2-5 土魔法
クルトに起こされて目覚めた。
起き上がると、クルトが昼食の乗った盆を渡してくれる。
パンに炒めた干し肉と野菜を挟んだものとスープを食べながら、ステータスを確認する。
魔力が60になっていた。
やはり仮眠でも1時間に1割程戻る様だ。
クルトに手前八つの盾の山の付与が終っている事を告げと、運び出す為の兵士を呼びに外へ出た。
柵の補修作業の喧騒が此処まで聞こえてくる。
マリウスはテントの外に出ると、東門に向けて歩いて行った。
破損個所の修理は殆ど完了している様だ。
上の方には、前は無かった板が柵に張られている。
投石が侵入するのを、防ぐためであろう。
陣地の数も倍ほどに増えている。
切り出した木材を使って以前より頑丈になっている様だ。
南側や北側の柵にも工事が拡大している様だった。
開け放たれている門から外を見ると、冒険者装備のマリアが見えた。
マリアが上級土魔法“フォックスホール”を使った。
柵から10メートル程離れたところに柵と平行に、土が盛り上がりその向こうに、50メートル位先まで幅3メートル位の溝が出来上る。
マリウスは“術式鑑定“と“術式記憶“のスキルで、マリアの”フォックスホール“を記憶した。
土魔術師は土魔法しか使いないわけではないし、火魔術師や水魔術師も同様である。
術式を記憶すれば発動することは出来る。
ただ、それぞれの属性の魔法を増幅できる様々なスキルを有している為、効果は桁違いとなる。
それゆえの魔術師なのだ。
マリウスは全魔法適性と言うスペシャルギフトの御蔭で、どの属性の魔法も使える筈である。
既にノルンから、初級風魔法は教えて貰っていた。
上のクラスの魔法は覚えても発動させることは出来ない。
正確には、使うための魔力が足りない。
今のマリウスの魔力量だと、マリアの上級魔法フォックスホールを覚えても、一日に一回発動するのがやっとであろう。
マリアがマリウスを見つけて手を振っているので、門を出て傍に行く。
「起きたの、マリウスちゃん」
「何をしているのですか?」
「旦那様に頼まれて堀を作っているのよ」
そう言ってマリアが胸を張る。
マリアはレアの土魔術師で、こういう土木工事はお手の物である。
盛り上がった土の上に登って覗いて見ると、堀の深さは2メートル位ある。
既に東側の柵の半分以上が出来上がっている。
騎士団の土魔術師3人が“土操作“、“圧縮“と云ったスキルを使って、堀の横を固めて補強したり、盛り上がった土を使って堀に沿って1メートル位の高さの土壁を作っていた。
恐らく堀とこの壁で、敵の足を停め柵から弓や魔法で倒す備えなのだろうと思った。
マリウスはふと思いついてマリアに言った。
「母上、何か初級の魔法を見せて貰えませんか」
マリアは少し考えが。
「そうね、護身用に一つぐらい覚えておいた方がいいかもね」
と言って、外に向かって手のひらを向けると“ストーンバレット”を放った。
直径5センチほどの石がヒュッと風切り音を立て真っ直ぐ200メートル以上飛んで見えなくなった。
マリウスも今見た術式を思い浮かべて、外に向かって手のひらを広げると“ストーンバレット”を発動してみた。
マリアと同じ位の石が飛び出して、見えなくなった。
マリウスは自分の手の平を見ながら、こんなものかと云う顔をしているが、マリアが驚いた様な顔で言った。
「嘘っ! 凄いはマリウスちゃん、なんで私と同じ威力なの。適正も無いのになんで?」
スペシャルギフトの事はクラウス達にも話していない。
なんでと言われても、答えられないと思っていると、二人の様子を見ていた三人の土魔術師が集まって来る。
「若様! 私の魔法も見て下さい」
「私のも!」
「私も!」
と次々初級魔法を披露し始めた。
空中に直径50センチくらいの石の盾を15秒位作る“ストーンシールド”。
前面に砂を振りまく、“サンドミスト”。
直径1メートル、深さ3メートル位の孔をあける“ピット”。
なんか微妙なラインナップだと思いながら、マリウスは全て記憶し発動させてみた。
全て土魔術士達以上の効果と持続時間で発動する。
「私自信無くなった……」
ミドルの土魔術師のブレアが呟く。
アドバンスドのグレンとミドルのピエールも悄然としている。
「何をしている」
振り返るとクラウスが立っていた。
えーと、またやらかしたのかな?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「マリウスに初級の土魔術を教えたら、適正も無いのにレアの私と同等の威力の魔法を発動して見せたと」
マリアの説明に、クラウスは腕を組む。
とんでも無い事の様にも思えるし、ゴッズならそれ位出来ても不思議はないとも思える。
最早クラウスにも、息子の力の事は良く解らない。
マルコ達が、
「凄いです、さすがは若様!」
と囃している、クルトなどは、
「マリウス様ならば、当然である!」
等とドヤ顔で胸を張っている。
クラウスは苦笑しつつ、まあ凄いと言っても所詮初級魔法、騒ぐ程のことでも無いかと、この件は不問にすることにした。
「マリウス、木盾の方はどうなっている?」
「はい。昨夜30枚、午前中に104枚完了しています」
マリウスの言葉にクラウスがまた驚く。
「もうそんなに出来たのか。よしクルト、出来た物から皆に支給せよ!」
「はっつ! 直ちに。」
と言ってクルトは足早に去った。
「マリア。堀の方はどうだ?」
「うーん、今日は半分くらいね、魔力が持たないわ。明日には全周いけると思います」
マリアの返事にクラウスは充分だと頷く。
どの程度効果があるか分からないが、柵とマリウスの木盾で投石を防ぎ、堀で素早いホブゴブリンの動きを止めて、弓矢と魔法で数を減らす。
最後は騎士の力に頼るだろうが、出来る限り被害を抑えて敵を殲滅する。
この件が片付いたら、エールハウゼンの防備も強化しようと、クラウスは思った。
ここからエールハウゼン迄は馬で半日程の距離しかない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
魔力を確認すると44になっていた。
初級魔法4発で16減っている。
初級土魔法の魔力使用量も風魔法と同じ4と云う事だろう、今の魔力量だと一日に35回石を投げられる、思ったらあまり凄いとは思えないが。
目つぶしのサンドミストや、落とし穴のピットの方が、いざと云う時役に立ちそうな気がする。
ストーンシールドも便利そうだけど、30秒くらいで消えてしまった。
初級風魔法の方が少し強力な様に思える。
土魔法はどちらかと言うと、生産職に近い便利な魔法と言う感じがした。
アイツが言うような『無双』には程遠いと気がする。
東側の柵の補修が終ったらしい。
兵士の人達が嬉しそうに引き上げて来る。
出来上がった柵は、彼らの命を、村人の命を守ってくれる。
やはり自分は付与魔術師を極めよう。
マリウスは素直にそう思えた。
テント迄駆けて戻ると、魔石の入った鞄をもって柵に戻る。
魔石を小分けにして入れているが、かなり重かった。
ゴブリンの魔石の瓶を取り出そうとして考え直す。
貰ったばかりのホブゴブリンの魔石の瓶を出して、左手に10個握りしめた。
左手から魔力が流れて来るのが解った。
大丈夫、いける。
「あとはギフトが教えてくれまする」
ザトペック翁の声が聞こえた気がする。
柵の柱の一本に右手の平を当てた。
大丈夫、端から端まで良く見える。
皆を守る物に、“力”を与える。柵が青い光に包まれた。
東側の柵の端から端まで包んだ光は、広がって柵だけでなく傍の簡易陣地も包んだ。
兵士たちが、目の前の光景を呆然と眺めている。
クラウスとマリアも柵の向こうで光を見つめていた。
「暖かい」
マリアがポツリと呟く。
やがて光が消えて、何事も無かったかの様に元の木の柵に戻った。
「わ、若様?」
マルコが声を震わしながら、マリウスに声を掛ける。
マリウスは少しはにかんだ笑顔で答える。
「うん、大丈夫上手く行ったみたい」
「あ、あのそれは、つまり、柵が全部“強化”されたという事で、宜しいのでしょうか」
恐る恐る尋ねるマルコにマリウスが答える。
「全部じゃないよ、東側の柵だけね」
「あの、陣地も光っていましたけど」
マリウスも首を捻った。
「多分全部まとめて、『柵』って事なんじゃないかな」
「何でもありか!」
マルコの突っ込みに、クルトがガハハと笑う。
「マリウス様なら当然である!」
キャラが確定しつつあるようだ。
「マリウス、今度は何をした?」
振り返るとクラウスが立っている。
ハイ、分かっています。
またやらかしたんですね僕。
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