【Episode6】バス旅恐怖ロケは異世界からの死の誘い
【1】今回はマネージャーとしてバス旅に同行します
「み、みなさん、こんにちは、漫画家の
「アイドル女優の
いつもの可愛い服装ではなくウォーキングウェアを身につけたエマと髪がぼさぼさのおじさん漫画家大黒先生がロケ開始のあいさつをした。
「いつもの僕のコンビ、
「それでね、テレ東西の人気企画『地方路線バスふれあい乗り継ぎ旅』の特別編ということで大河さんの代わりに女優の赤音エマさんがバス旅に挑戦します」
大黒先生に促されてエマが愛らしく頷く。
「確か今やってるテレ東西の深夜ドラマの主演だよねえ」
大黒先生によるエマの紹介、今回の私たちのお仕事はテレビ東西の人気特番の地方バス乗り継ぎ旅のロケだ。
地方の路線バスだけを使って決められた目的地に行くという番組で、テレビ東西の特番企画の中で3本の指に入る人気番組だ。
レギュラーコンビは元アイドルの
設定されたゴール地点を目指してバスだけを使って田舎を3泊4日で旅をする。
大河さんと大黒先生のファンの方を中心とした心温まるふれあいだけでなく、目的地にたどり着けるかどうかの緊張感も醍醐味だ。
私はエマのマネージャーとして進行を続けるふたりを見守りながら待機していた。
「それで今回のゲストマドンナですが、これも特別な人なんですよねえ」
「へえ、誰かなあ。さっそく呼んでみましょうか」
そう、通常バス旅はレギュラーコンビに毎回マドンナ役の女優さんがゲストで呼ばれることになっている。
「それでは今回のマドンナ、元アイドルで現在マネージャーの天野硝子さんです」
不本意ながら呼ばれた私はテレビカメラの映し出す空間に入っていく。
エマと大黒先生はカジュアルなウォーキング用の夏服を着ているが、私の服装はジャージと眼鏡だ。
およそ、芸能人とは思えない装いだったがこれには理由があった。
「今回、バス旅に参加させていただくことになりました。
エマが今回呼ばれたのはエマが主演を務めるドラマ『パンドラファイル』の宣伝もかねての事だ。
しかし、肝心のバス旅先導役の大河さんが舞台公演中でお休みなので急遽先導役として私が抜擢されたのだ。
「ファンの皆様の信頼を裏切るような真似をした私ですが、今回は女優の赤音エマさんのマネージャーとしてお世話したいと思います」
そう、あくまでアイドル天野硝子ではなく、マネージャーとしての同行である。
「それでは今回の目的地ですが、今私たちは山口県の
そう言ってエマがスタッフから渡された紙の地図を大きく開いていく。
「えっと、あった赤い丸、ここは京都府、
エマは地図上に赤く丸付けされた地点を指さして目的地を読み上げるが、通常青い丸は途中通過しないといけないチェックポイントのはずだ。
「今回は赤音さんが主演のホラードラマ『パンドラファイル』にちなんだチェックポイントにも寄ってもらいます」
同行する撮影スタッフから私たちに声がかけられる。
「ドラマ『パンドラファイル』の方に取材の応募のあった鳥取市近郊の幽霊の出る開かずの間があるというW温泉旅館に1泊してもらいます」
「それって今回のバス旅がドラマの方の取材も兼ねてるってことですか?」
「そうですね」
それは私とエマも聞いていなかった。
やらせなしがこのバス旅の売りとはいえちょっとやりすぎだ。
「ど、どうかな。天野さん。僕は全然バス旅の進行のことはわからないのでいつもは
いつもとかなり違う挑戦内容なので大黒先生から心配そうに声を掛けられる。
「そうですね。ゴールの京都の位置を見て3泊4日の3日目の夜までにチェックポイントの旅館にたどり着けないと1泊できませんから挑戦失敗になりますね」
「えー、2日目に辿り着くってことはないの?」
「たぶん無理だと思う」
バス旅のことを何もわかっていないエマが無邪気に聞いてくるが、おそらく2日目に到着できるルートはないだろう。
今までこのシリーズは何年にもわたって放送されてきたが、過去23回の放送で3日で目的地に辿り着けたことはおろか余裕で攻略できたことは1度もない。
「それと目的地の間にある中国山地をどこで超えるかがカギになりそうね」
「どういうこと?」
「チェックポイントが鳥取県にあるから兵庫県を北上するルートはほぼないわけだけど、広島県から島根、もしくは岡山から鳥取に抜けるルート選択ね」
「どうやって決めるの?」
「まあ、普通に駅とかにある旅行案内所やバスセンターで情報を仕入れるしかないわ」
このバス旅では基本スマホ類は没収されているので、情報は地道に聞いて集めるしかない。
「す、すごいね。天野さん。バス旅初めてなのにこんなに頼もしいなんて。これならお任せして大丈夫だね」
「はい、精一杯がんばります」
「それじゃ、バス旅特別編、スタートだよ」
エマの掛け声でバス旅が始まり、スタッフからオッケーですの声が上がった。
ここからは旅の行程を随時撮影しながら、あとで2時間特番に編集するわけだ。
「ところで……」
私は移動中に同行スタッフに声を掛けてみる。
「チェックポイントはドラマへの応募ということだけど、今回の映像はバス旅だけじゃなくてドラマの方でも使うの?」
「ええ、少なくとも
筧さんらしい無茶な
「視聴者の応募でしょ。宣伝目的のガセ情報だったらどうするの?」
「それは大丈夫みたいです。事前にテンパランスが調査してくれたみたいで」
「テンパランスが下調べ? そんなことまでやってくれるの?」
テンパランスは芸能界御用達の心霊案件に対処する組織だ。霊能者であるエマも所属していて私たちにも時々案件が回されてくる。
「いや、普通に使ってますよ。心霊特番や超常現象番組で手ごろな心霊スポットや動画を紹介してもらうとか」
「ふうんなるほどね。プロの霊能者集団だからそういうニーズにもこたえられるわけだ。ということは今回の旅館はホンモノってこと?」
「そうですね。開かずの間になる前は確かにその部屋に泊まった客が何人か変死しているのはマジらしいです」
またもスタッフから不吉どころでない言葉が聞こえる。
「ちょっと待って、変死って、し、死んでるの、人が?」
「はい」
「なんでまた超絶に危ないところを選ぶのよ」
「筧さんの意向で……」
「はあ、やっぱりあの人頭がおかしいわ」
本来テンパランスの仕事としては本当に危険な心霊スポットは避けるという仕事もあるのだろうが、私たちの場合はあえておもいきりリスキーなところを選んでいるのだ。
「ただし、マジでやばそうなら早めに逃げてもいいそうです」
「それはそれで美味しい
私はため息をつきながら、精一杯の強がりを吐き出すしかなかった。
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