1-3 ギフト
クラスとは才能である。
下からビギナー、ミドル、アドバンスド、レア、ユニーク、レジェンド、ゴッズの七つのクラスがあり、半数位の人間はビギナーのギフトを与えられ、残りの半数の大半はミドルクラスのギフトを与えられる。
それ以上のクラスのギフトを得るのは、ほんの僅かの者だけであった。
この王国の、最高クラスのギフトはユニークだと言われている。
レジェンドは歴史上に数名しか顕現しておらず、いずれも後世に名を残した偉人たちである。
ゴッズに至っては神話の中の存在であり、本当に存在すのかさえ怪しいと思われている。
そしてジョブは適正である。正確な数は分っていない。
何十年かに一度、新しいジョブが発見されている。
或いは新しく生まれてくるのかも分からない。
少なくとも50種類以上はあると言われているが詳細は謎である。
それを研究している学者もいると云う。
付与魔術師で、クラスはゴッズ。
付与魔術師って確か、支援職系で武器や防具に魔法付与して強化したり、戦闘時に仲間に
『チート来たぁ!!』
とは言え。いきなりゴッズクラスのスキルが解放されるわけではない。
最初は誰でもビギナーからスタートになる。
ジョブ経験値を積んでクラスアップし、一つずつクラスを解放し、スキルを得ていく訳である。
そしてゴッズのギフトを得るという事は、言い換えると、クラスアップの上限が無くなると云う事である。
原則としてミドルのギフトの物はミドルクラスまで、ユニークのギフトの物はユニーククラスまでしか、スキルを解放する事はできない……
『お約束! 生産無双!』
しかし、ゴッズのギフトであれば、実質、制約を受けることはない。
ん、歴史上たった3人?
確かこの大陸の歴史の中で、ゴッズのギフトを貰った偉人は、1000年前この大陸全土を統一した伝説の竜騎士、英雄王イザーク・ルフトと、2000年前外ならぬこのクレスト教を開いた大聖女ウルスナ・ロレーヌの二人だけだという事は、子供でも知っている話のはずだが……。
『もはや俺しか勝つん!』
「うるさい!!」
マリウスは、思わず声に出して怒鳴ってしまった。
怪訝そうに自分を見る、司祭や父に慌てて何でもないと首を振ると、口を閉じて俯きながら、心の中でもう一人の自分に怒鳴りつける。
「ラノベって何?! 異世界って何処?! ファンタジーってなにそれ食べられるの?!」
アイツは『それもお約束』と嘯いた。
〇 〇 〇 〇 〇 〇
「ゴッズ? 確かにゴッズと聞こえた」
暗い部屋で、壁に盗聴の魔道具を当てて、隣の祭壇の間の声を聴いているのはこの教会の司祭オットー・ベルハイムであった。
領主の息子の福音の儀を、王都の一等司祭の手で執り行われると聞かされた時、オットーは軽い屈辱感を味わった。
彼は福音の儀で、アドバンスドの聖職者のギフトを授かり教会入りを果たした。
自分は、選ばれた人間だと一時は有頂天になったが、直に自分の限界を知らされる事になった。
女神のギフトを仲介する、“福音”のスキルは、アドバンスドクラスが解放すると伴に習得することが出来た。
しかし下級のギフトを与えるスキル“ギフト”は、レア以上のギフト持ちでなければ習得できない。
結局、彼は二等司祭止まりで、こんな辺境の教会の司祭に送られる事になった。
そして其処でも、また一等司祭の従者の様な事をさせられる事になるとは。
この教会の奥の祭壇の間には、裏に隠し部屋がある。
彼は、四人が奥の祭壇の間に入るのを見届けると、子爵夫人に少し所用を片付けたいと断って、四人が入ったのと反対側の扉に入り急ぎ足で隠し部屋に向かった。
“ギフト”の秘術の秘密を少しでも知ることが出来れば……。
そんな野心で、隠し部屋から盗み聞きをしていたオットーはとんでもない秘密を知ることになった。
オットーは、これはチャンスだと思った。
このまま田舎の教会で一生を終えるだけと思っていた人生に、突如舞い降りた、正しくギフトであると。
〇 〇 〇 〇 〇 〇
「マリウスちゃん! 大丈夫? うまくいった?」
父と司祭、認証官は話があるからと部屋に残り、マリウスだけが聖堂に戻ってくると、姿を見つけた母のマリアが、笑顔でマリウを迎えた。
マリウスが出てきたのと同時に、反対側のドアからベルハイム司祭が出て来た。
「お疲れ様です、マリウス様」
司祭は何故か引き攣った笑顔を浮かべて、マリウスに声を掛けた。
マリウスは司祭に会釈すると、母を見た。
「はい。えーと、多分、大丈夫です」
「どんなギフトを、女神様から頂いたの?」
「えーと、付与魔術師です」
マリウスは、聖堂の端にいるこの教会の司祭に聞こえないよう小声で答える。
「あら素敵なギフトを貰ったじゃない、良かったわね、女神さまに感謝しなくちゃ」
「そうでしょうか、支援職ですよ?」
「関係ないわよ、マリウスちゃんは優しい子だから、その力で皆を助けてあげれば良いのよ!」
母は屈託なくそう言って、マリウスに笑いかける。
マリアの言うことが正しいのかもしれない、マリウスはそう思うと、何か迷いが晴れたような気がして、急に前向きな気持ちが湧いてくるのを感じた。
「そうですね。確かに素敵なギフトを頂いたと思います」
「そうよ! それに何といってもヘレナ様と同じギフトじゃない」
そう、先程の話に出ていた二人(三人?)のゴッズの一人、英雄王イザーク・ルフトの王妃ヘレナは、自身もレジェンドの付与魔術師で、祝福の女神と呼ばれ、イザーク王の統一事業を助けたと云う。
マリウスは改めて先程見た自分のギフトについて考える。
マリウス・アースバルト
人族 7歳 Lv. :1
経験値:70
ギフト 付与魔術師 ゴッズ
クラス なし
Lv. :0
経験値 :0
スキル 術式鑑定 術式付与
ジョブが『なし』とあるのは、まだ付与魔術師に成れてないと云う事か。
福音の儀でギフトを授かるとき、必ず2つのスキルを習得することができるという。
生産職系は仕事を始める為の職業知識を、戦闘職は戦う体を構築するための、身体強化を、魔法職は魔法を構築する呪文の術式を鑑定する力をと、それぞれのジョブを極めていくための前提になるスキルを1つと、ジョブ固有の一番初級のスキルを、最初に得ることができる。
つまり付与魔術師の固有初級スキルは、術式付与という事になる。
火魔術師が火魔法しか使えないと云うわけではない。
術式を覚えれば、水魔法も使えるし、逆もまたしかりである。
ただ、火魔術師は火魔法を自由に行使し、また効果を上げるスキルを得る事が出来る。
先程もう一人の自分が騒いでいたが、この世界の人間はみな自分のスキルやFP、MPを、数値で確認することが出来る。
スキルはレベルアップで得られる事もあれば、修行によって得られる事もある。
それは、戦闘職が自分のFPを使って発動するアーツも同じである。
自分のステータスは他人には見えないし、他人のステータスを見ることもできない、
高クラスの商人や役人には、他人のステータスを覗き見る人物鑑定のスキルを持つ者がいると云う話を聞いたことがあるが、実際に真偽の程は解らない。
まあ、そんなスキルを持っていても決して口にはしないだろ。
マリウスは自分のステータスを開く。
マリウス・アースバルト
人族 7歳 基本経験値:70
Lv. :1
ギフト 付与魔術師 ゴッズ
クラス なし
経験値:0
Lv. :0
スキル 術式鑑定 術式付与
FP: 10/10
MP:100/100
スペシャルギフト
スキル 術式記憶
全魔法適性 : 100
魔力効果 : +100
『成程、スペシャルギフトっていうのがチートな訳だな』
もう一人の自分の興奮が止まらない。
解らない筈の言葉が、何故かすべて理解できる。
マリウスは、段々自分が考えているのか、もう一人の自分が考えているのか、よく解からなくなる様な不思議な感覚を感じながら、自分のギフトについて考える。
おそらくジョブレベルは、付与魔術を使えば自然に増えるはず。
FPは理力、MPは魔力を指す。
理力は物理効果の延長線上にあると考えられている。
戦士や生産者は、理力を自分の体や武器、道具に纏わせ、アーツと呼ばれる技を駆使する。
魔術師は魔力を使いスキルを発動して効率よく魔法を使いこなす。
基本レベルは20歳位までは、毎年経験値が10位増えていく。
その後数字は緩やかになり、40歳を過ぎるころにはほとんど上がらなくなるという。
経験値が貯まるとレベルアップできるが、普通レベル3か4位で終わるらしい。
経験値が100になるとレベル2になれる。
使える理力や魔力が大体倍くらいになり、其の為この世界では10歳を過ぎると、働き始める人が多い。
戦場に出て戦ったり、魔物と戦ったりすると経験値は上がる。
相手を倒せば、かなりの経験値が手に入ると云われている。
基本レベルが上がると、MP、FPだけでなくすべての能力が上がっていくらしい。
兵士や冒険者は当然レベルの高い物が多い。
高クラスのギフトがなくとも、経験値を稼いでレベルを上げれば、それなりの強さを得ることが出来る。
兵士や冒険者達はレベル10越えを目標にしている人が多い。
若いうちにそれ位のレベルになると、士官やBランク以上の冒険者に昇格できる道が開けるそうだ。
ちなみに騎士団長のジークフリートは基本レベル35だと豪語していた。
『パワーレベリングはお手のもんだぜ!』
もう一人の自分が嘯く。
魔物を狩ってレベル上げ。考えるとワクワクしてくるがが、これはゲームじゃない、本当の命懸けだと自分に言い聞かせる。
それよりも付与魔術を極めて、生産チートで大儲けの方が楽しいのでは…
だめだ! ほんの数時間の間に、どんどん自分がもう一人の自分に、取り込まれていっている。
僅か7歳でアイデンティティの崩壊とか、笑えない冗談だ。
また自分の考えに没頭してしまったのだろう、気が付くとマリアが自分の顔を覗き込んでいた。
「どうかしたマリウスちゃん、怖い顔をして。まだ何か心配事?」
「あ! いえ、なんでもありません。そういえば父上遅いですね」
マリウスが、思わずのけ反りながらそう言った瞬間、祭壇の脇の扉が開き父が司祭と認証官を伴って出てきた。
「待たせたな。それでは引き上げるとするか」
「もう宜しいのですか?」
妻の問いかけに、クラウスはうむとう頷くと、司祭と認証官の方を振り返って言った。
「それでは、本日は世話になった。息子に良きギフトが得られた事、お二人には感謝する」
「とんでもありません。御用が御座いましたら、ぜひとも又お声がけください」
王都の司祭は揉み手をしそうな勢いで、満面の笑みで答えた。
ギフトの報酬は得られなかっただろうが、あれは父から十分な補填を約束されたな。
そんな失礼なことを考えながら、マリウスは後ろの認証官に視線を向けると、彼女と目が合った。
エレーネ認証官は何か言いたそうにマリウスを見ていたが、目が合うと、にっこりと微笑んで言った。
「おめでとう御座います。マリウス様」
「あっ、有難う御座います」
この時初めてマリウスは、エレーネが凄い美人なことに気が付いた。
マリウスは、自分が今日一日ずっと緊張していたことに今更気が付いた。
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