5―48  支援魔法


 エールハウゼンから二回目の移住者130名がやって来た。

 労働者は112人、うち19名は獣人で、ダークエルフが一人いた。


 クラスで言うと、農民と料理人のアドバンスド2名、ミドル18名、ビギナー92名で、職種で言うと農民82名、商人2名、料理人3名、侍女2名、鍛冶師2名、鉄工師2名、石工2名、縫製師2名、官吏1名、魔道具師1名、戦士職3名、魔術師7名だった。


 アンナの『狐商会』に商人1名と料理人1名、侍女1名が持っていかれたが、今回はアドバンスドとミドルの料理人を確保した。


 ユリアが乳製品工房の責任者と『ゴートホテル』の料理長、マリウスの館の料理人と屋台チームのリーダーを、全て兼務するのがオーバーワークだったので、少し楽になるだろう。


 戦士職一名はフリードの処で荷馬車の御者をすることになった。

 ファルケとフリードの処には、他にも農民から二人ずつ御者を雇った。


 戦士職の残り二名は駅馬車の御者になる。

 リーベンとの間に四台の駅馬車を走らせることにした為である。

 公爵領から来訪する人が増えたので、ガルシアからの要請もあって始める事になった。


 アンナの『狐商会』ノート村支店も、来月にはオープンする様だ。

 アンナはリーベにも支店を広げる計画の様だ。


 アンナは辺境伯領にも食指を広げたい様だが、此方はダックスのコネが強くてなかなか入り込めない様だった。


 アリーシアの工房にも二人増えたので、更に夏物の服の生産が加速する。


 石工1名と農民2名がブレアの土木部に配属された。

 前回の獣人移住者から二人既に雇用していたので土木部は現在9名になっている。


 移住して来る農民から希望を募り、7世帯20名はノート村に移住して貰った。

酪農や農業に就いて貰う。


 アグネスと職人達で既にノート村も拡張されて住居が立ち、堀で囲って送風ポンプで川の水を上げる設備が完成している。


 現在浄水場を建設中で、マリウスがベルツブルグから帰還する頃に完成予定である。


 ゴート村、ノート村、幽霊村間の街道整備が終ったら、ブレアやクララも合流し下水設備や公衆浴場の工事に入る予定である。


 魔術師7名は全員ビギナーなので、早速ヨゼフに預けた。

 ミリのレベル上げ施設も3基目が稼働している。


 ある程度レベルを上げたら、ガラス工房に配属して、いよいよ板ガラスの生産を始める心算だった。


 2基目の浄水場も完成し、南側の公衆浴場ももうじき完成する。

 超過労働を訴えるジェーンの懇願で、止む無く水魔術師2名と農民4名を水道部に入れる事になったが、ノート村にも水道部の支部を作る事になるので更に人手が必要になるだろう。


 村役場の仕事も拡大してきたので、レオンに官吏を、イエルに商人を一人ずつ付ける事にした。


 ミラの工房にも新しく二人増えた。

 今はエアコンの魔道具の本体造りを急ピッチで進めて貰っている。


 ミリの処も人が増えたが、4基目のレベル上げ施設の建設と村の城壁造りに忙しい様だ。

 5メートル位の高さの城壁が既に村の北と西は完成している。


 南側の村の拡張地区ではフランクとベン達が、来月やって来る獣人移民達と錬金術師、魔道具師達の住居を、急ピッチで建設中だった。工房区の新しい製薬工房の建設と並行しての工事なので、また休みなしで稼働している。


 移住者の中にいたダークエルフは18歳の女性で、彼女はエールハウゼンの者では無かった。


 彼女、オリビア・リオスはダックスの秘書の妹だそうで、丁度ダックスの紹介状を携えてエールハウゼン迄やって来たので、ホルスが他の移住者と一緒に送って来たらしい。


 彼女のギフトはミドルの教職者で、王都では亜人が教職に就ける事はないので、獣人街で私塾を開いていたが、ダックスから此の村で教師を募集しているのを聞いた姉の勧めでゴート村に移住を希望したらしい。


「お姉さんがダックスの秘書をしているの?」


「はい、姉はアドバンスドの商人のギフト持ちで、何時か大陸一の商人になって見せると云うのが口癖です」


 なかなかアグレッシブな姉のようだが、ダックスの秘書ならそれ位でないと務まらないのかもしれない。


 オリビアはさすがに教職者のギフト持ちなので、複数のジャンルの学問を子供達に教えられるだけの十分なスキルを持っていた。


 ダークエルフらしい褐色の肌と金髪のオリビアは、やはり横に長い耳が伸びていた。


 すらりと長い脚をタイトなスカートに包んだエキゾチックな美人のオリビアを見て、また独身兵士や冒険者達が騒ぎ出すだろうなと思いながら、マリウスはオリビアを教師として採用する事にした。


「一つお願いが有るのですが。実は図書館の司書がいなくて、兼務して頂けると助かるのですが」


 一応ホルスから200冊ほど、ダックスから1000冊ほど本が届いているが、未だ図書館をオープンできていなかった。


「留守番や掃除をする程度の人は用意できますが、本を分類したり、管理してくれる人が欲しかったんです」


「本は大好きです。ぜひ私にやらせて下さい」


 食い気味に答えるオリビアに、やっと図書館をオープンできるとマリウスは安堵した


  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 色々な物に付与しながら、仕事に追わるマリウスだが、ジョブレベルが60になっていた。

 

マリウス・アースバルト

人族 7歳  基本経験値:53060

          Lv. :33

ギフト 付与魔術師  ゴッズ


クラス アドバンスド

          Lv. :60   

         経験値:180146 


スキル 術式鑑定 術式付与 重複付与

    術式消去 非接触付与 

    物理耐性 魔法耐性 支援魔法

      FP: 1090/1090

      MP:10900/10900


スペシャルギフト

スキル  術式記憶 並列付与

     クレストの加護

    全魔法適性: 726

    魔法効果 : +726


 魔力量が一万を超えた。新しく手に入ったボーナススキルは支援魔法、所謂バフである。


 マリウスの使える付与術式を、短時間だけ直接人に、魔石を使わずにマリウスの魔力で付与できるらしい。


 マリウスは早速ニナ達の部隊 10人を引き連れて東の森の奥に入った。

防御系の付与の付いた鎧以外のアイテム装備を全て外して貰い、付与の付いていない剣を持たせて“筋力増”と“速力増”を全員に、7人の戦士系には“物理効果増”、3人の魔術師には“魔法効果増”と、支援魔法を実際に掛けて魔物討伐をして貰った。


 10人に纏めて術式を付与する度に、魔力がごっそりと抜けていく感覚があった。 ステータスを確認すると一つの上級付与十人で2000魔力が減っていた。

 

上級付与を一人に一つ付けて200と云う事はマリウスの魔力を100乗せている殊になる。


 どうも並列付与は効かない様で、人数が変っても一人当たりに使う魔力は変わらなかった。


 ちなみに今現在のマリウスの“非接触付与”の有効範囲は、50メートルを位になっていて、これは“支援魔法”でも“消去”でも同じであった。


 ハティの背中に乗って、空中からニナ達の部隊の動きを見ていると、一回戦目はいつも通り難なく、キングパイパ―やブラッディベアと云った上級魔物を倒していたが、二回戦目、一時間半を過ぎたあたりからニナ達の動きが悪くなってきた。


「マリウス様のアーティファクトを外した我らの力は、未だこの程度なのか…」


「いや、ニナの年で基本レベル26なら充分強いと思うよ。」

がっくりと膝を付くニナを慰めながら、マリウスも少しがっかりしていた。


 あれだけ魔力を使って一時間半しか持たないと云うのは、ひどく燃費が悪く思えた。

 魔石を使って付与したアイテムを持たせた方が、余程コストパフォーマンスが高いと思う。


「支援魔法なんざ、一分おき位に掛け直して貰うもんだよ。一時間以上も効果が続く方がおかしいぜ」


 後でケリーに言われて一応納得した。


 今のマリウスの全魔法適性と魔法効果の相乗効果だと、普通の魔術師の60倍近い。更に“魔力効果増”で効果を上げているから、大体辻褄はあっている。

 これも非常時の切り札系スキルだなとマリウスは思う事にした。


  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 


「ウムドレビか。御伽噺だと思っていたが本当に存在しているのだな」

 驚くステファンにマリウスも頷く。


 久しぶりに訪れたステファンに、マリウスは幽霊村の話を聞いて貰っていた。

 あまり人に話すべきでは無いのはマリウスにも分かっているが、同盟を結ぶステファンに隠し事は拙いと思い、思い切って話をすることにした。


「薬師ギルドがうちの領地の直ぐ近くに秘密の村を作っていたなんて父上たちもびっくりしているよ」


「『禁忌薬』か。全く、そんな昔から碌でも無い事をしていたのだな、薬師ギルドは」


 レモネードを飲みながら憤慨するステファンに、マリウスは眉を顰めながら言った。


「でも変な話なんだ。薬師ギルドは120年前に今のポーションの製法を完成させて、薬師達に新しい薬の開発を禁止にしたのに、裏では密かにエリクサーと『禁忌薬』の研究をしていた事になるんだよね。そしてその秘密の村も滅んでしまって、その後ウムドレビは森の中に放置されてしまったみたいなんだ」


「確かに妙な話だ。120年前に何が在ったのか気になるな。分かった、御婆様にも尋ねてみよう、それとウルカなら何か知っているかもしれない」


 ウルカはハイエルフの族長の娘で、ステファンの婚約者である。

エリクサーも『禁忌薬』も元々ハイエルフの秘薬らしいし、長命なハイエルフなら、もしかしたら当時の事を何か知っている者もいるかもしれない。


 「うん、御願いするよ。何かわかったら知らせてよ。僕は来月ベルツブルグに行かないといけないけど、帰ってきたら今度は同盟の話し合いだね」


「ああ。今御婆様が家中の意見をまとめるのに苦労しているところさ。うちの家中は独立自尊の気風が強いからね」


「大丈夫なの?」


「心配ないさ、来月までに必ず意見を纏めて見せる」


 力強く言うステファンにマリウスも頷いて言った。

「そうなったら一緒に魔境に行こうよ」


「ああ、その時が楽しみだ。でもその前に王都行だな」

 そう言ってステファンが笑うと、レモネードを飲み干した。

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