6―4 探知妨害
エルヴィンの横に座るエルザが口元に笑みを浮かべて、クルトに言った。
「実は娘のエレンも五日前に福音の儀を受けてな、ユニークの精霊魔術師のギフトを女神から頂いた。どうだクルト、マリウスとお似合いであろう」
「なんと、ユニークの精霊魔術師で御座いますか。それは目出度い。マリウス様も御悦びになられる事でしょう」
驚くクルトに、エルヴィンも娘の話に機嫌を直す。
「まこと女神のギフトとは気まぐれな物、儂とエルザの子供が嫡男はレアの官僚で、娘はユニークの魔術師とはな。儂は戦士の跡継ぎが欲しかったのだが、上手くゆかぬものだ」
言葉とは裏腹にひどく上機嫌なエルヴィンにクルトが言った。
「我が主は魔術師なれど、この国随一の戦士であると某は信じておりまする。姫君様の御相手に不足は無いと存じます。」
「クルト、マリウスはフェンリルを連れて来るのか?」
エルザがクルトに問い掛ける。
アメリ―やアルバン、ヴィクトルもクルトに視線を向けた。
「はい、ハティは常に主に寄り添って居りますれば、此度も共に参られます」
「ステファン・シュナイダーとアークドラゴンにすら打ち勝った、マリウスとフェンリルのハティか。逢うのが楽しみでならんな。明日の夕刻にはベルツブルグに到着するのだな」
「はっ! そのように聞いております」
エルザが満足そうに頷くと、エルヴィンが諸将を見回しながら言った。
「それでは軍議を始めると致すか。」
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
「ターニャ! 団長!」
エフレムが通りの向かい側を歩く、獣人の男女に声を掛けた。
「エフレム! セルゲイにカタリナ達も。お前たち久しぶりだな」
エフレムと同じ位大柄な目の鋭い、たてがみの様な白い髪が特徴的な獅子獣人の男が、エフレム達を見て手を挙げた。
「団長も来ていたんですか。ヴィクトル達とは一緒じゃ無かった様だけど」
「ああ、俺は用事があって、公爵様の一行に加えて貰って先に入っていたんだ。お前たちの事はターニャから聞いた。いい主に出逢えた様じゃないか」
獅子獣人の男はエフレムやセルゲイ、カタリナ、ナタリーと一人ずつ握手する。
「うん、将軍に勧められて行ったけど、本当にいい処だったよ」
ナタリーが獅子獣人の男と握手しながら嬉しそうに答える。
ノルン達が、獅子獣人の男とエフレム達を見ていた。
「ああ、彼らは同じ騎士団の仲間なんだ、ノルン殿にエリーゼ殿、ダニエル殿にケント殿だ。皆、彼は『野獣騎士団』の団長ミハイル・アダモフだ」
ミハイルがノルン達に一礼する。
「団長さんですか、道理で強そうな人だと思った」
エリーゼの言葉にミハイルが笑いながら言った。
「君たちの事もターニャから聞いている。ヴィクトルやターニャ達を助けてくれたそうだな、俺からも礼を言うよ。有難う」
後ろに居るターニャも、ノルン達に頭を下げた。
昼食でも一緒にと云う事で10人は近くの食堂に入った。
「どうやら一緒に戦えるようだな」
ミハイルが皆を見回しながら嬉しそうに言った。
「はい、敵同士にならなくて良かったです。若様は公爵様の御令嬢と御婚約されるそうですから」
エフレムの言葉にミハイルも頷いた。
「ああ、モーゼル将軍も、宰相様と公爵様の陣営に付かれると決めた様だ」
「将軍はずっと機会を窺われておられたのよ、教皇国派を叩く機会を」
ターニャも嬉しそうに言った。
「エールマイヤー公爵が失脚して流れは此方にある。『皆殺しのシルヴィー』なんぞに変えられて堪るか」
「『皆殺しのシルヴィー』って何ですか?」
エリーゼがミハイルに尋ねた。
「教皇国の第11聖騎士団長でガーディアンズの総帥、シルヴィー・ド・ナミュールの事だ。あの女が通った後は死体しか残っていない。だから『皆殺しのシルヴィー』、此処を狙ってくる俺たちの敵だ」
エリーゼやノルン、ケント達も顔を見合わせる。
「其のシルヴィーって云う人は、もうこの街に入っているのでしょうか?」
ノルンの質問にミハイルは首を横に振った。
「解らん。この街のクレスト教会にはずっと監視が付いているが、怪しい人間の出入りはないそうだ」
「お前の“索敵”で見つけられないのか?」
セルゲイが言うとターニャが答えた。
「あいつら“探知妨害”系のアイテムを持っていて“索敵”に引っ掛からないのよ。私もそれで待ち伏せの罠に嵌っちゃったんだ」
悔しそうに言うターニャに、ダニエルが頷いた。
ダニエルがマリウスから貰った腕輪には“筋力増”、“速力増”、“魔力効果増”と“疲労軽減”が付与されているが、それと別に“探知妨害”、“鑑定妨害”、“魔力感知”、“暗視”を付与されたペンダントも与えられていた。
「え、あなたも“探知妨害”のアイテムを持っているの?」
「ああ、若様が斥候は単身で敵に近付くから“探知妨害”は絶対必要だって、レアの付与術式だけど特別に付けてくれたんだ」
マリウスの話では“探知妨害”の付与アイテムを持った相手を“索敵”で見つけ出すのは無理だそうだ。
「ホントだ、“索敵”を働かせてみたけどあなただけ見えない。凄い人なのね若様って」
「“魔力感知”が使えれば、有効範囲は少し短いけど、“探知妨害”を持っている相手でも気配は感じる事はできるらしい。俺は“魔力感知”の付与も付けて貰っているから、あの時も聖騎士達の気配を感じる事が出来たんだ」
嘗てターニャたちがライアン・オーリックの待ち伏せにあった処を、クルト達が救出した時の事である。
「“魔力感知”か、魔術師の上級スキルね。私にはないわ。“気配察知”じゃ駄目なの?」
「“気配察知”ではやはり感じられないそうだ」
ダニエルの言葉に、ターニャが残念そう肩を落とす。
「ノルン、あなたは“魔力感知”使えないの?」
ノルンがエリーゼに首を振った。
「使えないよ、未だこの前アドバンスドに上がったばかりだもの、“放電”のスキルが手に入って、やっと雷撃系が使える様になった位だよ」
残念そうにするエリーゼだが、ミハイルが感心したように言った。
「其の年で上級魔法が使いこなせるなら、大したものだよ。普通はクラスアップしても魔力が足りなくて、使いこなせない者が殆どだ」
「この二人、10歳でレベル11だからな。見た目に騙されると痛い目を見るぜ」
セルゲイが、エリーゼとノルンを見ながら笑った。
「10歳でどうやったらレベル11になれるの? 私18でレベル10になったけど周りよりずっと早かった方よ」
ターニャが驚いていうと、エリーゼが顔を赤くして首を振った。
「私達なんかうちの騎士団では普通です。騎士団の人達は、20越えの人達が一杯いるから」
セルゲイが頷いて言った。
「討伐隊の連中は毎日嘘みたいに沢山の魔物を狩って来るからな、俺達も最初参加させられたけど、上級魔物を瞬殺してたよ。」
「ホントね、こんな所に居たら死んじゃうって思ったけど、若様から貰った鎧の御蔭で誰も怪我しないし」
ナタリーの言葉にカタリナも頷いた。
「ずっと討伐隊を指揮してるニナ隊長なんか未だ24歳なのに、もうレベル27だって」
「副団長は37になったそうだ。とうとう騎士団長に追いついたらしい」
ケントが笑いながら二人に言った。
ミハイルとターニャが顔を見合わせる。
「お前レベル幾つになった?」
「やっと14になった処よ。軍団長は?」
「俺も30からずっと止まっているな」
エフレムが顔を見合わせる二人に言った。
「若様は兵士だけでなくビギナーの魔術師や生産職の連中にも魔物を狩らせて、レベル上げをやらせているよ。その為の施設まで幾つか作ってな。」
「生産職も魔物を狩るのか?」
驚くミハイルにノルンが頷く。
「そうです、生産職の人でも基本レベルが上がれば使える理力や魔力が増えて、ビギナーの人達でも、ミドルやアドバンスドに負けない位仕事が出来る様になるんです」
「そう言えば村人達にも、アーティファクトを待たせているって言ってたね」
「レベル5とか6の大工や鉄工師なんかがぞろぞろいて、皆若様のアーティファクトを付けて魔法みたいに色々な物を沢山作っていって、それにまた若様が魔法を掛けていくから、そこら中アーティファクトだらけだよ」
エフレムが笑いながらターニャに答えた。
普通に暮らしている生産職の人達の基本レベルは殆どが3ぐらいである。
ミハイルが腕を組んで話を聞いていたが、エフレム達を見て頷いた。
「成程な、将軍がマリウス殿に期待するのが分かった。実は俺にはこの街を守るのとは別にもう一つの任務がある。帝国にいる同志とマリウス殿を引き合わせる役目だ」
ノルン達が頷いた。
「聞いています。マリウス様にレジスタンスの支援をして欲しいと云う話ですね。大丈夫です、マリウス様はきっと引き受けてくれるとクルトさんも言っていました」
「村には帝国に親や兄弟を殺されて逃げて来た、ドワーフやノームの女の子もいます。マリウス様がきっと力になってくれるわ」
力強く答えるノルンとエリーゼに、ミハイルが安堵したように言った。
「良かった、彼方からの使者も2日後には此処に到着する。マリウス殿に引き合わせる事が出来たら俺も安心して戦いに専念できる」
ミハイルはそう言って不敵に笑った。
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