3―27 手紙
「なんだそれは?」
クラウスが訝しそうに袋を見た。
「ゴート村からエールハウゼンの商業ギルドに持ち込まれた魔物素材の代金だそうです。金貨150枚と大銀貨4枚、銀貨3枚で1504万3000ゼニーになります」
「グレートウルフ38匹の毛皮代にしては、多過ぎるのではないか?」
良い処、一枚2万ゼニー位だ。
「いえ、グレートウルフの毛皮と牙が58、角ウサギの毛皮が35、ブラッディベアの毛皮と胃、肝臓が2,1枚は二つに斬れているので値が低いそうです、あとはキングパイパ―の皮が2匹分、キラーホーンディアの角と毛皮が……」
「もうよい。魔物狩をしているとは確かに手紙に書いてはあるが」
クラウスは椅子の背凭れに体を預けると、溜息を付いた。
「クレメンスからも知らせが来ておる。私はマリウスに村の周りを干拓して発展させ、魔境に入る拠点を作るための道を付けよと命じたのだが、あ奴は何を勘違いしたのか、魔境迄の森を全て自分の領土にする心算らしい。しかも木の杭を使って」
「木の杭で御座いますか?」
ホルスが面白そうに聞いた。
「まあそれは良い。彼の地の事はマリウス達に任せるしかない。其れとマリウスが妙な事を頼んで来た」
「妙な事とは?」
「うむビギナーの魔術師を魔法職として雇いたいそうだ、それもどの属性でも構わないから出来るだけ多く雇いたいと言っておる」
ビギナーの魔術師程度では魔力量も少なく、殆どの者が魔法職以外の仕事で生計を立てている。
そんな者を大勢集めて、一体何をしようとしているのか。
「マリア、お前の処にはなんと書いて寄越した?」
クラウスがマリウスの手紙を読むマリアに尋ねた。
「はい、ブレアを早く戻してほしいそうです。」
「うむ、やはり土魔術師は必要か。いつ頃返してやれる。」
「大体の上級土魔法は教えたし、工事の方は私と他のもので何とかなるけど、マリウスがブレアに横穴を掘る魔法があったら教えておいてくれって書いてあるわ。自分も憶えたいのだって」
「横穴を掘る魔法? あるのか?」
クラウスが不思議そうに尋ねる。
「ええ、鉱山師のスキル“坑道”を真似た魔法があるわ。その物ズバリ“トンネル”って云う中級魔法」
マリウスはそんな魔法を覚えて、一体どこに穴を掘ろうとしているのであろう。
またマリウスが何かをしでかすのでは? と嫌な予感を感じつつ、クラウスは腕を組んで首を捻った。
〇 〇 〇 〇 〇 〇
「ゆりあ、あにしゃまはなんて?」
シャルロットが手紙を読むユリアの袖を引っ張った。
「えーと、ウサギ耳の姉妹と仲良くなったそうです」
「うさぎみみ、しゃるもみてみたい」
シャルロットが目をキラキラさせて食いつく。
兄妹揃ってケモミミには目が無いのであった。
「あと、森の中で大きな熊と蜘蛛と、蛇とムカデに逢ったそうです。」
「くましゃんはみたい。あとはいや!」
シャルロットが肩を抱いて震える。
「あにしゃまは、しょんなおしょろしいところで、なにをしているのでしゅか。」
「毎日杭を打っているそうです。」
「くい。でしゅか? なんのためにでしゅか?」
「うーん、何の為でしょう?」
ユリアも頸を傾げた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
集会所の前でノルンとエリーゼが待っていた。
「もう打ち合わせは終わりましたか?」
ノルンが言った。
「うん。これからミラ達の工房に行こうと思っている処だよ」
「私達も付いて行っていいですか?」
エリーゼが尋ねた。
「勿論、みんなで一緒に行こう」
レオンは残ってブロック達と工事の細かい打ち合わせがあるそうだ。
マリウスはクルトと四人でミラ達の工房に向かった。
工房に着くと、新たに出来ていた500本の杭の束に“魔物除け”を付与する。
青い光に包まれた杭の束を見て、ノルンとエリーゼが目を見張る。
「これだけの数を一度で全て付与したのですか? 凄いですマリウス様」
「これで魔物が入ってこられなくなるんですか?」
ノルンとエリーゼが杭の束を眺めながら感心している。
作業は順調の様で、杭の束がどんどん積み上げられていく。
「連日の作業で、僕たちみんなジョブレベルが一つずつ上がりました」
犬獣人の男の子、ノアが言った。
「これで仕事がもっとはかどります」
猫獣人の女の子、リリーも嬉しそうに頷く。
「この調子なら1日に1000本以上作れます」
得意げに言うミラに、マリウスは図面を何枚か取り出すと、一枚を広げて見せた。
「そっちは取り敢えず今までのペースで良いから、ミラにはちょっと別の仕事を頼みたいんだ」
そう言ってマリウスが出したのはクロスボウの図面だった。
アイツが言うには、これもお約束だそうだが、ビギナー魔術師たちに、魔力不足を補うための強力な武器を持たせて、魔物狩に行かせたくてこれを選んだ。
アイツは小銃や、マシンガンを作ろうと言っていたが、怖そうなのでやめた。
「前に取り付ける弓と足で踏む部分、弦をを引っ張る滑車や引き金の部分は、ブロックさんとナターリアに、鋼で作って貰うつもりだけど、持ち手の付いた本隊の部分は、ミラに頼みたいんだ」
ミラが図面を見ながら言った。
「これ位なら簡単ですよ。幾つ必要ですか?」
「とりあえず20位で良いよ、組み立てもミラに頼めるかな」
ミラは笑って言った。
「“接合”と“木材加工”で何とか出来ると思います」
「じゃ、急がなくていいから、合間を見て作っておいてよ。」
マリウスとミラの話を聞いていたミリが口を尖らせて文句を言う。
「良いなお姉ちゃん達ばっかり。若様私にも何か仕事がありませんか?」
ミリの言葉にマリウスが笑った。
「うん、実はミリにも頼みたい仕事があるんだ」
「私にして欲しい仕事って何ですか」
ミリの瞳が期待でキラキラしている。
話を聞き漏らすまいと、ウサギ耳がぴくぴく動いた。
「森の中に魔物を狩るための罠を作ろうと思っているんだ」
そう言ってマリウスが図面を一枚開いた。
ミリが覗き込むと、漏斗の様な絵が描いてある。
正三角形の一辺が無く、反対側の頂点に細い管が付いて行き止まりが丸くなっている。
「開いている方を森に向けて壁を作るんだ。中に入って来た魔物の中から、小さな魔物だけ此処の通路に引き込む、此の突き当りの処で、壁の上からミラに作って貰ったクロスボウを使って魔物を倒すんだ」
「どれ位の大きさになるんですか?」
「三角の一辺が100メートル位、通路が30メートル位かな。壁の高さは5メートル欲しいね」
ミリが目をぐるぐるさせて考えていたが、耳がぺたんと倒れる。
「そんなに沢山の石を準備出来ないし、私ひとりじゃ無理です。」
「僕が“クリエイトブロック”で作った土のブロックを使ってくれればいい、“強化”を付与するから、壁は一重で構わない、人が立つ足場は土魔術師に土で作ってもらうつもりだよ」
「一体何個土ブロックが必要なんですか?」
指を立てて必死に数えているミリに、マリウスが笑って答えた。
「計算してみたら、12000個もあれば十分だった。その位なら4,5日もあれば作れるよ」
「12000個が4,5日ですか」
後ろでノルンが呆れた様に呟く。
「ミリは壁だけ作ってくれればいいし、確か石工の友達がいるって言っていたね。その子たちを誘ってくれても構わない。あと騎士団からもブロックを運ぶ手伝いを何人か出すよ」
ミリは、倒れていたウサギ耳を再びぴょんと立てると言った。
「解りました。友達に声を掛けてみます。いつから始めればいいですか?」
「明日には東の森の最初の囲い込みが終るから、明後日位には始められるよ。最初は杭の内側にこの先の丸い所を作って欲しい。そこから森に向かって通路を伸ばしていって」
そう言って漏斗の先の丸い部分を指差した。
「一番先端に魔物の遺体を運び出す門を付けるから開けておいてね」
「はい、私頑張ります」
ミリが良い笑顔で答えた。
マリウスはミラ達に宜しくと言って工房を出た。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
マリウス達は次はブロックの工房を訪ねた。
工房に入ると相変わらずの熱気である。
マリウスを見つけると、オレンジ色の髪をしたナターリアがトコトコと近付いて来た。
「今日は若様」
「今日はナターリア、ブロックさんはいるかな?」
「うん、呼んでくる」
ナターリアは奥に入って行った。
エリーゼが壁に掛けられた剣をキラキラした目で見ている。
ノルンも滑車を珍しそうに見ていた。
「これは若様、よくお出で下さいました。今日はクルトさんの外にも、お連れがおられる様ですな」
中から髭を生やしたブロックが出てきた。
ノルンもエリーゼも驚いている。
多分本物のドワーフを見るのは初めてなのであろう。
「今日はブロックさん、二人は僕の仲間でノルンとエリーゼです」
「今日はノルンです」
「今日はエリーゼです。ブロックさんはドワーフなんですか」
エリーゼが好奇心を抑えられない様に尋ねた。
「いかにも私はドワーフです。ドワーフを見るのは初めてですかな?」
そう言って笑うブロックに、エリーゼが言った。
「あ、いえすみません。エールハウゼンにはドワーフの方はいないものですから」
「なに構いません、此処では皆に良くして貰っていますから。それで若様今日はどの様なご用で」
「実は仕事を幾つかお願いしたくて来たんだ」
そう言ってマリウスは図面を取り出した。
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