4―28 エルフのアデリナ
マリウスは、部屋に入って来た錬金術師のアデリナを見て、思わず絶句してしまった。
デカい、びっくりするほど胸が大きい。マリウスはマリアより大きな胸を初めて見た。
ビギナー錬金術師のアデリナの緑色の髪から、先の尖った長い耳が横に伸びていた。
『爆乳エルフきたああああっ!!!』
「あの、アデリナ・リーレと申します、若様?」
「あ、御免。えっとアデリナ、君はビギナーの錬金術師なんだって?」
マリウスは我に返ると、慌ててアデリナに尋ねた。
「はい、そうです」
「エルフなのにビギナーなの?」
エルフは一般的に魔力の強い、高いギフトの者が多く、魔術師や錬金術師が多かった。
寿命が長く、基本レベルの高い者が多いので、亜人の中では比較的優遇されている者が多い種族である。
「私はハーフエルフです、母がエルフで父は人族でした」
「家族の人は一緒じゃなの?」
「いえ、父はもう亡くなっています、母は三年前に家を出て行きました。私は一人で移住者に応募しました」
なんでもアデリナの母は384歳で、人族の三人の夫と死別し、アデリナは三番目の夫の子供らしい。
「三年前に4人目の亭主を探すと言って家を出て行ったきり、母とは会っていません」
随分とポジティブなお母さんらしい。
「君も100歳とかなの?」
「私は未だ18です」
エルフの歳は見た目では全く分からない。
一応成人したので、無理やり独り立ちさせられたらしい。
「あ、それは失礼。ところでビギナーの錬金術師って薬師ギルドに入れないそうだけど、今までどうやって暮らしていたのかな?」
アデリナは恥ずかしそうに下を向いて、ぼそぼそと質問に答えた。
「山で薬草とかを取って来て、傷薬とかを作って近所の人に買って貰ったり、あとは農家の手伝いをして、野菜を貰ったりして暮らしてきました」
大分苦労しているらしい。よく見ると着ている服も質素で所々擦り切れていた。
「御願いです、何でもしますからここに置いてください、もう行くところが無いのです」
アデリナがマリウスの前で頭を下げる。
マリウスは胸の谷間を観ない様に、視線を外しながら言った。
「薬は作れるの?」
「簡単な胃薬や、軟膏位ですけど、純水は作れますから、素材が手に入れば出来ます」
「君の“抽出”と云うスキルだけど」
マリウスはそう言って足元に置いてあった大きめの木桶を取り出した。
中に木を燃やした灰が山盛りに盛られている。
「この灰から塩を取り出せるかな? 正確には炭酸カリウムだけど」
アデリナが灰を見つめている。
魔力が流れるのを感じるので多分“素材鑑定”を発動したのだろう。
アデリナはマリウスに頷くと、真剣な顔で灰の上に手を翳して、手のひらを上に向けた。
アデリナの手の平を見ていると、手のひらの上にいつの間にか白い結晶が出来ていた。
アデリナが大きく息を吐いてから言った。
「これだけですが、灰がもっとあればもっと作れます。」
アデリナの手の平の上の結晶は、ほんの少しだったがマリウスは満足した。
木を燃やした灰を溶かした灰汁の上澄みを煮詰めて作る炭酸カリウムは、ダックスに手配させてある、炭酸ナトリウムであるソーダ灰と共に、ガラス作りや石鹸造りにも利用出来る。
薬の製造に必要な純水もこの“抽出”スキルで、普通の水から精製するらしい。
次にマリウスが部屋の傍らに置かれた大きめの木の箱の蓋を開いた。
「ひっ!」
中を覗き込んだアデリナが悲鳴を上げる。
蜷局をまいたヴェノムコブラが中に入っていた。
「大丈夫、死んでいるから、このヴェノムコブラの死骸から毒の成分だけ取り出せるかな?」
マリウスがそう言ってアデリナにコップを渡す。
アデリナが頷くと青い顔でコップを受け取って、両手でコップを握ってヴェノムコブラの上に翳した。
コップの少量の黒い液体が貯まっていくのが分かる。
「あ、魔力切れです」
アデリナがコップをマリウスに渡すと、ぺたりと床に座り込んだ。
色々な工程を無視して、欲しい成分を取り出せる“抽出”は、初級と思えない程万能スキルに思える。後は量の問題だけだ。
「“抽出”は初級魔法スキルだよね、アデリナのレベルと、魔力量はどれくらいあるのか教えてくれるかな」
「ジョブレベルは17で基本レベルは2、魔力量は27です」
やはり一日6回が限度の様だ。
「良いでしょう、合格です。君も僕が採用するよ。君も当面は魔物を狩って、レベル上げをして貰います」
「私魔物狩なんてできません、山で角ウサギに殺されそうになったんです」
アデリナが情けない顔で訴えたが、マリウスは笑って言った。
「大丈夫、安全に狩が出来るから。色々実験したい事が有るから君も僕の館で一緒に暮らそう」
どんな物が抽出できるか、色々と試してみたい。
「じ、実験って、そう云う目的だったんですか!」
アデリナが両手で胸を隠して、おびえた目でマリウスを見た。
マリウスはチベットスナギツネの様な疲れた顔をして、アデリナに言った。
「騎士団のヨゼフの処に行って、詳しい事を聞いておいてください」
そう言ってアデリナにクロスボウを持たせると、とっとと部屋を追い出した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
魔道具師のエリスは、少し生産職寄りで、レベルアップの増量は魔力8,理力2の配分になるらしい。
高いクラスの魔道具師には理力を使う生産系のスキルがあるらしいが、エリスにはないのでFPの使い道は殆どない。
錬金術師のアデリナの場合は、ほぼ魔術師と同じようだが、“術式鑑定”のスキルは持っていないので普通の魔法は術式を丸暗記しなければ使えない。
二人とも“ファイアー”と“ウォーター”、”ライト”は使える様だが、効果はミラ達より弱かった。
或いは高クラスの物ならスキルを得られるのかもしれないが、基本的に錬金術だけに特化したジョブの様だ。
二人とも魔物を狩った事は一度も無いので、基本レベルは2で止まった儘だった。
三つもレベルを上げれば、一日25回以位は初級スキルを使えるようになる筈だ。
“魔力効果増”や“技巧力増”、特級付与“知力増”、と言った付与を付けたアイテムを持たせれば新しいスキルを得られるかもしれないが、とりあえずレベルを上げて魔力量を増やしてもらう事にする。
恐らく仕事のない、ビギナーの魔道具師や錬金術師は領内にももっといるはずだ。
マリウスはビギナーの魔術師や鍛冶師、鉄工師等を募集して貰う様に頼んでいたが、新たに魔道具師や錬金術師も募集して貰う様にクラウスに手紙を書こうと思った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
屋敷を出ると表に馬車が停まった。中からダックスが降りて来る。
「若様、一旦王都に帰ってきますわ、ご注文の品の手配をしたら直ぐに戻ってきますよって、あんじょう宜しゅう頼んます。それはそうと若様、あの馬車に乗せて貰いましたけどあれ売る気ありまへんか」
ダックスは、マリウスの館の車庫に入っている馬車に乗って動かしたらしい。
「うんあれは試作品だから、別に売ってもいいけど」
「あ、そうやあらしまへん。あの馬車を仰山作って売りに出す気はありませんか。このダックスがなんぼでも売って見せますで」
「うーん、とりあえず必要な量をそろえるのに精一杯だから売るとしても春以降になるけど」
馬車の生産はフル回転で稼働しているが、精々月産6台くらいが限度だ。
「それでかましまへん、あのタイヤゆうもんは凄いでんな、全然揺れませんがな、馬車の中で寝てまいそうになりましたわ」
木ゴムタイヤの乗り心地はマリウスも確認済みだった。
木ゴム緩衝材も効果があったようだ。
将来的にばねを使ったサスペンションを付けたいと思っているが、いかんせんナターリア達がオーバーワークでお手上げだった。
「おまけに鉄をあないにようけ使てるのに、すいすい走りよる。あんな馬車は王都にも在りまへんわ。わしに任せてもろたら、高く売り捌いて見せまっせ」
「うん、考えておくよ。それに次に来た時には見せたい物も出来ていると思う」
「ホンマでっか。楽しみでんなあ。ほな大至急とんぼ返りしてきますわ」
ダックスはそう言って馬車に乗り込みかけたが、立ち止まると振り返ってマリウスに深々と頭を下げた。
「獣人たちは直ぐ送りますさかい、宜しゅうお頼申します」
マリウスは笑って答えた。
「勿論、村の仲間になってくれるなら、みんな僕が面倒みるよ」
マリウスは昨日村に帰る途中にも、リセットされた魔力を使って、更に50ヘクタールほど耕地を増やしていた。
移住者たちを受け入れる住居も、急ピッチで建設が進められている。
ダックスはもう一度マリウスに頭を下げると馬車に乗って村を去って行った。
マリウスは何となく、ダックスの事が好きになった。
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