2-26  魔境探索


 魔法の威力が凄く上がっている様だ。


 レベルアップに伴って、全魔法適性と魔法効果が上がった所為だろうか。

 マリウスはそんなことを考えながら、目の前の机に並べた矢の束を眺めた。

 

 夕食を終えて部屋に戻ると、一頻りマリアから女の子の話で質問攻めにあったが、適当な返事をしていると、マリアも疲れたのか眠ってしまった。


 クラウスは騎士団で打ち合わせがあるそうで、夕食にはいなかった。

 昼間のエルザの話について考える。


 自分の付与魔術は、普通とは違うと言われても、ザトペック師匠以外の付与魔術師に、逢った事が無いのでよく解らない。

 

 ザトペック師匠にも二度教えを受けただけで、あれから会えていない。

 自重せよと言われても、与えられた力を確かめたい気持ちはあるし、何処までならやって良いかもよく解らない。

 

 マリウスは10本ずつ束ねられた矢を20本にして、“飛距離増”の付与を行った。

 それを10回続ける。

 

 オークの魔石は残り58個。

 魔力の残りは78。


 マリウスは今日覚えた“ウォシュ”を使ってさっぱりする。

 窓を開けると、アイスシールドを三つ浮かべて、一頻り動かしてから消した。

 

 思いついてもう一度“ファイアー”を使ってみる事にした。

 気を付けながらゆっくりと発動すると、指先に大きめのローソク位の炎が灯った。

 

 そう言えば未だ“ライト”を使って無かったのを思い出して炎を消すと昼間憶えた“ライト”を発動してみた。


 部屋がまぶしい光に包まれて、昼間の様に明るくなる。


「なーに、マリウスちゃん?」

 マリアが毛布の中から眠そうな声を出した。


 マリウスは慌てて“ライト”を消して言った。

「何でもありません。お休みなさい母上」


「ん、お休みマリウスちゃん」

 マリウスは魔道具の灯りも消してベッドに入った。


  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 ジークフリート、クルト、マルコ達10人の隊長格にダニエルも参加している。

 クラウスは一同の顔を見回した。


 皆期待に満ちた目でクラウスの言葉を待っている。

 どうやら何のために集められたか既に知っている様だ。

 

 まあ既にエルザの話は、皆に伝わっているだろうし、自分の決断を待っていただけだとクラウスにも分かっていた。


 エルザに乗せられた感は否めないが、これはアースバルト子爵家当主である自分の決定だ。


「既に知っている物も多いと思うが、我らはグランベール公爵家の依頼、魔境探索の任を引き受けることを決定した」

 

 クラウスは言葉に一同が感嘆を漏らす。


「ついに我らも魔境に踏み入る事になるのですな」

 マルコが感に堪えぬと言ったように言った。


「我らが辺境伯家と魔境の探査を競う訳ですか」

 フェリックスが闘志に満ちた顔で言った。


「ぜひ探査の軍勢に私もお加え下さい!」

 ニナがクラウスに願い出る。


 クラウスは苦笑すると皆の顔を見回して言った。


「そう逸るな、今直ぐ魔境に乗り込もうというのではない。まずは公爵家とも謀り入念な準備と調査を行いながらという事になる。恐らくこのゴート村か此処から南のノート村、魔境に接するこの2村を拠点にして調査を進める事になるであろう」


 クラウスの言葉をジークフリートが引き取って続ける。

「この仕事は御家始まって以来の大事業となる。皆に集まって貰ったのは、我らの心を一つにしておきたかったからだ、異論のある物は今のうちに申しておけ」


 ジークフリートの言葉に皆が顔を見合わせる。

 ニナが恐る恐る手を挙げた。


「異論などは有りませんが一つお伺いしたいのですが」

 ニナの言葉にクラウスが何だと云う風に顔を向けた。


「あの、若様は参加されないのですか?」

 ニナの質問に皆がクラウスを見る。

 

「マリウスか?」

 クラウスは意外な名前に戸惑った。


「ぜひ、若様も魔境探査の任に参加して頂きたいのですが」

 ニナの言葉に一同が騒めく。

 

「確かに若様の力は、普通ではないように思われるが、それでも未だ七歳だぞ」

 マルコが眉を顰めてニナを見る。


「いや、あの盾や矢、そしてゴブリンロードを仕留めた不思議な魔法の数々。若様の力は最早騎士団には欠かせないと、私も思います」

 フェリックスがクラウスに言った。


「先ほども中級水魔法を上級魔法並みの威力で、何発も放っておりました」

ダニエルが遠慮がちに報告する。


 あのバカ、自重せよと言った傍からもうやらかしておるのかと、頭を抱えるクラウスにジークフリートが笑い乍ら言った。

 

「御屋形様、若様は既にレベル10の一人前の戦士。若様の身は我ら騎士団が身命を賭してお守り致しますゆえ、何卒ご考慮下さりませ」


騎士団長の言葉にクラウスも考えざるを得ない。


「相分かった、無論私もマリウスの力は大いに当てにしておる。直接参加させるかどうかは少し考えさせてくれ」


(マリアに何と説明するかな)


 クラウスはこの先の顛末を想像して、また頭を抱えるのだった。


  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 マリウスは眼が覚めると、体の彼方此方が痛むのに気が付いた。


 何処か痛めたのかと、腕や足を動かしてみたが何処か怪我をしているわけではなさそうだった。

 

 起き出して服を着るズボンやシャツがぴちぴちで窮屈だった。

 胸や腕、腿が少し太くなったようだった。


 マリアは既に起き出した様でいなかった。

 何時もの様にステータスを確認してみるとジョブレベルが6に上がっていた。


 マリウス・アースバルト

 人族 7歳 基本経験値:5070

          Lv. :10


 ギフト 付与魔術師 ゴッズ


 クラス ビギナー Lv. :6   

         経験値:2056


 スキル  術式鑑定 術式付与

  

       FP:  61/ 61

       MP: 610/610


スペシャルギフト

スキル   術式記憶 並列付与  

クレストの加護

     全魔法適性: 128

     魔法効果 : +128


 レベルが上がるのに必要な経験値の条件が何となくわかって来た。

 基本経験値もジョブ経験値も多分条件は同じで、一つ上がるごとに必要な経験値が100増える様だった。


 次にレベルが上がるのは経験値が2100を超えた時、魔力が610あるから今日一日魔法を使えば、余裕でジョブレベルを上られる計算だった。


 基本レベルが上がった事で、魔力量が増えてレベル上げが加速した感じがする。

 食堂に行くとマリアはリザと朝食の準備をしていた。


 普通、貴族の奥方が調理などしないのだがマリアはこの村に来てから、ずっとリザを手伝って厨房にいた。

 

 昔冒険者をしていた時は、料理担当だったというマリアは料理が好きなようだ。


「エルザ様は食べるだけでしたからね」


「誰が食べるだけだ、私も肉位焼いたぞ」

 席について一人で食事をしているエルザが言った。


 エルザは結局此処に泊まったらしい。

 三人娘はテントに寝泊まりしている。


「塩をかけて焚火で直接焼くだけでしたね。よく焦がして、アイリスさんが怒っていましたね」


「ふん、あいつこそ食べるだけだったわ」

 エルザがそう言って、ソーセージに噛り付いた。


 マリウスはマリアに、大きめの服が無いか尋ねた。


「あら困ったはね、服はそれ程持って来てないのだけど、マリウスちゃん太ったの」


 マリアがマリウスの体にぺたぺた触って言った。

「あれ、マリウスちゃん、なんか逞しくなってる。胸が前より厚くなっているわ」


「昨日まで何ともなかったのに、そんな急に変わらないでしょう。」

マリウスが自分の体を見る。


 エルザが笑って言った。

「急にレベルが上がったから、体が無理について来ようとしているのだ。彼方此方痛むのではないか」


「あ、ハイ今朝起きたら急に痛み出しました」

「筋肉痛だな、直に慣れる」


 マリウスはそう云う事かと納得したが、今日の朝の訓練は中止にすることにした。


 走り回ると服が破れそうだった。

 リザが取り敢えずと女物のシャツとズボンを貸してくれたのでそれに着替えた。

 

 服はちょうどぴったりだった。

 リナが来ていた服らしい。


「マリウスちゃんは、可愛いから女の子の服もよく似合うわ」


 マリアが嬉しそうに言ったが、マリウスはあまり嬉しくなかった。

 スカートを履かされなくて良かったと思いながら、エルザの前に座る。


 後でリザが、村に一軒だけ有る服屋に連れて行ってくれると言った。

 エルザは食べ終わって、お茶を飲んでいた。


「マリウス君、今日は何をするんだい、昨日はうちのジェーンを泣かしたそうだが」

 エルザがにやにやしながらマリウスに言った。

 

 マリアが食事の皿を運びながら驚いて言った。


 「まあ、マリウスちゃんマリリンさんだけじゃなく、ジェーンさんともお付き合しているの? 私聞いてないわよ」


「泣かして無いし、付き合ってもいません。水魔法を見せて貰っていただけです」

マリウスが憤然と言った。 


 そんなに年上好きではない。


「マリウスちゃん土魔法の次は、水魔法なの、そんなに覚えてどうするの?」

 マリアが不思議そうに聞いた。


「ええ、何となく便利そうだったので」

 マリウスが曖昧に笑って答えた。


「ジェーンより強力な魔法を放ってジェーンを自信喪失にさせたそうだ。アレは暫く使い物にならんとキャロが言ってきた」

 エルザが楽しそうにマリアに言う。


「うちのマリウスちゃんは、魔法の天才ですから」

 マリアが胸を張ってドヤ顔をした。


 マリウスは何故か居たたまれない気分になりながら、パンにジャムを塗って噛り付いた。


 


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