7―29 魔力感知
昨日新しく“魔力感知”スキルを得ていた。
既に付与術式でアイテムに常時発動する“魔力感知”を付与して普段から使っているので気に留めていなかったのだが、実際に使ってみて驚いた。
どうやら付与術式の“魔力感知”はかなり能力が制限された、逆に言えば使い易いものだった。
自分で発動した“魔力感知”はマリウスの視界に映る景色を全て変えた。
魔力が全て色と光で見える。
まずマリウスは自分の隣にいるハティの圧倒的な魔力の煌めきを見て、軽く酔いそうになってしまった。
存在が持つ魔力だけでなく、魔法を使った時の魔力の流れなども、今まで感覚的に認識はしていたものが、はっきりと視覚で見る事が出来た。
ただ“魔力感知”で見える景色と視覚の情報が上手く重ならなくて、“魔力感知”を発動した時は、同時に“索敵”を発動して目を閉じた方が逆に総てを認識しやすい様だった。
半径3キロ位の範囲を完全にカラーの3Dマップで認識することが出来るし、その範囲の中にいる者や物の魔力量も、誰かが魔力を使うのもはっきりと分かった。
自分の付与した術式の保持している魔力や効果の及ぶ範囲も全て把握できた。
錬金術師たちや魔道具師達が、この三日間で随分レベルを上げてくれたのもはっきり認識できる。
正直少し情報量多すぎて、長時間使っていると頭が痛くなってくる感じだった。
そしてマリウスがこの“魔力感知”を使って村を見て廻って最も驚いたのが、“魔物除け”の杭だった。
“魔物除け”はずっと5メートル間隔で打たれている。
“魔物除け”の杭を作り始めた頃のマリウスの魔法効果と魔法適性、“魔力効果増”のアイテムの相乗効果は精々5、6倍位だったが、今は恐らく150倍近くになっている筈である。
“魔物除け”の杭の効果は村を離れるほど、つまり後から作った物ほど強力に“魔物除け”の魔力を発散させているようで、恐らく今付与した物の効果は100メートルを軽く超える範囲まで広がっている様だった。
しかもそれだけの効果の杭を5メートル間隔で打ち込むことで更に生まれた相乗効果で、並んだ杭のラインが一種の“結界”の壁を作っている様だった。
効果は上に向かって伸びていき、“魔力感知”を働かせて見たそれは、空に聳える高い壁だった。
マリウスは一番新しく設置した“魔物除け”の杭の効果を確認する為、ハティに乗って東の森に向かった。
壁は果てが見えない程高く空に伸びていた。
上は空にぽつぽつと浮かぶ綿雲を突き抜けている様だった。
そう言えば、最初にやって来たバルバロスが“魔物除け”の杭の線を飛び超えてこられなかった。
これだけの高さがあると、恐らく空を飛ぶ魔物も相当な高度まで上がれる魔物以外は簡単には入って来られないだろう。
木製の杭は魔法などの中距離攻撃の出来る魔物ならその気になれば破壊できるという欠点には気が付いていたが、これなら150メートルの距離から杭を破壊できる攻撃方法を持つ魔物以外は心配ないし、数本破壊された位なら問題ない筈である。
多分今ならもっと杭の間隔を広げても効果は充分だろうが、当分5メートル間隔のまま打たせようとマリウスは思った。
レベルを上げ続けて、杭を広げ続けた先がどうなるのか見てみたいという好奇心からである。
マリウスは一つ、気になる事に思い至ってレーア村に向かった。
ウムドレビの繁殖地は半径500メートルの範囲をぐるりと“魔物除け”の杭で取り囲んでいた。
マリウスが空の上からウムドレビの住む沼を“魔力感知”を働かせながら見下ろした。
“魔物除け”の杭に囲まれたウムドレビの活動できる範囲はそれでも沼を中心に300メートル以上はあるようだ。
そう言えばこの沼を囲った頃の魔力の相乗効果は未だ5、60倍位だった。
マリウスは杭の囲みの側にある監視所の側にハティを下ろした。
「若様! 如何致しました?」
監視所から二人の騎士団の兵士が飛び出して来た。
「うん、ウムドレビの様子を見に来ただけだよ」
二人の兵士は革鎧の上にだぶだぶした特製の“防護服”を被っている。
この監視所にも“消毒”、“毒防御”を付与してあるし、窓には最初に製造した板ガラスをはめ込んであるが、一応の用心に防護服の着用を義務付けていた。
「何か変った事は無い?」
「いえ、特にはありません。最近は森の中に獣や鳥が戻って来たのか、餌も豊富なようです」
花の匂いで魔物や獣をおびき寄せて捕食するウムドレビの為に、捕えた角ウサギなどを杭の中に放っていたのだが、魔物討伐の成果で、最近は獣や鳥がしだいに辺境の森にも戻って来ている様だった。
マリウスはついでなので杭の外側を“ストーンウォール”の石壁で覆う事にした。
ハティに跨ったまま、10分程かけて杭の外周をくるりと回りながら15メートル程の高さの石壁で周囲を覆う。
魔物だけでなく、人の侵入も警戒する為である。
何れ教皇国や他の勢力がウムドレビを狙ってやって来るかもしれない。
監視所も増やして兵士の数も増やそうとマリウスは思った。
監視所とその前の入り口だけ開けて石壁で覆いつくすと、驚いている兵士たちに手を振ってレーア村に向かった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
レーア村では、職人たちの住居が間に合わず、エールハウゼンから新しくやって来た職人たちは、取り敢えずテントで寝泊まりしていた。
新設した物も含めて、付与を施した三つの井戸から送風ポンプで汲み上げた水で、生活用水と、簡易シャワー程度は使えるようにしてあるが、浄水場が完成し、更に風呂に入れるのは未だ半月以上先になりそうだった。
テントを張っている土地の空きに、騎士団の兵士が砂の山を15個程盛り上げていた。
周りで職人たちが息を殺して、マリウスを見守っている。
一昨日オルテガに頼んでおいたものだが、マリウスはハイエルフの禁書の中の一冊『創作土魔法と適用規格一覧』から、役に立ちそうな魔法を見つけていた。
5メートル掛け5メートル、高さ2.5メートルの圧縮した土の箱を作る上級土魔法“クリエイトコテージ”と、12メートル掛け12メートル、高さ3メートルの土の箱を作る特級土魔法“クリエイトハウス”である。
建築系土魔法は、魔力を節約するために魔力で土を生成しないで、周囲の土を集めて対象の形を創り出す物が多い。
大量に使うと周囲に窪みが出来てしまったりするので、村の中は拙いので土を集めて貰った。
マリウスは“クリエイトコテージ”を次々と発動し、あっという間に15軒の土の小屋を創り出した。
職人達から歓声が上がる。
小屋にはマリウスがイメージしたドアを付けるための2メートル掛け1メートルの穴が一つと、窓用の1メートル掛け1メートルの穴が二つ開いていた。
魔力量が1500減っていた。やはり必要な魔力量は100のようだった。
ダックスにテントを手配するように注文を出しているが必要なかったかと思ったが、念の為注文はそのままにする事にする。
何人の移住者が一度にやって来るか分からないし、必要なくなった時処分するのはテントの方が簡単そうだった。
職人たちが既に準備していた木材を小屋に運び込んでいる。
ドアや窓を付けて、床に板を張り、仕切りの板壁を作って、一つの小屋を2、3人で使って貰うが、テントよりはずっと居心地がいい筈である。
マリウスは既に術式統合で一つにしてあった、“防寒”、“防暑”、“劣化防止”を全ての小屋に付与すると、森の奥なので更に“虫除け”を付与しておいた。
穴はイメージで自由に作れるので、上下水道が開通すれば床に穴を開けてトイレや風呂を中に作る事も出来るし、住居だけでなく、色々と役に立ちそうだった。
マリウスの魔力量なら一日に160軒以上作れるので、移民たちの住居が間に合わない時にはこの魔法が役に立ってくれる筈である。
マリウスはハティに跨ると空に舞い上がった。
レーア村の周囲では森林を伐採した跡で、木材を村に搬入したり、切り株などをどかして土地を整地する作業を人夫と騎士団の兵士が進めている。
いずれレーア村もゴート村並に発展させたいと思いながら、マリウスはゴート村にハティを向けた。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
「御母様! 私の指輪を返してよ!」
「ダメだ。お前の指輪は暫く預かる」
「どうして?」
エレンが涙目でエルザを睨む。
「お前は絶対にエルンストの事をマリウスに伝えてしまうだろう。これ以上公爵家の事でマリウスに迷惑はかけられぬ。この事は絶対マリウスにもクラウスにも秘密だ」
昨日早朝、アルベルトから嫡男のエルンストが誘拐されたと報せがあった。
エルザは自分が兵を率いて人質交換の捕虜たちを連れて王都に向かう事を決め、 アルベルトに指示を出したのだが、“念話”のやり取りをエレンに聞かれてしまっていた。
エルザはこの件に関しては、アースバルトの手は借りず自身で解決する事に決め、“念話”を付与されたエレンの指輪を取り上げた。
「何、すぐに返してやる。暫く我慢せよ」
「本当にマリウスに知らせなくてもエルンストお兄様は大丈夫なの、お母様?」
不安そうな瞳でエルザを見上げるエレンの頭にエルザが手を置くと言った。
「心配ない、私に任せておけ。すぐにエルンストを取り戻して見せる」
「奥方様。準備が整いました」
マヌエラが部屋に入って来るとエルザに告げた。
「うむ、すぐに行く」
マヌエラに答えて部屋を出ようとするエルザにエルヴィンが言った。
「やはり儂も一緒に行こうかエルザ?」
「いや、ハインツ・マウアーは私を指名している。此方様はロランドに行ってくれ。必ずユング王国との盟を取り付けてくれ」
エルヴィンはロランドでビルシュタイン将軍と合流し、ユング王国のエリク王子とオークランス将軍と会見する事になっている。
元々エルザと二人で出向く予定であったが、止む無くエルヴィン一人で出向く事になった。
「うむ。任せておけ。エルンストの事、頼んだぞ」
「ああ、私に任せよ。必ず我らの息子を取り返して見せる」
エルザがエルヴィンに頷くと、マヌエラと部屋を出て行った。
不安そうにエルザを見送るエレンの頭に、今度はエルヴィンが手を乗せて言った。
「心配ないエレン。母の言葉を信じよ。お前の母はこの国最強の女だ」
その一点だけは一度も疑ったことの無いエルヴィンだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます