第7章 移民とカンパニー
7―1 村を広げよう!
「元のゴート村の敷地を一区画として現在3区画まで広がっています。魔道具師の住居や月末に王都から移住して来る獣人移住者の住居の建設は既に終わっていますが、今空いている土地にあと100人分位の住居を建てる事はできます」
5万人の移民受け入れの前に、王都の獣人移住者の第2陣や、魔道具師の受け入れが有るが、既に準備は出来ている様だった。
クリスチャンの報告を受けてレオンが話始めた。
「周辺の空き地に村を広げていったとして、測量の結果恐らく最大36区画ほどに広げる事は可能です。その場合1万5千人程が住むことが出来るでしょう」
そんなに広げられるんだ、1万5千人も住んだらもう村とは言えないだろうなとマリウスは思った。
「ノート村は現在2区画で、浄水場の建設もほぼ完了しています。ここも300人程が住める住居が建てられますが、村の拡張に関しては周囲を牧場が取り囲んでいますし、牧場地を他に移さない限りもう4区画広げるのがやっとですか、2千人程の移住は可能です」
ゴート村に帰った翌日である。
ゆっくりしたい処ではあるが、帝国内の獣人、亜人5万人の移住計画を進めなければいけないので、イエルとレオン、クリスチャンにブロックとベン、コーエンたち親方連中や、騎士団のマルコとクレメンスに土木部長のブレアも参加して貰って、マリウスの館で会議中である。
因みに水道部長のジェーンは明日の午後、クルトやノルン達と帰還の予定だった。
「幽霊村に関しては現在ようやく半区画程の敷地に住居や工房、浄水場の建設が始まったばかりです。村を広げるには周囲の森の伐採から始めなければなりません」
「どのみち畑を開くには森を伐採する事になるし、家を建てるのに木材も必要になるよ。幽霊村は製薬と魔境探索の拠点にする心算だから大きく広げたいな」
マリウスがクレメンスに言った。
「周辺は平地の森林ですし、水も豊かなので広げるのは問題ないでしょう。後は新しく作る村の候補地ですが現在候補に挙がっているのが……」
クレメンスが上げた候補地は4箇所、一つ目はゴート村とノート村、幽霊村を繋ぐ街道の交差点にかなり広い土地が開けそうなので、農業と交通の要所に良いのではという案、次がノート村の奥、以前マリウスたちがハイオーガと戦った滝の周辺で、ここも水が豊かで且つ、魔境に近いため温暖で農業に適しているので村を作って開拓を進めてはという案で、マリウスはこの二案については即採用した。
後は東の森の開拓が進んでいくにつれて次第に農地とゴート村が離れていくので、奥にもう一つ村を作ると言う案である。
以前ホブゴブリンが拠点にしていたスライム山の麓の土地を候補に挙げていたが、ここは少し水が乏しいので、いっそマリウスがアースドラゴンを討伐した更に奥の沼地の近くの方が、村作りには適しているように思えた。
只その辺りは未だ杭で囲っていない未開地なのでその件は先送りにし、ゴート村から10キロ圏内に農地開拓の拠点の為の一区画程度の小さな村を幾つか作る方向で考える事になった。
最後の一つは公爵領との領境、リーベンへと繋がる街道沿いに、公爵家との流通の基地的な村を開いて、更にほぼ未開の山間部の土地の開拓の拠点にするという案だった。
只これも候補に挙がっている土地が盆地で、数年に一度洪水が起きる為数十年前に開拓を諦めた土地らしく、大規模な治水工事を行わなければならないという事で今回は見送る事にした。
取り敢えず7月末を目標にゴート村に新たに8区画、ノート村に1区画、幽霊村に4区画の土地を開き、住居と工房、騎士団の屯所等の建設を進めると共に、三村の中心の街道の要所と、ノート村の東の奥の新しい村の予定地について調査と測量を進めるという事で話が決まった。
「問題は人手と資金でございます」
眉を八の字に下げるイエルにマリウスが笑って答える。
「資金に関して幾つか当てがあるよ。一つは帝国のレジスタンスに支援する話は国策という事で、王家から資金援助してもらえるらしいし、公爵家に武具を納入する話も更に追加注文が来てる」
帝国のレジスタンスに送る武具については、取り敢えず初回分は大体揃っている。
アースバルトの騎士団は、新しいコートタイプの揃いの革鎧に切り替えている最中だったので、古い革鎧が余っている。
約300領の革鎧には“物理防御”、“魔法防御”、“熱防御”が既に付与されていた。
更に西の公爵騎士団との戦いで摂取した武器と防具の中から使えそうなものを選んで、全部で鎧を400領、“物理効果増”と“強化”を付与した剣や槍を200本と、“魔法効果増”を付与したペンダントを20個、“速力増”、“筋力増”を付与した革の腕輪を40個今月末に送る事に決めている。
つまり今回の支援に関しては、魔石とマリウスの付与以外はそれ程費用も手間もかからないという訳だった。
エルザが防具、武器、アイテムに関して最低でも一点50万ゼニーはロンメルかふんだくってやるので安心しろと言っていたから、取り敢えずこちらも初回で3億以上にはなる筈だった。
「それに明日魔道具師が38名到着するようなので、既に本体の完成しているエアコン3千台にすぐ“初級制御”を付けて貰ったらダックスに卸せるから、アリーシアの縫製工房製の付与付きの夏服と合わせて今月中に7億ゼニーは入ってくるし、ポーションの出荷も来月から始まるから、当面のお金の心配は大丈夫だと思うよ」
マリウスがゴート村の執政官になってからの4か月間の魔物討伐などの素材の売却や、公爵家への武器納入の売り上げなども数十億がプールされているし、資金は充分ある筈である。
「成程それだけあれば当面資金がショートする事はないでしょう。あとは人員の問題ですね」
イエルの話をレオンが引き取る。
「現在フランク親方、ベン親方、コーエン親方にゴート村の工事とノート村の工事を請け負って頂いていますが、目標を達成する為にはとても人手が足りません。幽霊村に関してはエールハウゼンから工事の人員を派遣して頂いて、工事を進めていますが、こちらはホルス様にお願いして更にエールハウゼンから人員を集めて戴く事になりました、ただ……」
「土魔術師が足りないわね、これだけ大規模な拡張工事を行うのに土魔術師がたったの6人じゃ話にならないわ、ビギナーの訓練中の2人を入れたとしてもとても無理よ」
レオンの話をブレアが引き取った。
エールハウゼンでも浄水場の工事を始めるので、土魔術師までは回せない様だった。
「人員に関しても、六月から九月までの三か月間の限定だけど公爵家から協力が得られる事になっているんだ。石工と大工、人夫200人程の応援が月末には到着する。それと土魔術師に関しても工事専門の土魔術師4人と、エール要塞の魔術師部隊から6人の土魔術師が来て貰える事になったよ」
これもエルザとの話し合いで、工事の応援の人員を貸して貰える事になっている。
公爵家でも本格的に水道施設の導入が決まって、ベルツブルグだけでなくロランドやリーベンなど各都市に水道を広げて行くそうなので、実際の工事に関するノウハウを学びたいという話であった。
「取り敢えずその人たちの力を借りて工事を進めて、後は移住者たちから労働者を募って工事を引き継いでいく形で進めていけば何とかなるんじゃないかな」
正直、言いながらマリウスも、イエルやレオンたちもそれ程自信は無い。
何人位の獣人達が何時移住して来るのかまだ何もはっきりしないので、何とも言いようがない。
恐らくアナスタシアとアレクセイは未だ帝国との国境辺りにいる筈で、彼方の獣人、亜人に話が伝わって実際に移動が始まるまでは最短でも二か月はかかるだろうと云う前提で、取り敢えず用意できる事はできるだけ手配しようという計画である。
「皆色々と大変だろうけどよろしくお願いします。この移民受け入れはゴート村と云うかアースバルト家にとって必ず良い結果をもたらすと僕は信じています」
マリウスが頭を下げると全員が立ち上がった。
「お任せ下さいマリウス様。我ら一同必ずこの計画を成功させるため全力を尽くします」
「我等騎士団も全面的に工事に協力しながら、領地の拡大に勤めます」
イエルとマルコが宣誓すると、レオンやクレメンスも力強く頷き、全員がマリウスに一礼した。
また忙しい毎日が始まる。
マリウスは村に帰って来たのを実感しながら、心が浮き立つのを感じていた。
やはり自分は戦いよりも、村作りのほうががずっと好きだと改めて思いながら、マリウスは、屋敷を出ると工房区に向かった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
まずマリウスは館のすぐ裏になる、新しく建てた魔道具師の工房に向かった。
「マリウス様!」
「若様!」
エリスとジョシュアがマリウスを見つけて傍に駆けて来た。
テオたちは明日ゴート村にやって来るので、仕事を始められるのは未だ2,3日掛かるが、エリスとジョシュアには今日から仕事を始めて貰う。
広い工房には、既にエアコンの本体が3千台持ち込まれていて、ずらりと並んでいた。
マリウスは昨日のうちに三千台全てに“防火”を付与していた。
持っていた鞄から上級魔物の魔石を5個取り出して握ると、“並列付与”スキルを使って百台のエアコン本体に“送風”を付与した。
エリスとジョシュアも毎日レベル上げ施設に通っているので今ではエリスは基本レベル8、魔力量294、ジョシュアはレベル6、魔力量156までレベルを上げていた。
二人合わせて一日に112回“初級制御”を使う事が出来た。
「あのマリウス様……」
エリスとジョシュアがおずおずとマリウスに話しかけて来た。
「うん? 何エリス、ジョシュア」
栗鼠獣人のエリスは15歳、鼠獣人のジョシュアは12歳だが、二人とも小柄で、背たけはマリウスとあまり変わらない。
二人はいつも一緒にいるので本当の姉弟のように見える。
「私たち、王都の魔道具師さん達と一緒に仕事が出来るでしょうか?」
エリスが不安そうな瞳でマリウスに尋ねた。
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