3―14  重複付与


「ねえ、あんた達兵隊さんについて行かなくて良かったの?」

 ベアトリスの問いに、ケリーがエールをぐいぐいと飲み干してから答えた。


「どうせ城に負け戦の報告をしに帰るだけだ。あたし達には関係ないよ。金はもうクランが受け取っているしさ」


 あの儘エレーネたちは、『白い鴉』の五人と近くの酒場に入った。


 五人は酒場に入ると手当たり次第に料理と酒を注文し、皿が来る端から五人で取り合って平らげていく。


 既に10枚以上の空になった皿が、テーブルの端に積み上げられていた。


 五人は更に料理を注文すると、エールや葡萄酒を水の様にがばがば流し込んでいた。


「二日間飲まず食わずで駆け通しだったんだぜ、途中でハイオークの大軍と一戦交えるし。ほんと散々だったよ」

 壁に槍を立てかけてバーニーがぼやく。


「ハイオークも出たの?」

 ヴァネッサの質問にエレノアが答えた。


「もともとそっちが本命よ、ハイオークの縄張りからミスリル鉱山を奪って、街を作る計画だったの」


「ほとんど辺境伯軍が片付けたし、楽な仕事だと思ったのだがな」

 アデルの言葉にバーニーも頷く。


「辺境伯とドラゴンがすっげー強くて、ハイオークの大軍があっという間に蹴散らされたからな。俺たち出番も無くて眺めていただけだったよ」


「それが二日目の夜に突然地面から、わさわさと3メートル位あるアリの魔物が出てきて、あっという間にその辺に居た冒険者たちを食い殺したのさ」

 ケリーが顔を顰めて言った。


「あのアリ、絶対ミスリルだった」

 ソフィーが呟いた。


「ミスリル?」

 ヴァネッサが聞き返すとエレノアが興奮したように言った。


「殻が硬くて魔法が全然効かなくて、銀色に光ってたの、あれ絶対ミスリルで出来た殻よ」


「そんなのが1万匹位出てきたんだ。さすがの辺境伯軍も逃げるしか無かったさ」

 ケリーの言葉に『白い鴉』の全員が頷く。


「ミスリル鉱山はどうなっちゃうの?」

 ベアトリスが聞くとケリーがうんざりしたように答える。


「どうもこうもブルクガルテンの出城まで落ちて、吊り橋を焼き払っちまったんだ。魔境に入る道すら失ったんじゃ、どうにもできないだろう」


「たとえもう一度橋を架けても、あれじゃ手が出せないわよ。辺境伯軍もあれだけ被害が出たら当分動けないだろうし、あたし達是で解散じゃない」

 ケリーの言葉にエレノアも頷く。


「またダンジョンに潜って稼ごうよ、その方が絶対良いって」

 バーニーがケリーに言った。


「ああ、それが良いかもな。ヴァネッサ達もダンジョンに稼ぎに来たのかい。そう言えばそっちの美人さん初めて見る顔だね」

 ケリーがエレーネを見た。


「この子は最近仲間になったエリナよ、アドバンスドの風魔術師なの」

 ベアトリスがエレーネを紹介し、エレーネが軽く頭を下げた。


「アドバンスドか、もっとヤバそうな感じがしたんだけどね。あたし等はSランクパーティー『白い鴉』だ、あたしはリーダーのケリー。ヴァネッサ達とは4年くらい前から良くダンジョンで一緒に仕事してる」


「ダンジョンの仕事ですか?」

 エレーナが尋ねるとエレノアが答えた。


「ダンジョンの中にもミスリル鉱山があってね、そこの警備の仕事よ。勿論普通に魔物を狩って稼いでもいいのだけど、割のいい仕事なの。あ、私が火魔術師のエレノア。こっちのあんまり喋らないのが斥候のソフィーで其処のデカいのが盾師アデル、一番若い優男が槍士のバーニー」


「誰が優男だ。大して年も変わらないだろう。エリナは何処の出身なんだい?」


「ヴァイマルよ、最近王都に出てきてヴァネッサ達と知り合ったの」

 エレーネが打ち合わせ道理の話を答えた。



「ゴブリンロードがアースバルト領に出ただって? 本当にいるのかよそんな御伽噺?」


「ああ、エールハウゼンのギルドの奴が、此処のギルマスと話していたから間違いないさ」


 

 エレーネたちの隣の席で飲んでいる四人組の冒険者の話が、此方の席まで聞こえて来た。


「エールハウゼンのギルドの奴が何しにアンヘルのギルドに来るんだ?」


「なんでも大きな仕事が舞い込んだんで、冒険者を紹介してくれって話らしい。」


「フーン、それでゴブリンロードはどうなったんだ」


「引き連れていたホブゴブリンと一緒に討伐されたって話だ」


「子爵が討伐したのか?」


 エレーネはいつの間にか、ついつい隣の話に耳が傾いてしまっていた。


「いやそれが、止めを刺したのは7才の息子だったてよ」


「ウソだろう、7歳の子供がどうやってゴブリンロードを仕留めるんだ、只のゴブリンじゃないのか?」


「ほんとらしいぜ、その息子はゴブリンロードを倒した手柄が認められて、そのゴート村だかの執政官になったてよ」



「エリナ、どうする?」


「え……?」


 自分が呼ばれているのに気が付いてエレーネが我に返る。


「なーにボーとしちゃって、私達もダンジョンに行こうかって言ってるのよ」

 ベアトリスがエレ―ネの顔を覗き込んで言った。


「ああ、そうだな、それでいいよ」


 エレーネは動揺を抑えながらベアトリスに答えた。


 あの少年と別れて未だ一月もたってない。

 彼のギフトは早くも輝き始めているのだろうか?


 エレーネは心臓の鼓動が速くなるのを感じながら、マリウスに逢いたいと思った。


  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 朝目が覚めると、早速ステータスを確認した。

 ジョブレベルが10になっている。

 

マリウス・アースバルト

人族 7歳 基本経験値:6637

         Lv. :12


ギフト 付与魔術師  ゴッズ


クラス ミドル  Lv. :10   

        経験値:5162


スキル  術式鑑定 術式付与

     重複付与  


     FP: 112/112

    MP:1120/1120


スペシャルギフト

スキル 術式記憶 並列付与

クレストの加護

全魔法適性: 156

   魔法効果 : +156


 遂にミドルの付与魔術師の仲間入りを果たした。

 MPが220増えて、FPも22増えている。


 そしてレベル10のボーナススキル。


 昨日、鎧の付与の途中でクラスアップしているのに気が付いていたが、魔力が無いので新しいスキルを試せなかった。


 “重複付与”


 これはもしかしてあれか。

 マリウスはオークの魔石がまだ22個残っているのを思い出して、鞄の中から出した。


 自分の上着とズボンを重ねて“物理防御”を付与する。


 更に“魔法防御”を重ねて付与した。


 重ねた服が青い光に包まれて、付与が完了したことを知らせる。


 幾つ付与できるか知りたくて、ゴブリンの魔石を取り出すと、2つ握って“劣化防止”を付与する。


 成功した。


 マリウスは更に、“防寒”を付与しようとしたが、付与は発動しなかった。

 3つ重ねて付与できる事は確認できた。


 マリウスはもう一組の服にも“物理防御”、“魔法防御”、“劣化防止”を付与した。

 これでもう重い鎧は着なくて済む。


 魔石がもっと手に入れば、騎士団の兵士達の鎧に“物理防御”だけでなく“魔法防御”や“熱防御”の付与を付ける事も出来る。


 マリウスは満足すると、朝の鍛錬に出かけた。


  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 ケントとマリリンを含む5人の弓士の矢が放たれると、キャロラインを含む騎士と歩兵が一気に山を駆け降りた。


 ジェーンを含めた魔術師四人とマリウス、エルザが後に続く。


 角ウサギ6匹にグレートウルフが4匹、頭に鋭利な角を持った鹿型の中級魔物キラーホーンディア2頭と、脚を広げると5メートルもある、真っ赤な尖った毛の生えた上級蜘蛛型魔物、レッドタランチュラに矢と魔法、“剣閃”が降り注ぐ。


 角ウサギと1匹のグレートウルフ、一頭のキラ―ホーンディアが、矢に貫かれて斃れた処に騎士と歩兵が斬りこんだ。


 早く“物理防御”を付与した鎧の効果を試したい騎士団の兵士に引きずられる様に、マリウスは朝からまた、東の森に魔物狩に来ていた。


 希望者が多すぎるので抽選を行って、騎士6人と歩兵6人を選び、援護の弓士四人と魔術師三人、エルザ一行とマリウスの総勢24人の編成である。

 

 昨日と同じ丘の上に陣取って魔物が寄って来るのを待った。


 クルトはマリウスの護衛と云う事でシードとなり、ニナが当りを引いたが、フェリックスとオルテガは外れを引いて歯噛みした。



 ストーンバレットの連射で、角ウサギとキラ―ホーンディアを一匹ずつ倒したマリウスは、騎士と歩兵の白兵戦を観戦する事にした。


 魔術師たちも攻撃を控えて騎士達を見守る。


 いざとなればエルザとクルトが出るだろう。


 後ろでケントとマリリンが揉めている。

 グレートウルフの頭に二人の矢が同時に刺さったので、どちらの矢が仕留めたかで喧嘩しているようだ。


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