第3話 ほんとに夢?
また朝が来て、目が覚める。
朝というにはちょっと遅いあと1時間で昼になる時間だが、今の俺には生活時間なんて関係ない。
さて。
起き上がってカーテンを開ける。
・・・うん。真っ白。
どうやらまだ俺はまだ夢の中らしい。
スマホの画面を見ても何も通知が無いところを見れば、ここはまだ絶対夢ん中。
だって、これが現実なら今日は元日。誰かしらから明けおめ通知が来るハズ。
オタクだけど俺はそんなにボッチじゃないぞ。
冷凍庫に保存してある食パンにシナモンシュガーを振って焼く。これを細切りにしてリンゴジャムをつけて食べるのが最近のお気に入りだ。
面倒だから卵は焼かない。コーヒーもインスタントだけど美味いからヨシ。
つーか、冷蔵庫の中まで完璧に再現されてるって。俺そんなに記憶力あったっけ?
夢ていうのは現実世界の記憶とか潜在的思考とか希望とかそんなもんがいろいろ混ざって出てくる、とかそんな事をどっかの本で読んだ気がする。
そんな冷蔵庫の中まじまじ見た記憶は無いけど。無意識に記憶してんのかね?
生活に不便はないからどっちでもいいけど。
ってか、夢の中で生活って。
完全にブランチなパンを食べきり一通り家の中を歩いても特に変わった事は無く。紛う方なき自分ちだ。
あ、ほこり。冬コミ終わったし掃除しなきゃ―。
でもなあ、夢の中でまで掃除したくない。
でもなー。そうするとー、やる事無いな。
新刊読み終わったし、なんなら正月明けに古本で売る用と保存する用で仕分けたし。
ああこれも起きたらまたやんなきゃいけないのか。夢の中で家事するのはもうやめよっかな。夢と現実で同じことってなんかイヤ。起きて憶えてたら二度手間な気分になりそう。
えー。じゃあ何する?
バレンタイン本のネーム?・・・起きても憶えてるかなあ?
今まで見た夢って、殆ど全部起きたら朧気だったような。いいの出来て記憶無かったら勿体ないな。
うーん・・・。
お出かけって言っても外真っ白だしな。
あ・・・真っ白世界。ぬり絵でもする?
何でもアリの夢の中なら、描いたぶん色付けされたりしたりして。
そうと決まれば。
カーテン開けて、窓も開けて。
スマホ持ってカシャッ!
PCに取り込んで。お絵かきソフト起動して。
「ふ、ふん、ふふーんん♪」
家の側に聳え立つやたらデカい木と、空と、原っぱ。
ベタ塗りしたら4色だけど、そこはワタクシ元美術教師。大人のぬり絵ってやつを見せてやるぜ!
見せるヤツいないけど。
まずは空。
時間通りなら真昼間。通る風は爽やかで、まるで初夏のよう。年末感は全くナシ。
感じた通りに塗ってみるか。どうせ夢なんだし。
スカイブルー、群青、ゼニスブルー、紺碧、セレストブルー、ウルトラマリン、etc...etc...
何百とある青系の中から感じる空気に合わせた色を重ね、これから夏に向かう高い高い空を描いていく。
都会じゃこんな大きくてキレイな空見えないけどね。
あとはー・・・雲、どうしようっかな。
綺麗なグラデーションに仕上がった空の画面に満足しつつもちょっと思案する。初夏の曇ってどんなだっけ。真夏なら入道雲をモッコモコに描くんだけど。
「んー・・・」
――――後でもいいか。別に急ぐわけでなし。
PCでの作業だし、と悩むところは後回しにして次に描く物の色を選んでいく。
空ときたら次は地だろ。
画面の下三分の一を占める原っぱ。
季節が夏なら草だけじゃなく花だってあるだろうし、虫もいるだろう。
全部真っ白で細かいところは見えないけど。
数箇所ある影のところはそれなりに幅のある草が生えているのだろうか。
拡大してみてもうっすら影が見えるだけで詳細が分からん。
・・・ちょっと、外出てみる?
ちらっと頭に浮かんだ考えのまま家の外に出てみれば、せいぜい足首くらいの丈かと思っていた原っぱの草は膝丈ぐらいあってちょっとびっくり。
これじゃちっさい花なんて埋まって見えないじゃん。
花らしきものはー・・・なんか、ちょいちょいユリっぽいのが生えてる?
野生のユリって黄色とかオレンジのちょっと毒々しいイメージがあるけど、そんな感じ?俺はやっぱり白が好きだけどね。
そんで。
窓からも見えていた木は葉っぱをよく見てみれば楓の木だった。
でもじいちゃんちの庭に生えてた風流な奴じゃなくて。
あれよ。メープルシロップの木。葉っぱが太いからそんな感じ。
この木の所為で一気に景色が洋風に見えてくる。
ウチの家、ばあちゃんの趣味で完全に見た目は洋館だからこの景色に似合うけど。
とりあえず景色の雰囲気分かったから続きを塗りますかねー。
仕事も原稿も関係ない落書き、ものすごく楽しい。思わず鼻歌が出ちゃうくらい。
印刷所の締切に間に合いそうになくて拝み倒して手伝いに来てもらった友達に、「集中出来なくなるから歌わないで」って忌憚なく言われるほど音痴らしいけど出ちゃうんだよ。もうほっといて。
そして作業する事体感2時間。夢の中の時間なんて知らんから大体そんくらい。
「こんなもん、かなー」
雲一つない爽やかな青い空、緑が眩しいメープル。サワサワと風が通る草原。時々見える百合の花。これは独断で白と黄色にした。オレンジの百合は個人的にやっぱり好きじゃない。
いつもの癖でPCに保存。
してから気付いたけどこれ夢だから残ってないな。落書きだから別にいいけどー。
保存ついでにプリントアウトもしちゃうか。
画面とプリントじゃイメージが違ったりするし。
さて。
うんうん。結構きれいじゃね?
プリントアウトされた紙を手にぬり絵前の景色と見比べようと窓辺に寄ったのだが。
「・・・あれ?」
その窓の外の景色は、2時間前と一変していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます