7―14  村作り開始


「凄い。一体どれくらいあるの?」


 植物魔術師のジーナが積み上げられた袋や樽を見ながら驚きの声を上げる。


 小麦、野菜、干し肉、干し魚、塩、砂糖、油、酒など様々な食料が大量に詰まった袋や樽が、奥が見渡せない程広い倉庫に、天井近くま高く積み上げられていた。


「ここだけじゃないよ、食料庫は全部で20ある、10万人が半年籠城出来るだけの量が蓄えられている」


「ふふ、それだけではないぞ、武器庫には数万領の鎧や剣、槍、弓と矢などが供えられ、奥の金庫室には100億ゼニー程の金貨や金塊があった。帝国は全てを置き捨てて逃げ出したようだ」


 エルヴィーラが可笑しそうに言った。

 帝国の被害は、彼女たちの予想していた以上のようだった。


「そんなに、それでこれをどうする心算なんだ?」


 エゴールの問いにエルヴィーラが獣人解放戦線の幹部たちに向かって言った。。


「金は君たちの活動資金と、移住者に分配して持たせてくれ。ここを我々と君たちを繋ぐ拠点の一つにして食料と金は好きに使ってくれれば良い。武具に関しては一度アースバルト家に送って、付与を付けて貰ってから送り返してもらう心算だ」


「運ぶと言っても大事だぜ、これだけの量」


「それについては考えている。エールには帝国兵の捕虜が千2百人程いる。エールまで彼らに運ばせる予定だ」


 アレクセイが皆を見回すと、皆が頷いた。


「あー。色々と文句を言ったが、済まなかった。王国の助力に対しては改めて感謝する」


 エゴールが改めてエルヴィーラに頭を下げると、他の者達も頭を下げた。


 これだけの拠点と食料、資金を与えられると知って、さすがに非礼が過ぎると思ったようだった。


「私に礼は不要だ。全て御屋形様と奥方様、マリウス殿で決められた事だ」


「それで私たちはどうすれば良い?」


 ジーナの問いにアレクセイが皆を振り返って言った。


「取り敢えず移住者の移動を助けながら、奴隷として捕えられている同胞を開放する。ロマニエフの鉱山や、帝都の製鉄所に捕えられた仲間を順次助け出してアースバルト領に逃がしたい」


「今我々はユング王国と同盟を結ぶために動いている。上手くいけば此処とユング王国の二つのルートから君たちの仲間を逃がす事が出来るようになる」


 エルヴィーラの言葉に全員が頷いた。


「私はこれからアナスタシアと合流し、国境沿いで暮らす同胞たちと逢い、移住するよう説得して移動を助ける心算だ。ここはエゴールとジーナに任せる。取り敢えずロマニエフにいる仲間を助け出す作戦を立ててくれ」


 アレクセイの言葉にジーナが首を横に振った。


「御免、その前にその少年に会ってみたい。本当に同胞たち総てを預けられる者か見極めたい。取り敢えず私の代わりはマラートにお願いするわ」


 ジーナがそう言うとイリーナも手を挙げた。


「私も行く! まだ信じたわけじゃない。自分の目でマリウス・アースバルトを確かめるわ」


「仕様がないわね。それじゃあ私も付いて行くわ」


 狼獣人の剣士フロルも手を挙げる。


「良いだろう、マリウス殿の見極めは三人に任す。あとの者達は直ぐに作戦会議だ」


 エゴールの言葉に全員が頷いた。


  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 

 


「両手でしっかりと持って、目を瞑らずによく狙って下さい!」


「は、ハイ!」


 エリスがミドル魔道具師のおじさんたちにクロスボウの指導をしている。


 向こうではジョシュアがクロスボウに付いた滑車を巻き上げて、矢の番え方を教えていた。


 何故かエリスたちの後ろでヨゼフが腕を組んで、涙を流しながらウンウンと二人の姿に頷いていた。


 昨日作ったレベル上げ施設にさっそく魔道具師を連れて来ていた。


 もう一つのレベル上げ施設には、アデリナに引率されたミドル薬師達が向かっている。


 今朝、四つのレベル上げ施設の石壁には“強化”、“物理防御”、“魔法防御”を“術式結合”一つにした、石壁用の術式を付与してある。更に“摩擦軽減”も付与してあるので魔物が這い上がって来ることも無いであろう。


 ゴート村からかなり離れてしまったので、村との間に乗合用の大型馬車を各施設に一台ずつ、一日中往復させることにし、数組に別れて薬師と魔道具師を優先的にレベル上げさせる事にした。


 エアコンとポーションの売り上げが、村の開拓資金になるので魔道具師と薬師のレベル上げは急務である。


「あっ! 外れた。ウサギが早すぎる!」


「お、オオカミが此方を睨んでます!」


 何か、どこかで見た事のある光景だと思いながら、マリウスがレベル上げ施設の開口部、大型の魔物がいる上級者エリアに向かって歩いて行く。


 なるべく職人たちに止めを刺させてくれるように頼んで、テオたちの面倒はマルコに、レオノーラたちの面倒はクルトに任せてあった。


 マルコの部隊の騎士5人が3トンクラスのジャイアントボアを、“剣閃”や“槍影”等の中級アーツの波状攻撃で弱らせている。


 ついにどさりと倒れたジャイアントボアに、クロスボウを抱えたテオと三人のアドバンスドの魔道具師が駆け寄り一斉に矢を放った。


 アドバンスドの一人が右手を上げてガッツポーズをする。

 多分彼の矢がジャイアントボアを仕留めて経験値をゲットしたのであろう。


 隅にブラッディベアやキングパイパ―の躯が転がっていた。

 魔物虐待で何処からかクレームが来るかもマリウスは思った。


『スタッフで美味しく頂きました、とかテロップを入れて貰え』


 彼らにはレベル上げをして貰いながら、三日に一度位の割合でアースドラゴンの肉を食べて貰う心算である。


 何とか月末のレジスタンスへの武器供給に“使用者登録”を間に合わせて貰いたい。


 マリウスは皆に手を振ると、村に戻って行った。


  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 村に戻ると村の東側の荒れ地で、フランクとベンが指揮して新しく拡張する村の縄張りが始まっていた。


 騎士団の兵士たちも人夫たちに混ざって、大きな石を撤去したり、雑木を切倒したりする作業をしていた。


 数人の兵士がマリウスの顔を見てさっと顔を伏せる。

 よく見ると昨日図書館にいた兵士たちだった。


「みんな頑張ってね」


 マリウスが兵士たちに手を振って歩いて行くと、メリアとレニャが連れ立って歩いていた。


 メリアが時々地面に手を翳し、レニャが手に持ったメモに何か書き込んでいる。


 何故か懐かしい光景にマリウスが目を細めて微笑んでいると、レニャがマリウスを見つけて手を振った。


「あっ。若様」


 メリアもマリウスに頭を下げる。

 メリアもレニャと一緒にマリウスの館に泊っていて、朝も一緒に食事をした。


 二人で新しい村の拡張区画の地質調査をすると言っていたので、てっきり二人で手分けして作業するのかと思っていたら、昔のようにレニャがメリアの助手として付いて回るらしい。


「申し訳ありません若様、この子がどうしても私から離れなくて」


 苦笑するメリアの後ろに真っ赤な顔のレニャが隠れる。


「構いませんよ。レニャの好きにさせてあげて下さい」


 レニャはずっと色々な仕事を頑張ってくれているので、たまには甘えさせてあげるのも良いだろう。


 レニャもレベル上げ施設に定期的に通って既にレベルを7まで上げている。


 マリウスの付与アイテムを装備して、最近“測量”のスキルを手に入れているが、本人は“水脈探知”と“鉱脈探知”の上級スキルが欲しいらしい。


 どちらもマリウスの持つ付与術式に在るので、付与アイテムを与えてあるのだが、やはりその二つが鉱山師としての憧れで、どうしても身に着けたいスキルのようだった。


 マリウスは二人と別れると、今度はレオンを見つけて手を振った。

 レオンの後ろにエリーゼもいるが何故か疲れた顔をしていた。


「如何かしたエリー? 随分疲れた顔をしているけど」


「あ、いえ大丈夫ですマリウス様。昨日少し寝られなくて」


「エリーゼさんは今ソロバンの特訓中で、屋敷に戻ってからも練習していたそうです」


 レオンが笑いながら教えてくれた。


「もう、夢の中で大きなソロバンの球が上ったり下がったりして、最後にはクルクル回りながら空を飛んで襲って来るんです! 夜中にうなされて目が覚めて。マリウス様! 何か良く眠れる魔法は無いですか?」


 うーん、たった一日でもう重症だな。


 “催眠”の付与術式は確かグレゴリー・ドルガニョフの手帳に載っていたので覚えているが、目が覚めないと困るので一度も使った事がない。


「ソロバンはとても便利な計算道具だから、すぐに使いこなせるようになるよ」


「マリウス様も使えるのですか?」


「うん、ちゃんと練習したよ」


 本当である。小学生の時にソロバン教室に通って3級の腕前だと自慢するアイツに教わって、一応使い方は覚えた。


 スキルに頼らない知識や技術は全員が共有できるので、学校の授業にも採用していた。


 レオンがフランクとベン、コーエンたちと新しく開く村の区画割を記した地図を見ている。


 騎士団の屯所と隣接している土地は工房区を広げ、碁盤の目状に道路を走らせ、商業区、住宅区、公衆浴場や広場、新しい学校などを造る区画等を確認している。


 エリーゼも四人の後ろから、難しい顔をして地図を覗き込んでいた。


「工房区は広めにとっておいてください、新しく移住して来る人達にどんなジョブがあるか分かりませんから」


 出来れば鍛冶師と鉄工師の工房や焼き物工房、ガラス工房や縫製工房ももっと拡大したいし、乳製品などの食品工房ももっと生産量を増やしたい。


 もしかしたら今までになかった職種の人たちも来るかもしれない。


 工房が拡大すれば、倉庫も多数必要になるし、流通の為の馬車等の基地も必要になる。


 御者や労働者、商人、官吏などの人材も欲しいし、学校の教師も増やさなければいけない。

 勿論農民も薬師や魔道具師も大歓迎である。


 村に移住して来る人々で、村作りの計画も変わって来るだろう。 


 どんな村が出来上がるのか今からワクワクしながら、マリウスは村の中に入って行くと、まず屋敷に向かった。



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