4―8   結界


 自分に驚いた様な視線を送るノルン達に笑いかけながら、マリウスはステータスを確認してみた。


 マリウス・アースバルト

人族 7歳  基本経験値:9808

          Lv. :14


ギフト 付与魔術師  ゴッズ


クラス ミドル   Lv. :26   

         経験値:32529 


スキル   術式鑑定  術式付与

      重複付与  術式消去

       FP: 178/178

      MP:1776/1780


スペシャルギフト

スキル  術式記憶 並列付与

     クレストの加護

     全魔法適性: 205

     魔法効果 : +205


 基本レベルが二つ上がり、MP、FPはリセットされている。

 ジョブレベルも一つ上がって、魔力量が320増えている。


 全魔法適性と魔法効果が205と+205は“魔法効果増”と掛け合わせると、通常の8倍以上の効果になる。

 

 皆の戦力アップと合わせて、明日は必ず勝つと誓うマリウスの目に、銀色の獣の姿が映った。 


 頭に角のある銀色の巨大な狼が、西日を正面に受けて丘の上に立っていた。


「マリウス様、あれ」

 エリーゼが指差した。


 クルトがマリウスの傍らに来る。

 フェンリルが立つ丘の上まで200メートル程ある。


「そんな、ホントにフェンリル……」

 ヘンリーが震える声で呟いた。


 サーベルウルフとは明らかに違ったその姿は、確かに吟遊詩人の伝えるフェンリルの姿だった。


「綺麗な魔物だなあ」

 マリウスは思わず呟いた。


 伝説の魔獣は神秘的な空気を纏っていた。

 フェンリルは暫くマリウス達を見つめていたが、やがて丘の向こうに姿を消した。


 マリウス達はフェンリルが立ち去った丘を数分見ていたが、やがて我に返ると村へと急いだ。


  ★ ★ ★ ★ ★ ★


 宿に帰ったマリウスは更に戦力を増強する。

 特級魔法“インフェルノフレーム”を使えたことで、特級付与も使ってみよう考えた。


 ハイオークの魔石も既に100個を切っていたが、騎士団の狩って来たブラディーベアの魔石が20個、キングパイパ―の魔石が18個、レッドタランチュラの魔石が10個、他にもいろいろな上級魔物の魔石が8個あった。


 何れも上級で、ハイオークよりさらに魔力は大きい。


 マリウスはブラッディベアの魔石を五個握った。

 クルトの大剣に手を触れると特級付与“切断”を付与した。

 

 レベルが上がった所為か、最近術式のルーンを見ると何となく漠然と効果が分かる様になってきていた。


 ”強化”と“物理効果増”に“切断”をプラスしたクルトの大剣は、最早魔剣と言っていいレベルの攻撃力を持つだろう。


 魔力が550減っていた。

 今度は余っていた革の腕輪を自分の手に付けると、特級付与“結界”を付与した。


 更にキングパイパ―の魔石を1個使って上級付与“索敵”を付与する。


 “結界”はおそらく全属性防禦であろう。

 上級魔物の魔石5個で付与したそれは、自分の魔力を使わなくても自然に発動する様だ。


 “索敵”は斥候の上級スキルで、実戦ではかなり役立つはずである。

 騎士団で使えるのはダニエルだけだが、ダニエルはゴート村の警護から外せないので今回は連れてきていない。


 魔力の残りが565になった。


 マリウスはオルテガの槍の先にハイオークの魔石で“貫通”を付与した。


 午前中に“的中”を乗せた80本の矢にも今度は“貫通”を40本ずつ乗せる。

 更にオークの魔石で“飛距離増”を付与した。

 未だ魔力は129有る。 


 マリウスはクルトとオルテガの腕輪にも並列付与を使って“索敵”を付与した。


「明日は必ず勝つよ。」


 魔力の残りが一桁になったマリウスは、皆にそれだけ言うとその儘ベッドに斃れ込んだ。


 寝息を立て始めたマリウスにエリーゼが毛布を掛けると、皆無言で頷いて部屋の外に出た。


  ★ ★ ★ ★ ★ ★


「へー、レアの農民のギフト持ちがいるのか」

 マリウスが驚いてイエルに言った。


 ノート村に来てから、魔物の討伐にかかりきりで内政方面の打ち合わせはイエルに任せていた。


「ええクラークと言う牛獣人の青年なんですが、今は南洋諸島から伝わった植物の栽培を、研究している様です」


「南洋諸島の植物が手に入るの?」


 南洋諸島はこの大陸から南西に、3000キロ程離れた島国である。

 大昔大陸が沈んだと言われていて、その山の部分だけが島になって残った。

 大小200程の島からなる連合国家が南洋諸島だった。


「ええ、辺境伯家が南洋諸島の島々と交易を盛んに行っていますので、色々な物が手に入るらしいです」


 イエルは昨日村の代表者たちと面談したときに出逢った青年の話を、マリウスに語って聞かせた。


「カトフェ芋という珍しい芋と、トマーテという変わった果物の話をしておりました、何でも水の少ない土地でも作れるそうです」


「芋と果物か、面白そうだね。帰る前に一度会ってみたいな」


 明日帰還する予定だったが、今日の戦い次第ではどうなるか分からない。


 魔物を駆逐して、東の森を何れ開墾していくうえで、レアの農民の意見を聞くのは重要だと思った。


 イエルは明日の朝に面談出来るように、手配しておくと言って出て行った。

 マリウスは朝食を終えると、決戦に向かうべく皆と宿を出た。


  ★ ★ ★ ★ ★ ★


「マリウス様もうすぐ滝に到着します」

 ノルンがマリスに小声で囁いた。


 マリウスは既に“索敵”を働かせていた。


 意識を向けると、360度、半径1キロにいる生命が、全て俯瞰して感じられる。

 地形も漠然と見て取れた。

 

 『3Dマップみたいな』


 生命は全て光の点で感じる事が出来た。

 今一番大きな光は、やはりクルトだった。


 自分の前に立つクルトの光がやはり周りの者達より一回り大きい。

 マリウスは前方に向けて意識を伸ばしてみる。


 滝と淵の周りには何も居ない。


 周囲に意識を伸ばしてみるが、たまに小さな赤い点がちらちらと移動するのが感じられるだけだった。

 多分角ウサギであろう。


「大丈夫、滝の周りには何も居ないみたいだよ」

 マリウスは先頭を行くオルテガに聞こえる様に言った。


 クルトとオルテガも”索敵”を働かせている様だが、魔力量の差かやはりマリウスの索敵範囲が一番広い様だった。

 

 クルト、オルテガ、ノルン、エリーゼ、4人の騎士と15人の歩兵、ジェイコブとヘンリーの25人とマリウスの、全戦力で東の森に踏み込んだ。


 一昨日ハイオーガと戦った滝の前に出たがやはり何もはいなかった。

 マリウス達は淵から流れる小川が沿いに、南東に進むことにした。


 全員“物理防御”、“魔法防御”、“熱防御”を付与した鎧に“物理効果増”を付与した武器を装備し、魔術師は“魔法効果増”を、更に全員に“筋力上昇”と“加速”を付与した革の腕輪を装備している。


 クルトの大剣には“切断”を、オルテガの槍には“貫通”を付与してある。  

 四人の弓士には、“貫通”、“的中”、“飛距離上昇”を付与した矢を20本持たせてある。


 レアのハイオーガ二体が相手でも、勝てる自身はある。

 一昨日の戦いで、ハイオーガは身体能力が高く、再生能力と魔法では無いスキルを持っているが、“物理耐性”や炎以外の“魔法耐性”自体はそれ程でもない様に見えた。


 “再生能力”の限界が来るまでダメージを与え続ける、ゴブリンロードの時と同じ戦術で倒す事が出来ると思いたい。


 問題はあのフェンリルが現れるかどうかだ。

 マリウス自身、あれは間違いなくフェンリルだと思っていた。

 あの銀色の獣から感じたオーラは、ハイオーガの比ではなかった。


 マリウスの“索敵”に突然四つの赤い大きな光点が灯った。

 大きいのが二つとさらに大きいのが二つ。


 大きいのはクルトより少し大きい位、そしてもっと大きな二つの光点は。


「1キロ先にいる。昨日のハイオーガの二匹と多分フェンリル、それにフェンリルと同じ位強いのが一匹!」

 言いながらマリウスは“結界”に意識を向ける。


 自分の体の周りを、幕を張るように包んでいる結界に、自分の魔力を流してみる。

 意識して広げてみると自分を中心に半径50メートル位ドーム型に広がった。

 自分の考えが間違っていなければやはり“結界”は全属性防禦だとマリウスは思った。


 自分の魔力を使わなくても常時発動しているが、自分の魔力を流すと威力や範囲を広げる事も出来る様だ。


 結界の中に入れる者と弾く者も、自分の感覚で選択できるようだった。

 ノルン達にはマリウスの周りに張った“結界”は見えていない様だった。


「進みますか?」


 オルテガがマリウスに言った。

 マリウスはオルテガに頷いた。


 全員を結界に包みながら前に進む。

 近づいて行くにつれて、四つの光が戦っているのが分かった。


 多分一昨日のハイオーガ二匹と更に大きな光点の三匹が、フェンリルと戦っている。


 石がゴロゴロ転がる河原を進んでいくと、開けた場所に出た。

見えた。


 二匹の男女のハイオーガと、彼らよりは小柄な多分180センチ位の女。

 女の顔はどう見ても人間、それもかなりの美人だがやはり額から2本の角が伸びていた。


 外国の民族衣装の様な赤い着物を着ている。

 髪も赤色で、腰まで垂らしていた。


 遠目にも禍々しいオーラを纏っているのが感じられた。


 フェンリルは昨日見たのと同じ姿で、ハイオーガ達と対峙していた。



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