2-18 マリウス
ステータスを確認してみろとエルザに言われて、ステータスウインドを開いてみた。
マリウス・アースバルト
人族 7歳 基本経験値:5070
Lv. :10
ギフト 付与魔術師 ゴッズ
クラス ビギナー Lv. :5
経験値:1462
スキル 術式鑑体 術式付与
FP: 60/ 60
MP: 600/600
スペシャルギフト
スキル 術式記憶 並列付与
クレストの加護
全魔法適性: 127
魔法効果 : +127
基本レベルが10になっていた。
経験値が5000も増えていた。
MPも460増えて、FPも46増えている。
スペシャルギフトの全魔法適性と魔法効果も23ずつ増えていた。
自分を見つめるエルザやクラウス達の視線に気づいてマリウスが答えた。
「基本レベルが10に成っています。魔力も理力も凄く増えた様です」
「レベル10だと?」
クラウスが驚いて問い返す。
「七歳でレベル10ですか?」
クルトも驚きを隠せないように呟く。
「はい、経験値が5000増えてます」
マリウスの言葉にエルザが笑いだした。
「5000とはな。レアでもかなり上位の魔物だったようだな」
そう言ってエルザはゴブリンロードを見た。
クラウスは首を捻りながらマリウスを見る。
基本レベルが上がるとHP、FPがリセットされて疲れが取れるのはクラウスも経験があったが、怪我まで治ったというのは聞いたことがない。
そのことをエルザに尋ねた。
「高レベルの魔物に止めを刺して、一気にレベルが上がると、怪我まで治っていたという冒険者の話を聞いた事が有る」
とエルザが答えた。
「それは、つまり?」
クラウスの問いかけにエルザが答えた。
「ゴブリンロードに止めを刺したのはマリウス君だという事だ。恐らく心臓の中の魔石を砕いたのだろう」
そう言ってゴブリンロードの左胸に刺さる剣を指差した。
エルザの言葉に、兵士達の間にどよめきが走る。
逃げ出していた村人達も、何時の間にか集まっていた。
東の空が白みだして、長い夜の終わりを告げる。
ジークフリートやケント、ダニエル達もマリウスを見つめていた。
エルザはゴブリンロードに突き立っていた剣を引き抜くと、一振りして血を払いマリウスに手渡した。
「さあ、マリウス君、皆が待っている」
? 何を言われたのか解らずにきょとんとするマリウスに、クラウスが笑い乍ら言った。
「勝ち名乗りを挙げんか」
クラウスの言葉にマリウスは皆の顔を見た。
マリアもクルトも、ジークフリートも兵士達も、村人も期待を込めた目でマリウスを見つめていた。
エルザが頷く。
マリウスは上気した顔で剣を持ち直すと、頭上に振り上げて高らかに宣言した。
「ゴブリンロードをマリウス・アースバルトが打ち取った!」
東の空から朝日がさしてマリウスを照らした。
村人や兵士達から歓声が上がる。
ミリやミラたちも手を振ってくれているのが見えた。
クリスチャンとリザもいる。
怪我をした兵士も仲間に肩を借りながら、マリウスに賞賛を送ってくれていた。
逃げ回っていただけの自分が、皆を守る事が出来たのだろうか。
そんな気持ちもあったが、
『今はこれで良いんじゃないか、上出来だよ。』
と言うアイツの言葉にマリウスも納得する。
そう、今はこれで良い。
「エルザ様お怪我は有りませんか?」
ジェーンが心配そうにエルザに尋ねた。
「ああ、大丈夫だ、理力切れだ。少し安めば治る」
エルザが答えると、キャサリンが言った。
「ほんとにしぶとかったですねゴブリンロード、ユニークかと思いました」
「再生能力と魔法防御の鎧でほぼ無敵だったからな、ユニーク並の強さだったな」
エルザも認めた。
「でもあのゴブリンロード、ずっと子爵の若様を追っかけてるみたいでしたね」
マリリンの言葉にジェーン達も頷く。
「そうなのか?」
「ええ。そういう風に見えました」
「エルザ様居なかったから」
「また迷子になっていたんですか?」
マリリンの言葉は無視しながらエルザは考える。
確かに村人に被害は無かった。
ゴブリンロードに挑んだ兵士にだけ被害が出ている。
「マリウス君だけを狙って、夜襲を掛けて来たという事か」
しかも配下のホブゴブリンをすべて捨て駒にして。
ゴブリンロードの行動は明らかにおかしかった。
最初に東側を攻めたホブゴブリンも、自分が率いていたホブゴブリンも、自分が村の中に乗り込むための捨て駒だった。
そうまでして村に侵入した目的が、マリウスだったのか。
エルザは地面に転がるゴブリンロードの死体を眺めながら、物思いに耽った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「マリウスちゃん本当に大丈夫なの?」
「若、ご無理なさるな、大切なお体ですぞ」
「マリウス、部屋で休んでいても良いのだぞ」
頭に包帯を巻いたマリアや、腕を包帯で吊ったクラウスとジークフリートが口々にマリウスを気遣うが、どう見ても彼らの方が重傷に見える。
マリウスはステータスがリセットされた所為か、1時間ほどしか眠っていないにも関わらず体が軽く、寧ろ力が漲っていた。
あれからクリスチャンの屋敷に戻って、朝食を食べながら戦況の報告と今後の処理の話をしている。
クルトやマルコ、ニナ達隊長格も同席している。
皆、体の彼方此方に包帯を巻いており、正に満身創痍と云った有様だった。
何故か一緒に参加しているエルザだけが無傷の様だった。
隊長達の報告で昨夜の夜襲で騎士団が被った被害は、死者4名怪我人38名と云う事だった。
村人の被害がゼロだった事だけが唯一の救いだった。
畑も多少踏み荒らされていたが、大きな被害も無く無事復旧できるとの事だった。
「やはりホブゴブリンの拠点は潰しておかねばなるまいな」
クラウスの言葉に皆が同意する。
「放っておけばまた数を増やして村を襲って来るやもしれません。根絶やしにせねばならんでしょうな」
ジークフリートが答えた。
クラウスは頷いて皆を見回した。
皆、ボロボロであったが、目の光は失っていない。
これで決着をつけるという闘志を、瞳の奥に漲らせていた。
クラウスは満足すると宣言する。
「うむ、皆ご苦労だが明後日、ホブゴブリン殲滅の為に出陣する。ジーク、兵300を選抜せよ。私が指揮を執る!」
「はっつ! 直ちに。御屋形様某も御供仕ります」
ジークフリートの言葉にクラウスが苦笑しながら答えた。
「許す! それまでに傷を癒しておれ!」
「はっ! 有り難き幸せ、なにこの程度の掠り傷何程のことも御座らん」
ジークフリートは嗤いながらそう言って、包帯で吊った左手を挙げようとして顔を顰める。
マルコ達が失笑して、ジークフリートに睨まれた。
「私も行こう。勿論従者たちも連れていく」
エルザが申し出た。
「エルザ様に参陣して頂ければ心強い。されどエルザ様の手を煩わす程の相手は最早おらぬと思いますが」
訝るクラウスにエルザが笑って答えた。
「なに、後顧の憂いを断っておきたいだけだ、それに少々気になる事もあるでな」
「気になる事、ですか?」
探るようにエルザを見るクラウスにエルザが良い機会であると云う様に話を始めた。
「ああ、何故魔境に居た筈のゴブリンロードが眷属を連れて人の世界に出てきたのか、何故あれほど執拗にこの村を襲ったのか、行ってみれば或いは何か手がかりが有るやもしれん」
エルザは話ながらマリウスに視線を向けるが、マリウスはジャムを塗ったパンに齧り付いている最中だった。
エルザは苦笑するとクラウスに視線を戻して話を続けた。
「私は長い事考えていたのだよ。帝国との和議がなって久しい。これまで辺境伯家が唯一魔境を切り開いてきたが、そろそろ我らも魔境に進出することを考えても良いのではないかとな」
「魔境にですか?」
クラウスが眉を顰めて考える。
国内最大貴族である公爵家と辺境伯家は、王国の不文律で長年役割が分担されてきた。
寄子の戦力を合わせると、常備戦力は一万を超え、戦時には五万の動員力を誇る公爵家は、エルドニア帝国を中心とした東側諸国に対する防衛の任を担ってきた。
それに対して強力な竜騎士と騎馬部隊を中心にした七千の騎士団と、南方の海を守る強力な海軍を有する辺境伯家は魔境に対する防衛と探索を担っている。
唯一、11年前の帝国との対戦のおり、辺境伯家が公爵家に援軍を出したのを除けば、両家は一切交わり持たず不干渉を貫いていた。
「そう魔境だ。此度の惨禍は子爵家にとって誠に不幸な出来事であったが、私はそれを我らが飛躍するための機会としたい」
エルザのとんでもない話に、ジークフリートが思わず口を挟んだ。
「恐れながら、それは公爵閣下の御意志で御座いますか?」
エルザは口元に笑みを浮かべながら答えた。
「エルヴィンは小心者故二の足を踏んで居るが若い軍師は乗り気だ。あ奴が一番辺境伯家の躍進を警戒しておるでな」
エルザの言い草に苦笑しながらクラウスが尋ねた。
「辺境伯家の躍進で御座いますか?」
「ああ魔境の中に大規模なミスリルの鉱山が発見された噂は、皆も聞き及んでおると思うが、辺境伯は今現在これを確保すべく、大規模な軍を編成中と云う報せが入っておる」
「その噂は誠で御座いましたか」
クラウスが驚きを隠せない。
武器から魔道具に至るまで、飛躍的に効果を高めるミスリル銀はこの世界では金と同等の価値がある。
戦時においては同じ重量の金以上の値で取引されることもあった。
もともと辺境伯家の財力の一端は、ダンジョン内に発見されたミスリル鉱脈に寄る処が大きい。
更に辺境伯家が大規模なミスリル鉱山を手に入れるとなれば、公爵家が色めき立つのも無理からぬ話では在った。
「もはや疑う余地はない。辺境伯は既に魔境の中に採掘の為の拠点を作るべく、王都の冒険者ギルドに、数百人規模の冒険者の雇用を打診している」
既にそこまで話が進んでいるとは、とクラウス以下子爵家の面々は、驚きを隠せない様子でエルザの話を聞いていた。
「場所が場所故王家も手が出せぬ。このまま行くと、全て辺境伯の独り占めと云う事になろうな」
エルザの情報は勿論ロンメルからの物である。
此の儘では辺境伯の力が強大になりすぎることを危惧した宰相ロンメルは、辺境伯家と何とか繋がりを持とうと画策しながら、同時に公爵家を辺境伯家への牽制として動かそうとしていた。
エルザはロンメルの企みを百も承知で乗ってみても良いと思っていた。
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