3―30  フランクとベン


「工事の方は、明日は素材の調達から始めさせる予定です。それで宜しいですね」

 レオンが食後のお茶を飲むマリウスに言った。


「うん、そうして下さい。南側の石切り場も、東の森の伐採予定地も既に杭で囲んでいる様でしたから、安全に作業できると思います、僕は水路を掘る作業を始めます」


 マリウスがそう言うとノルンが驚いて聞いた。


「水路をマリウス様が掘るのですか? いったいどうやって?」


「勿論土魔法で掘るよ。母上が堀を作るのに使った“フォクスフォール”は覚えているから。上級魔法だけど、多分今の魔力量なら何回か使えると思う」


 マリウスの返事にノルンが絶句する。

 エリーゼがキラキラする目でマリウスを見ている。


「何で一回見ただけで、適正も無いのに上級魔法が使えるのよ」

 

 ジェーンがマリウスに食って掛かる。

 目が座っている。


 いつの間にかジェーンは、葡萄酒の瓶を前に置いて手酌で飲んでいた。


「ジェーンあんた飲みすぎよ。ごめんね若様、コイツここに来てからすっかりヤサグレちゃって」

 

 キャロラインがそう言って、ジェーンから葡萄酒の瓶を取り上げた。


 返せと暴れるジェーンに呆れながら、マリウスは明日からの、村作りのスタートにワクワクしていた。


  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「親方、ホントにこの森に入ってもでーじょうぶ何ですかい!」


「おう、杭の中には魔物はへえってこねえってよ!」


 フランクが人夫達に怒鳴った。


 東の森で木材の伐採が始まった。


「ホントにあんな杭で、魔物が入ってこなくなるんですかね」

 大工の一人が、並んで地面に打ち込まれている杭を見ながら言った。


「まあ、あの若様が言うんだから間違いねえんだろうよ。おめーも見ただろあのスゲー盾や鎧」


「そりゃあそうですが。どうもあっしにゃ信じられなくって。騎士団の連中もみんなどっかに行っちまうし。なんだか頼りねー話でさ」


 愚痴る大工にフランクが言った。

「あの若様は見た目通りのガキじゃねえよ。ありゃとんでもねえ玉だ。四の五の言ってねえでとっとと仕事しやがれ!」


 フランク親方に怒鳴られて、人夫たちが森の中に入って行く。


 フランクは人夫たちを見送ると、改めて森に視線を向けた。

「辺境の森を開拓するだって。全くとんでもねえ若様だ」


 フランクはそう呟くと、人夫達の後を追って森の中に入って行った。


  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 


「へー、こりゃ随分良い石があるじゃねえか」


 石工のベンは南の山の石切り場を見回して言った。


「親方! あっちこっちに血の跡が在りますぜ!」

 人夫の一人が地面を指差して喚いた。


「おう、昨日ここらの魔物を騎士団の連中が狩ったらしい。もうこの辺に魔物はいねえそうだから安心して仕事しな」


 そう言ってベン親方は石の上に腰掛けると、懐から煙管を取り出して煙草を詰めだした。


「おっかねえ処ですね、辺境ってのは」


「バカ野郎! 魔物が怖くて石工が務まるかってんだ。さっさと仕事を始めねーと日が暮れちまうぜ」


 腰の引けた人夫達を怒鳴りつけながら、ベン親方は煙管の先に“ファイア”で火をつけた。


「こんな辺境の村に上下水道とは、全くとんでもねえ若様だな」

 ベンは煙を吐きながら呟いた。


  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 マリウスは村の西門を出ると、村を囲う堀の、南西の角迄歩いて行った。

 クルトが一緒にいる。


 ノルンとエリーゼは、今日は朝から冒険者と一緒に魔物討伐に出た。


 昨日の午後も、討伐隊に参加していたそうだが、昨夜は余り多くは語りたがらなかった。

 二人は何か思う処があった様だった。


 ここから葡萄畑の横を流れる小川に向けて、堀の水を小川に戻す水路を先に作る。


 下水の汚水処理場を作ったら、そこから出る水もその水路に流すつもりだ。

 小川までは1キロ位あった。


 朝はリナの声で起こされた。

 リナがこの村に戻って来たので、またエールハウゼンの館と同じように、リナに着替えさせてもらっている。


 ここにいる間ずっと一人で着替えていたので、少し恥ずかしかったが大人しくリナに着替えさせて貰った。


「マリウス様、なんだか逞しく成られましたね」

 リナがマリウスに服を着せながら言った。


「うん、レベルが上がって少し体が大きくなったらしい。服も全部アリーシアの店で直して貰ったんだ」


「アリーシアさんの店ですか。私も服は全部アリーシアさんの店で作って貰いました」

 リナが嬉しそうに言った。


「ああ、服が着れなくなった時に、リザがリナの服を貸してくれたんだった」


「えー、私の服をマリウス様が着たのですか。もうお母さんたら」

 リナがプンプンと怒っていた。


「いや、助かったよ。僕もこの服はアリーシアの店で新しく作って貰ったよ」

 マリウスはそう言って、リナが着せてくれた錆色の騎士団の制服風の服を触った。


「とっても似合ってますよ」

 そう言ってリナが笑った。

 

  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 マリウスは堀の前に立って、マリアが使った“フォックスホール”を思い浮かべる。

 堀から小川に向けて100メートル程の溝が出来た。


 マリウスはステータスを確認してみる。

 

マリウス・アースバルト

人族 7歳 基本経験値:7071

         Lv. :12


ギフト 付与魔術師  ゴッズ


クラス ミドル  Lv. :12   

        経験値:7282


スキル   術式鑑定  術式付与

      重複付与  

      FP: 116/ 116

     MP:1060/1160


スペシャルギフト

スキル  術式記憶 並列付与

     クレストの加護

    全魔法適性: 148

    魔法効果 : +148

 

 公爵家の使者の相手や、村の工事の打合せ等に追われて、ここ数日魔力を使い切れていなかったが、それでも既にジョブレベルは12になっていた。


 上級魔法に必要な魔力量は100らしい。


 ミドルになってから、一つレベルが上がるごとにMPは20ずつ、FPは2ずつ上がっている様だ。


 マリウスは出来上がった溝を眺めた。

 巾が3メートル位で、深さが2メートル位ある。


 溝の周りに土が盛り上がっていた。


 この魔法は水路や、戦場で塹壕を作るために開発された魔法らしい。

 術式の中に“圧縮”が組み込まれていて、溝の壁や底は固められているので、崩れにくいそうだ。


 溝の周りの土はレニャかブレアが来たら、”土操作”と”圧縮”のスキルで塀にして貰おう。


 マリウスは溝の先端に向けて歩いていくと、再び“フォクスホール”を発動する。

 それを繰り返していると、10回目で小川に繋がった。


 MPの残りは260になった。

 水路造りは此処までにして、今度はミラの工房に向かう。



 新たに出来た杭の束1000本に“魔物除け”を付与する。


「ミリ、東の森の開けた場所に、土のブロックを2000個ほど作って置いておいたから、森に入ったらクレメンスに場所を聞いてね。」


「もう2000個も作ったんですか?」

 ミリが驚いてマリウスに聞き返す。


「うん、足りなくなったらまた造りに行くよ。」


「解りました。石工の知り合いの子も、二人とも手伝ってくれるって言ってました。明日からでも始められます」

 ミリは嬉しそうに言った。


「若様、こんな感じで良いですか?」

 ミラが頼んでおいたクロスボウの本体を見せてくれた。


 舟形の様な本体は木目が綺麗で、工芸品の様だった。


 握りの部分を握ってみたが、当然だがマリウスの手にはやや大きかった。


「うんとてもいいね。ブロックさんに鋼の部品は頼んであるから、出来上がったら組み立てて」 


 そう言ってマリウスは、クルトから袋を受け取ってミラに渡した。


「これは昨日までの杭の代金ね、分配はミラに任せるよ」


「わっ、こんなに一杯良いのですか。多すぎますよ」

 ミラが袋の中を見て驚いた。


「お金は分けやすいように全部大銀貨にしておいたよ、未だ仕事はずっと続くから宜しくね」

 そう言ってマリウスは、ミラの工房を出ると、ブロックの工房に向かった。


 多分クロスボウの弓の部分だろう。


 ブロックが引き延ばした鋼を弧の形に曲げて、角や表面を磨くのはナターリアの仕事らしい。


 机の上には弦を巻き上げる為の滑車も二つ出来ていた。

「あ、若様」


 ナターリアがマリウスを見つけて笑顔を見せる。


「今日はナターリア、ブロックさんも。順調に進んでいるみたいだね」


「これは若様いらっしゃいませ、こんな感じですがいかがですか」


 ブロックは既に弓の部分と、足で踏む輪の部分が取り付けられた、クロスボウの先端部を見せてくれた。


『溶接無しで組み立てられるなんて反則だろう』


 手に持つとずっしり重い。

 マリウスは是のクロスボウには、最低限の“軽量化”しか掛けないつもりでいる。

 

 ある程度重量がある方が、矢を放った時の反動を殺してくれるから、命中精度が良いらしい。


「いい出来です、有難う御座います。其れと来月から鉄鉱石が入荷出来る事になりました。取り敢えず月に50トン入ってきます」


「50トン! そんなに入って来るのですか?」

 ブロックが驚いて言った。


「はい、必要なら幾らでも増やせます」

 マリウスがそう言うとブロックが苦笑する。


「私一人でそんなに使い切れませんよ」


「でも、これから鉄は幾らでも必要になりますから。ブロックさんアンヘルのドワーフ街に知り合いはいませんか?」


 辺境伯家と取引できるようになれば、アンヘルのドワーフにも注文が出せる様になるかもしれない。


 この村に来てくれるものがいれば、更に大歓迎だ。


「アンヘルには弟子が何人か身を寄せています。宜しければ紹介しますが」


「はい、ぜひお願いします。アンヘルには一度行ってみたいと思っているんです」

そう言うとマリウスはクルトから金貨の入った袋を貰ってブロックに渡した。


「これはクロスボウとポンプの代金です。あと必要な物が在ったらこれで揃えて下さい」


 ブロックは中を覗いて行った。

「こんなに沢山いただけませんよ」


「これからどんどん仕事をして貰いますから前払いです。其れと実は剣を2本作って欲しいのですが」


「剣ですか、構いませんがそれは若様の剣ですか?」

 ブロックが戸惑いながらマリウスに尋ねた。


「いえ、僕のじゃありません。実は……」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る