3―28 商談成立
「ほう弓ですか、帝国の更に東の国でこの様な武器を使っていると聞いたことが有りますが」
ブロックが図面を見ながら言った。
「そうなんだ、此の先端の脚で踏んで抑える部分と弓を一体にして、鋼で作って貰いたいんだ」
マリウスが図面を指差しながら言った。
「成程、鋼の弓を滑車で引くわけですな。これはなかなか強力な武器になりそうですが、かなり重くなるのでは?」
「重さは“軽量化”で変えられますから大丈夫です。魔術師に持たせようと思っているのです。弓よりは素人に扱いやすいと思いまして」
ナターリアも、ブロックの後ろから図面を覗き込んでいる。
「解りました。幾つ必要ですか」
「とりあえず20組程お願いします。本体と組み立てはミラに頼んであるので出来たらそちらに卸してください」
そう言ってから、マリウスは別の図面を取り出した。
「其れともう一つお願いしたいのですが」
そう言ってマリウスは図面を広げた。
「これは、ポンプですか?」
「そうですエールハウゼンでも似たようなものを作っています。堀から上水場の濾過槽迄水を汲み上げる為の者です。“送風”を付与した筒を使って動かしますが、此処の処に水が逆流しない様に弁を付けて下さい。」
マリウスが図面を指差しながら説明する。
「成程、これぐらいならそれ程かからないと思います」
「いえ、これは手始めです、本当に大変なのはここからで、多分これはナターリアのスキルにかなり頼ると思うのですが」
そう言ってマリウスが図面を広げる。
ナターリアは図面を食い入るように見ている。
「ナターリアには確か“穿孔”と“ねじ切り”の上級スキルがあったね」
ナタ―リアがマリウスを見ながら頷いた。
「最低でも一か月で100個は欲しい。多分もっと必要になる。頼めるかな?」
聞くまでも無い事はナターリアの瞳を見れば分かる。
「うん、やる。任せて若様」
ナターリアが力強くマリウスに答えた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
マリウスは今後の発注予定について、ブロックとナターリアに語った。
「成程、しかしこれはかなりの鉄が必要になりそうですね、それにここでは手狭かもしれません」
ブロックの言葉に後ろでナターリアもコクコクと頷いている。
「今度新しく広げる村の中に、ミラ達の工房とブロックさん達の工房を作らせるつもりです。それに公爵家から大量の鉄工石を入手できる手筈になっています。ブロックさんはスキルで鉄鉱石から鉄を精錬することが出来ますね?」
「それは出来ますが、私たちの工房ですか? そのような事をして頂いても、私には払えるものは何もありませんよ」
ブロックの言葉にマリウスが首を振って行った。
「村の仕事をして頂くのですから、場所を提供するのは当たり前です。これからも
っといろいろお願いするつもりですから」
逆に頭を下げるマリウスに、ナターリアがトコトコと近づいて言った。
「私も行っていいの?」
マリウスは笑顔でナターリアに言った。
「勿論だよ、お仕事頑張ってね」
ナターリアの嬉しそうな顔を見て、ブロックも頭を下げた。
「おそらく工房は一月ぐらいで完成する予定です。それまではここで出来る限り生産を続けて下さい」
そう言ってマリウスは、ブロックの工房を後にした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
食事の後、ノルンとエリーゼはマリウスと別れ南の山に行く事にした。
二人は今マリウスと、村長の家に泊まっている。
イエルとレオンは取り敢えず集会所に泊まり、公爵家の使者たちが帰ったら、宿に移る予定だ。
南の山にいる『四粒のリースリング』たちの様子を見に行ってくるとマリウスに言ったら、ダニエルと歩兵を二人護衛に付けてくれた。
ノルンとエリーゼの二人もマリウスが“物理防御”を付与した革鎧を装備していた。
二人の身長だと鎧の裾が腿の辺りまである。
南の山までは二キロ位なので歩いていく。
街道は既に道の脇が“魔物除け”の杭で囲まれていた。
この街道は南のノート村まで続いていた。
ゴート村とノート村がマリウスの支配地になるので、工事の目途がついたら行ってみようとマリウスが言っていた。
山の麓では5人の兵士達が、杭を地面に打つ作業をしていた。
沿道から石切り場までの斜面を、杭で囲ってしまうらしい。
山道を登り始めたら、向こうから荷車を引く兵士達と逢った。
荷車には角ウサギやグレートウルフ、キラーホーンディアが積まれていた。
マリウスは南の山にはそれ程魔物はいないと言っていたが、下級や中級の魔物は結構いる様だ。
ノルンとエリーゼは、魔物の遺体を見て表情が緊張する。
「あいつ等なら二回戦目が終って、今頃三回戦に入った処かな。多分北側の斜面にいる筈だ」
歩兵に礼を言ってダニエルが先頭を歩く。
30分程歩くと、ダニエルが皆に止まれと合図した。
「其の林の向こうだ、今戦闘の最中の様だ」
ノルンとエリーゼは、恐る恐る木を掻き分けながら前に進んだ。
枝を掻き分けると、ヘルマン達が戦う姿が見えた。
グレートウルフがヘルマンの革鎧の腕に喰らいついている。
アントンが木盾で、ヘルマンの腕を離さないグレートウルフの体を殴った。
ヘルマンの腕を離したグレートウルフが、今度はアントンに襲い掛かる。
後ろに倒れたアントンに覆い被さるグレーターウルフを、アントンは木盾で防いでいた。
この木盾も騎士団から貸し与えられた、“強化”の付与が付いた木盾だった。
熊獣人の槍士が、グレートウルフの背中に槍を突き立てた。
ぴょんぴょん飛び跳ねて逃げる角ウサギが、“ストーンバレット”で打ち抜かれて転がった。
丘の上を見ると、犬獣人の女の子が手を挙げて喜んでいる。
確か『森の迷い人』のクララだったと、ノルンは思いだしていた。
獣人の男女の剣士二人が、剣を振り回してグレートウルフを追うが、グレートウルフは二人の剣を、体を捻って躱した。
隙を見て襲い掛かろうと跳び上がったグレートウルフの胴を、騎士の放った“剣閃”が切り裂いた。
「敵から目を離すな! 死ぬぞ!」
ニナが怒鳴った。
戦いは終わりつつあった。
逃げる角ウサギを、人族の女の子の槍士がやっと仕留めた。
魔物が総て倒されたのを見ると、冒険者の少年少女は皆、倒れる様にその場にへたり込んだ。
ノルンとエリーゼは林を出て、地面にへたり込むヘルマン達の処に駆け寄った。
丘の上の二人の魔術師も座り込んでいる。
「大丈夫? ヘルマン!」
「ああ、エリーか、俺もうだめ、死んだわ」
「もうFPが残ってない、ムリムリ。」
隣でアントンも息を切らしながら言った。
「私達MP切れでもう歩けませ~ん!」
丘の上の魔術師の女の子二人が叫ぶ。
ニナが兜を脱いで、大きく溜息を付いた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ノルンとエリーゼが、南の山で魔物狩をする冒険者の様子を見に行ったので、マリウスはクルトと二人で、東の森の様子を見に行くことにした。
木材を伐採する場所を、クレメンスが杭で囲み始めている筈だった。
現場に着くと既に300メートル程杭の列が伸びていた。
二班に分かれて南と北に進んでいる様だ。
皆、“魔物除け”を付与した木片を腰に付けていた。
杭では持ち歩きにくいので、ミラに頼んで10センチ位に木切れを、沢山作って貰っていた。
ちょうど柵の内側に、開けた場所があったので、そこをミリに作って貰う罠の突き当りに決める。
クレメンスがマリウスの傍にやって来た。
「ここまでの範囲を南北に一キロほど杭で囲えば良いですね」
「うんそれで木材は充分だと思う。」
マリウスはそう言うと、開けた場所を見回した。
クレメンスが見ていると、マリウスは地面に手を翳した。
マリウスの足元の土が盛り上がり土のブロックが10個出来た。
マリウスは次々とブロックを作りながら開けた場所の周囲を回っていく。
マリウスは三十分ほど、ブロックを作りながら開けた場所の外周を歩いて行った。
開けた場所の外周が2000個の土のブロックで埋め尽くされると、マリウスは満足げに頷いた。
「取り敢えずこれ位で足りるかな」
マリウスとクルトが村に帰っていく姿を見送りながら、クレメンスは是もクラウスに報告した方が良いのかどうか考えていた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「それでは“強化”を付与した木盾を1枚40万ゼニーで1000枚。“物理防御”を付与した木盾を1枚300万ゼニーで500枚、“物理防御”と“魔法防御”、“強化”を付与した木盾を600万ゼニーで200枚。物理防御”と“魔法防御”、“強化”を付与した革鎧を1領700万でゼニー100領。“飛距離増”を付与した矢を一本7万ゼニーで10000本。占めて45億ゼニー分の商品を、年内納入という事で宜しいでしょうか」
イエルが人の好さそうな笑顔でそう言った。
「ええ、それで結構です。しかし国本に帰り公爵閣下の御承認を戴ければ、更に追加の注文をお願いする事になるかもしれません。これはあくまで我々の裁量で動かせる金額がこれだけという事です」
アルベルトが無表情に答えた。
このおどけたイタチ男に、良い様にあしらわれた感は否めない。
「お支払いは魔石か鉄鉱石でも構いません。鉄鉱石は月100トン迄ならお引受け出来ます。勿論価格は市場価格で結構で御座います」
「それだけの鉄鉱石を何に使われる心算かな?」
それまで無言だったガルシアが不意にイエルに尋ねた。
イエルは肩をすくめて答えた。
「私には分かりかねます、若様はただこの村を発展させるために、鉄は絶対に必要になるとだけ仰られました」
「ほう、村を発展させるためか、どのように発展させるのか、ぜひこの目で見たいものだな。」
そう言ってガルシアは笑った。
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