それプラス退職金で結構な額のお金が振り込まれて、暫く生活には困らなさそうな状況も創作の後押しをしたのだと思う。

そうして春からこの年末までは好きなだけ漫画や絵を描いて、暫く参加出来なかった同人イベントにも複数参加し薄い本も発行しまくった。いやもう、1イベント3冊新刊とか、過去最高記録よ。頻繁にイベント参加してた大学時代より描いたね。もう職業同人作家ってくらい。

さすがにいかんと思って来年度は就職しようと資料を集め始めたけど。

来年からは真面目に就職活動するから、年末ははっちゃけようとアリスなんかのコスプレで売り子してスケブ描いて。友達と楽しくハンバーグ食べて帰ってきて。

起きたと思ったら実は俺死んでて?

よく分からんまま目が覚めたら異世界って。


ソファの前にあるローテーブルには使えるのか分からないスマホが置いてある。

ロックを外しても誰からもメッセージは入っていない。

試しに奈々子に電話してみたがコール音どころか「お繋ぎできません」のメッセージすら流れてこない。

チャラ神様ちゃんと新刊渡してくれたんかな。

昨日のイベントの完売祝いでコスプレのまま撮った写真は開ける。

ミクちゃん、彼氏出来たから今度は彼氏も連れてくるって約束してくれたのに、会うどころか電話も出来なくなっちゃたよ。ごめん。

奈々子のバニーさん、10cm越えのヒールで俺より身長高くなってるけどやっぱ綺麗でカッコ良い。最高。

・・・あーあ・・・。こんな事なら好きだって言っといたらよかったな。

俺が胃潰瘍で仕事辞めたって言ったら心配して一番に家まで来てくれた。

最近は結構な頻度でお手伝いに入ってもらって昔よりずっと仲良くなって、うっかり好きになっちゃったけどプータローじゃカッコつかん!って告るのやめたんだよな。

もう会えないんだなー・・・。

なんかこんなの、フラれるより辛い。


くっそ、チャラ神め。リア充爆発しろ。

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