第4話 どちら様?

雲一つない爽やかな青い空、緑が眩しいメープル。サワサワと風が通る草原。時々見える百合の花。

うんうん。紛う方なき、俺の絵だ。

だがしかーしっ!

が今窓の外に見えるとしたら?


「・・・ええ?マジで?」


そんな事、さっきチラッと思ったけどさあ。


数歩歩いて窓の淵に手を掛けて見れば、空はどこまでも青く高く美しい。

原っぱには風が通り、青々とした草が波のように揺れていた。

堂々と聳え立つメープルもサワサワと気持ちよさそうに葉音を鳴らしている。


イメージした通りの景色が目の前に広がっていた。

しかし、少し視線をずらし家の建つ丘の向こうを見てみればまだまだ目立つ白。

というか、空と草以外はみんな白。

さっき地面からは見えなかったけれど、だいぶ向こうには家もあるっぽい。

四角い白いものが連なって見える。


・・・これって、俺がぬり絵したらまた景色に色がついたり・・・?


そんな事を思った瞬間だった。


「そうそれッ!ピンポンっ!ピンポンピンポンピンポーンっ!!」

「うわあああっ!誰っ!?」


ビックリし過ぎて窓枠を掴んでいた手が滑り、体半分窓からはみ出たところで慌てて少ない根性を振り絞って家の中に帰還。あぶねえっつーの!!


「誰だよ!!」


窓の下に座り込みながら振り向くと、そこには肩に付くぐらいの金髪ゆるふわパーマに青い眼の綺麗なにーちゃんが立っていた。


「・・・どちら様?」


カッコは古代ローマ時代の服が近いか?一枚布を左右の肩から掛けてそれを腰のベルトだけで押さえた、足もほぼ見えないロングワンピみたいなやつ。なんか色々刺繍とかしてあって社会で習ったそれよりかなり豪華な衣装だけど。


「神様ってやつかな」

「・・・」


第一印象。

チャラい。


「えー、そうかな?僕のカワイ子ちゃんはこのままの僕が好きだって言ってくれたんだけどな」

「・・・あっそう。」


うん。チャラ神様?


「チャラ神様?ヤバいウケる(笑)」


・・・・・。なんで思った事全部伝わってるんだろうね?


「それは僕が神様だからでーす」


チャラ。

これが神ってマジ?


「これがマジなんだなあ」

「・・・勝手に心読むのやめてもらえませんかね?」

「えー、無理♡」

「無理♡じゃないんですわ。気分が悪いんですけど」


別に大した事考えて無くても、アタマの中丸見えってちょっとイヤ。


「大した事考えて無いならいいじゃーん」

「だからソレをやめてクダサイって言ってんですよ!」

「僕の事一応神様だって認めてくれてんのね。敬語になってるし」

「気持ち悪くて得体のしれないヤツだと思ってマスよ!!」

「うーわ正直(笑)」


だってこいつ出てきた時からちょっと浮いてんだもん。存在も浮いてるけど、物理的に床から50センチくらいのとこでフヨフヨしてんの。


「あはは!存在も浮いてるって、ギャグみたい(笑)」

「・・・・はあ」


ヤバい、もうこいつに付き合いたくない。寝ていい?いや違う。起きていい?

こんな夢見てるって、絶対魘されてるだろ俺。


「うわ、これ夢だと思われてる?マジ?」


いや、夢だし。


「ざーんねんっ!これは現実なんでしたー」


夢だろ。冬コミで疲れてっからこんなエセファンタジーな夢見てんだろ。


「だーから夢じゃないって。もう時間無いからサクッと説明しちゃうからねー」


つーか、その見た目でそのチャラさどうにかなんないのかね?

すげえチグハグ。


「キミ思考を放棄しだしたね?ダメだよ?ちゃんと聞いといてね?まあ、聞かなくても記憶に刷り込んでおくけど」

「じゃあ聞かなくてもよくないですか」


これでもちょっとショック受けてるんですけど。

まだちょっと受け止められて無いんですけど。


「あー、ごめーんね?でもキミしかいないんだよね!お願いされて?

じゃあいくよ?ちゃんと聞いてね?」


そして。

曰く。


”我、※※※※、三日月彩葉に託す”

そう始まったありがたーい神託はまったくもって有り難くないもので。

要は、僕いなくなるから残りの仕事ヨロシクね!!ってヤツだった。


「職務放棄じゃねーか!!」

「だあって、僕隣の世界のコと愛し合っちゃってー。もうすぐ一緒になるからさあ、こっちの面倒見れなくなっちゃって。もうほぼほぼ出来上がって後は世界の色を決めればいいだけだったんだけど、いろいろ悩み過ぎてたら創造から時間が経ちすぎて稼働し始めちゃったんだよねー。

キミそういうの詳しいじゃん?なんか既に色付けされてるし。適正バッチリ!もうキミしかいないって感じ!もう決定事項」

「いやいや、俺ただの元美術教師の同人作家だし」

「属性沢山だね?」

「属性とか神さまが言うなよ・・・。すげえ威厳感じなくなる」

「あははー。それみんなに言われるー」


みんなって、どこのみんなよ。どうせそこら辺の神様とかなんだろ?


「ピンポーン」

「・・・・はあ」


いいやもう。喋るの疲れた。

ねえ、これホントに夢じゃないの?

俺昨日異世界ファンタジーBL本売ってたんだけど、その影響の夢じゃなくて?

俺死んだ?

家とか物資とかこれからどうなるの?

姿はこのまま?

本出したくなったらどうすんの。

エトセトラエトセトラ・・・

思いつくまま挙げていくとチャラ神様はこれでも一応神様らしくいちいちちゃんと答えてくれた。


それはもう、異世界ファンタジーのご都合主義。

俺に都合良すぎな設定にしてくれた。

家はこのまま、PCも家電も何もかも使えるようだし、物資も減らない。使っても次の日には元通りになっているらしい。仕様が適用されるのは転生した時点で家にあった物だけだが。

よかったー、俺昨日疲れててもスーパー行っといて。正月三が日に冷蔵庫空っぽは流石に嫌だなーとか思って、カートもあるしでおやつとかジュースとか冷凍野菜とかしこたま買い込んで冷蔵庫に詰め込んだんだった。昨日の俺グッジョブ!正月に飲もうと思ってビールも箱買いしてあるし。食に関しては死角は無い!

そんで、肝心なところ、どうやら俺は向こうで死んだことになってるらしく、それはちょっと友達に悪いことしたなーとか考えたら「貸す事になってた本は送っといてあげるよ、記憶もちょっと弄ってホラーにならないようにね」とか最後の願いは叶えて貰えることになった。

最後の願い同人誌の貸し借りかよとか思わなくも無いけど、就職してすぐの頃には家族全員鬼籍に入っちゃったし。大事なのは友達ぐらいだったからそれでもいいかなーと諦めた。


「あ、あと、この世界キミの言うところの異世界ファンタジーの世界で魔法とか使えるけどなんかいる?僕のコピーでいいならそのまま使えるようにしとくけど」

「それいちいち設定するの面倒だからとかいう理由じゃ?」

「そうとも言う。いいじゃん。僕一応神様だからいろいろ出来るよ?後で確認して適当に活用してね」

「はいはい」

「なんか僕の扱い雑になって来たね?慣れちゃった?いいけどさー」


そして、チャラ神様は最後までチャラ神様のまま去って行った。

ちなみにチャラ神様は隣の世界の女神さまと一緒になると言っていたがこれはどうやら物理らしく、もう絶対離れたくないしだったら融合してしまえばいいんじゃない?って事になったらしい。神様コワい。つーかチャラ神様以外に重かった。ビックリだ。


そうして俺はその日からこの世界の神様(代理)になった。

仕事は世界の色設定。

大人のぬり絵をしながら世界の旅。

たーのしそー。←超棒読み。だって俺基本インドア派なんだもん。


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