6―33  特級魔物狩競争


「お前たち、はしゃぎ過ぎて本来の目的を忘れてはならんぞ。だが一番多くフレイムタイガーを狩った部隊には儂から褒賞を出そう。存分に働くがいい!」


「これは御屋形様。聞いておられましたか。お任せ下さい。必ず我等マルコ隊が一番手柄を上げて見せます」


「一番は渡さねーよ。子爵さん、あたしらが一番でも褒賞は貰えるんだろうね?」


「当然だ。貴公らには褒賞とは別に、狩った魔物の正規の買取料も払おう」


「約束だぜ。それと支払いは若様の付与アイテムが良いな。特級付与を五人分頼むぜ」


 魔石持ち込みならそれも良いかもしれない。現時点でのSランクの冒険者と、騎士団の実力を比較できるのも面白いとマリウスも思った。


 “念話”を聞いていたクルトとフェリックスが、自分達も参加したくて悔しそうに歯噛みしている。


「お安い御用ですよケリーさん、でも森の奥に入ると何があるかわかりませんから、皆くれぐれも気を付けて下さい」


 マリウスの念押しに皆解ったと言って“念話”を切ったが、絶対無茶しそうだなとマリウスは思った。


 それにしても解毒薬の開発が下級とは言え『エリクサー』を作り出してしまうとは。


 この国にはユニークの錬金術師は、王室付の錬金術師の一人だけらしい。


 前グラマスのレオニード・ホーネッカーを含めて、旧薬師ギルドの最高クラスはレアだそうだ。


 マリウスの付与アイテムを装備したカサンドラの技術は、或いはユニークの錬金術師にも匹敵するのかもしれない。


 新薬だけでも注目を集めているのに、『エリクサー』の開発まで成功させつつあると知れれば、最早カサンドラはゴート村どころか大陸でも有数の重要人物と言える。


 今後カサンドラを狙う者が増えて来ると思われる。カサンドラには専属の護衛を付けた方が良いかもしれないとマリウスは思った。


  ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽


「へー、じゃマーヤはこの街の生まれじゃないのね」


「はい、北のロランドに居たのですが、お父さんが死んじゃって、五歳の時お母さんと二人このベルツブルグに来ました」


 マリウスは今日もエレンと、マーヤのいる広場までやって来ていた。

 エリーゼとノルンに、今日もマヌエラと十人の護衛が付いている。


 昨夜街に入り込んだ聖騎士の一斉検挙があったが、一人だけユニークらしい強そうな奴を取り逃がしたとエンゲルハイト将軍が悔しがっていた。


 将軍に頼まれて槍と盾に特別に付与を付けたが、効果は絶大だったそうだ。

 ただ聖騎士に卑怯な手で逃げられてしまったらしく、今度会ったら必ず串刺しにしてやると息巻いていた。


 ジェーン達もエルザの命で包囲戦に参加していたそうで、かなり危ない目に合ったらしいが、怪我人は出なかったそうだ。


 ただ戦闘で西門付近の家屋が、かなりの数破壊されてしまった。

 賊は15人が討ち取られ、7人が捕えられたそうだ。


 もう既に打ち取った者と捕えた者の総数は50人近くになるが、少なくともマリウス達から逃げたレアの女水魔術師と、昨夜逃げたというユニークらしい男は未だこの街の何処かに潜んでいる事になる。


 捕えた者達は牢で厳しい拷問を受けているが、逃げた仲間の行方は口を閉ざして何も喋らないらしい。


 昨日もあれこれと皆の武器や防具に付与を施したので、マリウスのジョブレベルが遂に70に上がってレアクラスが解放された。


 魔物憑きになったライアンとの戦いで基本レベルも37になっていた。

 

マリウス・アースバルト

人族 7歳 基本経験値:65620

         Lv. :37


ギフト 付与魔術師  ゴッズ


クラス レア

        Lv. :70   

       経験値:242232 


スキル 

術式鑑定 術式付与 重複付与 術式消去

非接触付与 物理耐性 魔法耐性

支援魔法 術式結合

     FP:  1510/1510

     MP:15100/15100


スペシャルギフト

スキル  術式記憶 並列付与

     クレストの加護

    全魔法適性: 958

    魔法効果 : +958


 レアクラスになった最初のボーナススキルは“術式結合”。

 複数の術式を一つにまとめるスキルだった。

 

 試しにいつも防具に使っている“物理防御”、“魔法防御”、“熱防御”を一つにまとめて付与してみた。


 通常この三つを付与するのに、一つに付き中級魔物の魔石一つと魔力を20プラス魔石分4から6位魔力を消費するのだが、オークの魔石2個と魔力42で付与できた。


 つまり三つの合計の半分の魔力と三分の二の魔石で付与が出来た。恐らく魔石も半分に減らしても、効果や持続期間の調整だけで対応できるだろう。


 これは使いようによっては大幅に魔力と魔石を節約でき、付与魔術のコストパフォーマンスを上げてくれるチートスキルだった。


 早速『奇跡の水』の製造用の“浄化”、“治癒”、“消毒”、“滋養強壮”の四つを纏めてみようと試みたが上手くいかなかった。どうやら現時点では、三つを一つにするのが限界らしい。


 それでも術式を三つまとめると、一つの付与術式になるらしく、“重複付与”で四つ重ねて付与できるので、一つの物に対して十二の付与が付けられる事になる。


 ゴート村に帰ったら色々試してみようと思いながら、今日も朝から迎えに来たエレンとマヌエラと一緒に屋敷を出た。


 エレンとマーヤはすっかり仲良しになった様で、エレンはずっと広場を離れないでいた。


 今日もエレンがお金を払って、護衛達も皆で果実水を飲んだので、マーヤの籠の中にはもう数本の果実水しか残っていなかった。


「明後日で水売りは最後なのね、残念明日はマリウスと用事があるので来られないわ、明後日は必ずまた来るから」


 エレンが残念そうに言うと、マリウスが笑って言った。


「大丈夫、そんなに時間は掛からないらしいから午後にはまた来られるよ」


 明日はマリウスとエレンの婚約の儀である。


 本来は教会で司祭も立ち会って行われるものらしいが、明日は城内の礼拝堂で認証官の立ち合いでだけで行われる予定になっている。


 昨日渡した短刀の効果をエレンに尋ねたら、言葉を濁してなにも答えてくれなかった。


 マヌエラに問い掛けるようにマリウスが見ると、マヌエラは首を振ってただ一言言った。


「思っていたのと違ったそうです」


 エレンの機嫌自体は良さそうに見えたので、マリウスも敢えてそれ以上は聞かない事にした。


 明後日には此処を発って、ゴート村に帰る予定だった。


 ハティの脚なら多分2時間は掛からずにこのベルツブルグまで飛んで来られる筈だ。


 マリウスは楽しそうに話をするエレンとマーヤを見ながら、時間が出来たらまた遊びに来ようと思った。


  ★ ★ ★ ★ ★ ★ 


 もう既に上級、中級の魔物を50体以上狩っているが未だに特級魔物は姿を現していなかった。


「隊長、もっと奥に入った方が良いんじゃないですか」

 ヘルマンが振り返るとニナに言った。


 北にスライム山の丸い影が見える。

 既にスライム山より奥深くまで入り込んでいた。


 隊長達の中で一番魔力量や理力量が少なく、“索敵“の範囲が狭いニナは、魔物寄せの杭を使って勝負を賭けたが、結果的に裏目に出てしまった。

 

 ニナは皆の顔を改めて見た。


 5人の騎士と6人の歩兵に3人の弓士、『四粒のリースリング』の四人と水魔術師のベッツィーに風魔術師のティオ、20人の精鋭達は既に今日三度の討伐を行っているが未だ闘志は衰えていない様だった。


「先に進むぞ」

 ニナの命で一行は更に森の奥へと踏み込んで行った。


  ★ ★ ★ ★ ★ ★ 


「150メートル程先。特級がいるぞ!」


 オルテガが後ろに続く兵士達に振り返って言った。


 『森の迷い人』の5人も緊張する。

 久しぶりにクララが臨時で討伐チームに戻っていた。


 火魔術師のブレンがフレイムタイガーと相性が悪いので、『夢見る角ウサギの』の水魔術師ハイデも応援に入っていた。


 茂みを掻き分けて、岩場に出るとクララが声を上げる。


「あ、違う! 私アレ絶対相性最悪!」


 一同に向かって咆哮を上げるアースドラゴンの頭上に、土魔法の魔法陣が浮かんだ。


  ★ ★ ★ ★ ★ ★ 


「アデル!」


「おうっ!」


 前に出たアデルがフレイムタイガーの巨体の突進を“物理反射”の付与が付いた鋼の大盾で受け止めると、フレイムタイガーが自分の力で弾き飛ばされた。


 アデルの陰からケリーとバーニーが飛び出す。


 バーニーが放った電光石火の“三連突き”の槍の穂先を、体を捻って躱すフレイムタイガーを、高速で左右を挟むように迫ったソフィーのクリス短剣とヴァネッサのミスリル製の短剣が切り裂いた。


 正面から迫るケリーに、フレイムタイガーが口から炎を吐くが、ケリーは“結界”で炎を弾きながら、大剣を振り下ろした。


 ケリーの大剣を肩口に受けたフレイムタイガーが後ろに飛び下がる。


 血を流す傷口を再生できないフレイムタイガーが、真っ赤な目でケリーを睨み据えると再びケリーに向かって跳びかかる。


 フレイムタイガーをぎりぎりまで引き付けたケリーが、“速力増”のアイテムで加速しながら前脚の一撃を躱すと“羅刹斬”で腹を切り裂いた。


 フレイムタイガーが音を立てて倒れた。


「やったー、楽勝じゃん」


「お前、何もしてねえだろう」


「しょうがないじゃない、火属性のフレイムタイガーに火魔法は相性が悪いんだもの」


 アデルとエレノアが何時もの喧嘩をしながら、喚声を上げる。

 飛び入り参加のヴァネッサもガッツポーズをした。


 ケリーが笑いながら地面に転がる“魔物寄せ”の木片に手を伸ばすが、ソフィーが突然声を上げる。


「来る! 右と左!」


 アデルとバーニーが左右の茂みに向かって素早く構え、ケリーが“結界”を広げて皆を包む。


 左右の木々を揺らして、二体の巨大な影が飛び出した。


 ケリーはニヤリと笑うと、“結界”を最大に広げた。




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