4―27 魔道具師のエリス
マリウスはハティと、東の森の奥まで入っていた。魔力量を増やしたくて、レベル上げをすることにした。
並列付与が四つ重ね掛けできるようになったので、上着に“酸防御”を追加する。
“強化”、“物理効果増”、“切断”を付与してある剣に、“貫通”を追加した。
ブラッディベアの魔石10個を使って腕輪に特級付与“魔力感知”を、ペンダント に“鑑定妨害”を追加した。
魔力の残りは未だ286ある。
マリウスは通称スライム山の麓迄入り込んでいた。山の裏側には、ゴブリンロードの村があった処である。
ハティの上に跨って、マリウスは“索敵”発動した。今のマリウスには、半径1.5キロ迄索敵の範囲を広げる事が出来た。
大きめの赤い光点を見つけると、ハティを促してそちらに向かう。
レッドタランチュラ、キングパイパ―、ブラッディベアと言った上級魔物を見つけては、“ストーンバレット”、“ストーンランス”、“エアーカッター”、”ファイアーボム“と言った初級、中級魔法で次々と魔物を狩っていく。
スペシャルギフトと付与アイテムの相乗効果で嵩上げされたマリウスの初級魔法は、通常の魔術師の13倍の効果になる。
初級魔法が上級魔法を凌ぐ程の威力があった。中級魔法に至っては特級魔法に匹敵した。
六体目の上級魔物、レッドタランチュラを“ストーンバレット”の連射でバラバラに粉砕した瞬間、マリウスはレベルが上がってステータスがリセットされるのを感じた。
さらにマリウスはハティの背に乗ったまま、7体の上級魔物を狩って、再びレベルが上がった事を感じる。
マリウス・アースバルト
人族 7歳 基本経験値:21328
Lv. :21
ギフト 付与魔術師 ゴッズ
クラス アドバンスド
Lv. :31
経験値 :48280
スキル 術式鑑定 術式付与
重複付与 術式消去
非接触付与
FP: 414/414
MP:4140/4140
スペシャルギフト
スキル 術式記憶 並列付与
クレストの加護
全魔法適性: 330
魔法効果 : +330
ジョブレベルも31に上がった。
マリウスを乗せたハティは、スライム山の頂上に駆け上がった。
スライム山の頂上から、東を見る。
セレーン側の大河の向こうに、魔境の大森林が見える。深い緑色の森はマリウスを誘っている様に見えた。
ハティが低い唸り声を上げた。
眼下に目を向けると、廃墟になったはずのホブゴブリンの村に、またホブゴブリンやゴブリンが50匹程戻って来ている様だ。
マリウスは特級魔法“インフェルノフレイム”を発動した。
巨大な火柱が、山の頂のマリウス達を超えて、天を焦がした。
炎が消えると、眼下の村が燃え尽きて消滅していた。直径150メートル程の、黒ずんだ丸い焼け跡だけが地面に残った。
マリウスはスライム山の頂上から前方に向けて“索敵”を広げた。
上級魔物の光点に混じって、三点の大きな赤い光が見える。
おそらくレア。ハティがマリウスを見る。
マリウスは首を振って、ハティに跨ると、頭を撫でた。
今日はもう良い、村に帰ろう。
ハティはマリウスを乗せたまま地を蹴って跳び上がると、村に向けて飛び去った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ビギナー魔道具師のエリスは小柄で、目線はマリウスとほんの少ししか変らなかった。
自分の半身と同じ位の大きな尻尾を立てて、部屋まで入って来るとマリウスに一礼した。
「魔道具師のエリス・ワッフルです、お呼びでしょうか」
少し前歯が口元から覗いていた。
年齢は15歳、彼女は栗鼠獣人だった。
「うん、君の“初級制御”というスキルに興味があってね」
そう言うとマリウスは、木の筒を取り出してエリスの前で、筒に“送風”を付与した。
筒が青く光ると、中を風が通り抜ける音がした。
目をクルクルさせてマリウスを見ているエルスに、筒を翳して言った。
「術式が見えるかな?」
「はい、“送風”の術式ですね」
マリウスは頷くと木筒をエリスに渡した。
「制御を付けられるかな」
エリスは手に取った筒を見ていたが、ポケットに手を突っ込むと、10センチ位の短いワンドを取り出した。
木筒を机の上に置くと、ワンドを指でつまむように持ち、筒の上に見える、マリウスが付与した“送風”の付与術式の真ん中に、ワンドの先を当てて、線を書く様に真っ直ぐ降ろした。
おろした先に小さなルーンが刻まれる。
「出来ました」
エリスがマリウスに木筒を手渡した。
マリウスはエリスが付けたルーンに指先を触れてみた。
ルーンがマリウスの魔力に反応して“送風”の術式に信号を送ると、筒の中の風が止まった。もう一度触れると、筒の中を風が吹き抜ける。
マリウスがキラキラした目でエリスを見た。
「“制御”は例えば術式が、一つの品物に三つ付いていたら、別々につけられるかな?」
「はい、それは出来ますけど私の魔力は26しか在りませんから、一日に6回しか使えません」
つまり初級魔法と同じ、使用魔力は4らしい。
「どんな術式にも付けられるかな、例えば特級術式とか?」
「術式が読めれば何とかなると思います」
マリウスは自分の右手に巻いた革の腕輪を外した。
「これには特級付与術式の“結界”と“魔力感知”、上級術式の“索敵”と“魔力効果増”が付与してあるけど、読めるかな?」
“魔力効果増”は以前刀の鞘に付与せていたのだが、剣を折ってしまったので改めて腕輪に付与している。
マリウスが身に着けたままだとペンダントの“鑑定妨害”の効果で術式が見えないので、腕輪をエリスに手渡した。
「え、そんな高価な術式が四つも付いているのですか?」
エリスは驚きながら、腕輪を手に持ってしげしげと眺めた。
「うわー、やっぱり複雑な術式ですね。でもハイ、分かります。できると思います」
「うんそれなら良いよ、付けなくていいから。それと例えば一つを作動させると、もう一つが切れるみたいなことは出来るかな」
エリスは宙を見て少し考えといる。その度に頭の横の大きなケモミミがぴくぴく動いた。
「勝手に止まるというのは無理ですけど、片一方が動いている間は、もう一方は動かせないと云う風な制御ならできます」
マリウスはエリスの手を取ると、嬉しそうに言った。
「充分だエリス、合格だ、君は僕が雇う」
「あ、有難う御座います」
エリスが顔を赤らめてマリウスに礼を言った。
「えっと、君は御家族は? ここには一人で来たのかな?」
「はい、家族はエールハウゼンで農家をしています、私は一人で今回の移住に参加しました」
「それなら君も僕と一緒に暮らそう。明日僕は新しい館に引っ越すのだけど、君の部屋も用意するよ」
マリウスの屋敷は既に完成している。
今はエールハウゼンから送られてきた家具や絨毯、カーテン等が入れられている最中だった。
マリウスの屋敷に住むのは、エリーゼとノルン、クルトにユリア、新しく雇う6 人の料理人とメイド、ジェーン、キャロライン、マリリンの三人娘と、レニャ、と 下男のトーマス、ホランド先生が確定している。
リタとリナは実家から通う予定だ。
レオンとイエルは居住区に家を貰っている。イエルは家族をエールハウゼンから呼ぶらしい。
ブレアも誘ったが、騎士団の宿舎でいいと断られた。
何か警戒されている様だ。
部屋は30以上あるからまだまだ余裕はある。エリスが一緒に住んでくれれば、好きな時に実験ができる。
「え、私なんかがご一緒して宜しいのですか?」
「勿論、部屋は一杯あるし、変な人が一杯いるから楽しいよ」
マリウスが笑いながら言うとエリスが眉根を寄せて尋ねた。
「変な人ですか?」
「うん。がやがや煩い三人の居候とか、今度は喋るアマガエルを出せる人も来るんだ」
ビギナーの精霊魔術師、下男のトーマスは水精霊のアマガエルが呼べるらしい。
マリウスは早く見たくてワクワクしているが、トーマスとユリアは明後日ゴート村に到着するとマリアから連絡があった。
やっとシャルロットが聞き分けてくれたみたいだ。
今度一度エールハウゼンに帰って、シャルロットに何かプレゼントをあげよう。
多分ハティを見せたら大喜びするだろうとマリウスは思った。
「取り敢えずもう少し魔力が欲しいから、君には魔物を狩って、レベル上げをして欲しい」
「えーっ! 私魔物なんか戦ったことありません。無理です!」
驚くエリスにマリウスが笑って言った。
「大丈夫だよ、安全に魔物を狩れる施設があるから」
マリウスはそう言うと、壁際に立てかけていたクロスボウを一つ取ってエリスに渡した。
「君の世話は騎士団のヨゼフに頼んであるから、使い方は彼に聞いて。訓練は明日 から初めて、仕事は明後日から始めて貰うよ」
マリウスは生産職のレベル上げの世話をヨゼフに頼むことにした。
ヨゼフは13歳だが既にレベル6に上がったので、そろそろ罠の施設は卒業する頃だ。
彼がアドバンスドの剣士のギフト持ちだと聞いて、マリウスは驚いた。未だミドルまでしか解放出来てないが、将来は騎士団のエース候補らしい。
エリスはクロスボウを手に取って構えてみる。
このクロスボウはマリウスが“軽量化”を使って三分の二位の重さにしてある。
もっと軽く出来るが、あまり軽いと反動で狙いが定まらなくなるので、その程度にしてあった。
「当分昼間はレベル上げで屋敷に帰ってきたら僕が用意したものに“制御”を付けて。なるべく毎日魔力を使い果たす様にして欲しい」
「分かりました。私頑張ります」
エリスがクロスボウを握ったまま答えた。
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