4―2   上級付与術式


「実は僕は明後日からノート村に行く事になっちゃって、僕の代わりに明後日から村の工事の方の手伝いに入って貰いたいんだ」


 ニコニコ笑いながら言うマリウスに、ブレアとクララの顔から血の気が引いた。

「未だ私をこき使う気ですか、此処に来てから一日も休んでないんですよ」


 いや一日は休んだよね。

 マリウスは口には出さずブレアを見上げる。


「僕だって一日も休んでないよ。頼むよブレア、君にしか頼れないんだ」


 上目遣いに見るマリウスに、ブレアが頬を赤らめながら言った。


「そ、それはしょうがないですね、分かりました、工事の手伝いに行けばいいのですね。」


 溜息を付きながら言うブレアに、マリウスが嬉しそうに言った。


「有難うブレア、仕事のことはレオンに聞いてね。帰ったら何かお礼をするから、クララもね、楽しみにしていてね」


「ホントですか、楽しみにしてますよ、早く帰ってきて下さいね」


 クララは、嬉しそうにするブレアを呆れた様に見ながら、ちょろい女だなと思った。


  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 レオンは仕事に戻り、マリウスはクルト、ノルン、エリーゼとミリの作業を見に東の森に来た。


 既に突き当りの丸い部屋の部分から回廊迄、土ブロックの壁は5メートルの高さに積み上げられていた。


「あ、若様」


 ミリとレニャがマリウスを見つけて、レニャが“土操作”で壁の後ろに作った足場の上から、手を振っている。


 マリウス達は土の階段に登って、高さ4メートル位ある足場の上に上がった。


 石壁の中を覗くと直径50メートル位の丸い部屋になっている。

 森に向けて幅1メートル位の通路が、20メートル程伸びていた。


 ミリ達は開口部の石壁を作り始めていた。


「これは何の為の建物なんですか?」

 ノルンが足場の上から中を覗きながら、不思議そうに聞いた。


「これは魔物狩の為の罠だよ、あそこの開いている処に“魔物寄せ”を置いて、更にこの部屋にも“魔物寄せ”を置くと、あの狭い通路から小さい魔物だけが、此方に入って来ると思うんだ」


「成程、それをここから弓や魔法で狩るのですね」

 エリーゼが感心していった。


「ビギナ―の人や、基本レベルの低い人に安全にレベル上げをして貰うための罠だよ。生産職の人も魔物を狩れるようになるかもしれない」


 ノルン達と話していると、ミリとレニャが歩いて来た。


「大分出来上がったね。図面通りだ」


 マリウスがミリに言うと、ミリが嬉しそうに答えた。

「はいこの分だと後、5,6日で終わりそうです」


「 それじゃあ、僕がノート村から帰ってくる頃にちょうど完成になるね」


 マリウスがそう言うと、ミリの後ろに居たレニャが驚いて言った。

「若様ノート村に行かれるのですか?」


「うん、水道の工事がひと段落したから、一度ノート村に行ってくるよ。あそこも僕の管轄になるから、一度見ておきたいんだ」


 ノート村には明後日訪問する事を伝える使者を出してある、四日の日程で、ノート村に視察にいく予定だった。


「ああ、これ君たちにプレゼント。ナターリアに頼んで作って貰ったんだ」

 そう言ってマリウスは二人に、飾り紐で括ったペンダントを手渡した。


 銀細工で、ウサギとヤギを象った飾りがついている。


 マリウスはミラとミリ、レニャとナターリア本人の生産職の四人にこれを作って中級付与の“疲労軽減”と、ミリのペンダントには上級付与“物理効果増”と“技巧力増”を、レニャには“物理効果増”と“魔法効果増”を付与した。


「わあ、有難う御座います。可愛い!」


「有難う御座います、私男の子にプレゼントを貰うのは初めてです」

 二人は嬉しそうにペンダントを首に掛けた。


「二人ともよく似合ってるよ。それじゃお仕事頑張ってね」


 二人と別れて村に向かって歩くマリウスを、エリーゼとノルンがジト目で見ている。


「なんだかマリウス様、この村に来てから変わりましたね」

 ノルンがマリウスに言った。


「え、そうかな。別に何処も変わっていないと思うけど何処か変わったかな」


「変わりましたよ。女の子にお世辞を言ったりプレゼントをしたり。前はそんな事しなかったですよ」

 エリーゼが少し不機嫌に、マリウスに言った。


「ああ、あのペンダントには“疲労軽減”と“物理効果増”とか“魔法効果増”とか“技巧力増”の術式を付与してあるんだよ。“物理効果増”や“技巧力増”が生産職の人にも効果があるか試してみたくて、あの二人にあげたんだ。上手くいったらどんどん増やして、皆に配ろうと思っているよ」


 マリウスの言葉にノルンが不思議そうに聞いた。

「それ、あの二人に話さなくて良かったのですか?」


 マリウスは不思議そうにノルンに言った。

「え、なんで? 言わない方が二人とも喜ぶと思うけど」


 ノルンとエリーゼがまたしてもマリウスをジト目で見る。


「やっぱり変わりましたよ、マリウス様」


 エリーゼの声が聞こえていないのか、マリウスは軽い足取りで、村に向かって歩いて行った。


  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 マリウスはクルトの剣を後ろに下がって躱すと、クルトに向かって“剣閃”を放った。


 クルトが“剣閃”を大剣で弾くと、既に“瞬動”で接近したマリウスがクルトの革鎧の腹を剣で薙いだ。


 クルトも“瞬動”でマリウスの剣を躱すとマリウスに“剣閃”を放った。


 マリウスはナターリアに、自分の分のペンダントも作って貰っていた。


 マリウスそのペンダントに“疲労軽減”と“筋力増”、“速力増”の二つの上級付与術式を付与していた。


 “筋力増”と“速力増”は戦士職の初級スキル“筋力強化”と中級スキル“加速”と同じ効果をマリウスに与えてくれた。


 ペンダントを付けた瞬間、マリウスは自然に自分の中の理力を感じ取り、今までどうしても出来なかった理力の操作が出来る様になった。


 理力を使いこなせるようになったマリウスは、五日程で剣士の初級アーツ“三連突き”と、中級アーツ“剣閃”と“瞬動”を習得していた。


 マリウスが使える上級付与術式はザトペックから貰った羊皮紙の中にあった“筋力増”、“速力増”、“物理効果増”、“魔法効果増”、“技巧力増”、“索敵”、“毒防御”、“酸防御”、“浄化”、“治癒”、“的中”の十一。


 グレゴリー・ドルガニョフの手帳にあった“貫通”、“鑑定妨害”、“暗視”、“水脈探知”、“鉱脈探知”の五つの合計16だった。


 使用魔法量は100、一つの物に対して上級魔物の魔石一つは必要だった。


 上級の一番下に該当するハイオークの魔石を大量に入手したことで、付与が可能になった。


 ただ今現在の魔力量では、上級付与できる品は一日に40個が限度だった。


 ハイオークの魔石の魔力使用量は一個につき8、魔石を4つ使って並列付与して、使用魔力は132。


 今の魔力量では一日10回の付与しかできなかった。

 

マリウス・アースバルト

人族 7歳  

     基本経験値:7071

         Lv. :12


ギフト 付与魔術師  ゴッズ


クラス ミドル

         Lv. :23   

       経験値:27016


 スキル 術式鑑定 術式付与

     重複付与 術式消去


    FP: 138/138

    MP:1380/1380


スペシャルギフト

スキル  術式記憶 並列付与

    クレストの加護

   全魔法適性: 182

   魔法効果 : +182


 既にジョブレベルは23に達しているが、ジョブレベルだけでなく、魔物討伐に参加して基本レベルを上げる必要があると感じていたが、なかなか時間が出来ない。


 レベル20で新しいスキルが手に入った。


 “術式消去”


 名前の通り一度付けた付与術式を消すことが出来るらしい。

 剣に付けた“強化”を消して、“物理効果上昇”を付与してみた。


 “強化”を消去するのに使用した魔力は4だった。


 試しに付与したばかりの“物理効果上昇”を消去すると、今度は100魔力が減っていた。


 “消去”する術式のクラスによって必要な魔力量が変って来るらしい。

 付与するのに必要な魔力と同じ量の魔力が必要という事らしかった。


 他人が付与した術式も消せるのか試してみたかったが、周りに付与魔術が使える者がいないので、今度エールハウゼンに寄る事があったらザトペック師匠を訪ねてみようと、マリウスは思った。


 クルトの“剣閃”を躱したが、クルトの大剣がマリウスの胴を払った。


 “物理防御”と“魔法防御”を施したマリウスの上着は、大剣を受け止めても全くダメージは無いが、マリウスの負けで今日の稽古も終了した。


 今日はノート村に視察に出かける日である。

 マリウスは自分とクルトに“ウォシュ”を掛けると屋敷に戻った。


  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 リナとリタが、食事の皿を並べてくれた。


 既にノルンとエリーゼ、イエル、レオンが食卓に着いている。

 三人娘はまだ寝ている様だ。


 マリウスの館の完成まであと十日程らしい。

 騎士団の宿舎は完成間近で、恐らくノート村から帰る頃には完成しているだろう。


「お帰りが四日後ですか?」

 リナがマリウスに尋ねた。


「うん、行ってみないと何とも言えないけど此方の工事の事もあるから、それ位で戻りたいと思ってるよ」


 マリウスは葡萄のジャムを塗ったパンを齧りながら答えた。


 新しい屋敷が出来ても、リタとリナは実家から通う予定だ。


 ユリアはシャルロットが懐いて離さないので、マリウスの屋敷が出来るまでに何とか説得するつもりだと、マリアから手紙で伝えてきた。


 クルトも特に気にした様子は見せていないが、寂しいだろうと思った。


 マリウスはレオンに留守の間の事を頼むと、食事を終えて席を立った。


「行ってらっしゃいませ。無事の御帰還をお待ちしています」


 リナに見送られてマリウスはノルンとエリーゼ、イエルを伴って屋敷を出た。


 


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