第48話「ろっくんろーるすたー」
「会長、衣笠、行くぞ——」
着地と同時に声を掛け、会長と衣笠が真っ先にグラウンドを駆ける。
衣笠が薙刀を華麗に振るい、会長が鉄パイプを乱暴に振り回し、挨拶がわりに蛇人間を蹴散らしていく。
爺さんも二枚のお札からそれぞれ炎と雷を放ち、軍勢を吹き飛ばす。
鉄パイプ振り回す会長も似合ってるけど……爺さん凄ぇな……。
こうして夜刀神が暴れている。異世界の住人も居れば魔法だってある時代とは言え、目の前で物理法則を無視した現象を起こしている身内を見るのは初めてだ。
遠距離攻撃を羨ましいと思いながら地面を蹴り、蹴って殴って蛇人間を一撃で沈めていき、夜刀神の前まで躍り出た。
すると蛇人間の動きが止まる。
アタシも会長と衣笠を両翼に呼び戻しておく。
「やっぱり……愛しい愛しい娘を変えてしまったのはここが原因なのね」
夜刀神が学校を見上げ、後方に控えている月乃と綾人に目をやる。
主軸になってる人格は母さんのようだ。本来の夜刀神要素は破壊衝動だろうか。今は母さん主軸でも、何時夜刀神に呑み込まれてもおかしくない気がする。
「心優、こんな場所は必ず破壊してあげるから安心して」
「アタシと違って母さんは変わんないな」
「姿形は大分変わってるような気がするけれどぉ?」
「中身の話。まあ、そのおかげで容赦要らずでやれる」
左の掌に右拳を打ち付け、夜刀神を睨む。
「何? その目は? まさか母親に歯向か——」
どうせ聞いても意味のない言葉しか出てこない夜刀神の口。
話の途中でその下顎をサマーソルトキックでかち上げる。
交わす言葉なんてない。言葉を交わしてどうにかなる相手ならそもそも今の状況になっていない。
「そう……そう! 躾が必要なようね! 全員皆殺しにし尽くせ!」
止まっていた蛇人間の軍勢がドッと一斉に動き出し、校舎へと進軍する。
「会長は状況に応じて月乃たちの加勢」
「承知しました」
「衣笠!」
「さぁ、暴れるわよぉ……!」
二人で夜刀神へと急接近。背中から生えた二匹の蛇がグイッと伸び出る。
その片方の牙を衣笠の薙刀が受け止めた。
アタシはもう片方の対処を無視して夜刀神に狙いを定める。
「ははは! まだもう一匹居るんだぞ!」
「えぇ、知ってるわぁ」
余裕綽々の衣笠が薙刀の持ち手を分割し、アタシを襲う蛇の頭を叩いた。
「これ、実は三節棍なのよねぇ」
刃で受け止めていた蛇の脳天も叩き、ノックアウト。
「なぁっ!?」
「驚いてる場合かよ?」
夜刀神の側頭部に剥けて振り抜く回し蹴り。
相手が夜刀神だと思えないくらいあっさり命中した。
天狗たちを倒している夜刀神とは思えないくらい戦闘に慣れていない。
口調の変わり具合から夜刀神に呑まれている部分もあるようだ。けれど、やはり母さんの要素が強い。
衣笠が負けたのも不意打ちだったからだろう。
二匹の蛇はまだ目覚めない。今のうちに畳み掛ける。
「舐めるなよ小娘っ!」
「っ!?」
次の一撃を最低限の動きで避けられ、夜刀神の右手がアタシの顔を掴む。
そのままグラウンドに叩き付けられるまでが速過ぎて全く対処出来なかった。
身体能力は桁違いってことか……そりゃ衣笠も負ける訳だっ!
グラウンドの砂を夜刀神の目に投げ付ける。
「ぶあっ!」
腹部を蹴り、夜刀神を引き剥がす。
「逃がすか!」
「なら私と遊びましょお? あの時の仕返し、させてくれると嬉しいわぁ」
一旦、夜刀神の相手を衣笠に任せて周りの蛇人間を片付ける。
「会長、平気そうか?」
「はい。梵さんの力のおかげで私は余裕です」
会長と背中合わせで戦いながら戦況把握。
会長は喧嘩慣れのおかげで心配は要らなそうだ。月乃と綾人は持ち前の運動神経を駆使して蛇人間を捌いている。爺さんのサポートもある。あっちも大丈夫だろう。
衣笠のおかげで息を整える時間を設けられるのも大きい。
ただ、夜刀神は一人でも背中の蛇が居る。手数の多さの所為で衣笠は攻撃よりも回避に重点を置いているようだ。
「あの背中の蛇を切り落とせば良いのではないですか?」
「それは今から試す。衣笠!」
アタシの声を合図に蛇の首を斬り落とす衣笠。
宙を舞う蛇の頭——あっと言う間に人間の体が生え、新たな蛇人間の完成。
アタシがそいつら二人纏めて相手取る。
慌てることはない。分断した蛇の頭が自立する予想はしていた。夜刀神の背中の蛇も案の定復活している。
更にもう一つの予想も当たった。
背中からの分離個体は強い。アタシや衣笠、爺さんなら余裕で対処出来るくらいだけど、会長や月乃たちに回したくない。
分離個体を倒し、衣笠と合流。
戦いながら言葉を交わす。
「結果は予想通り」
「それじゃあ、上手く蛇ちゃんを捌きながらってことねぇ。面白いじゃなぁい」
「ほんと、最高」
こんな状況でも楽しさを忘れない衣笠にそう返し、大きくバックステップ。
地面から足が離れたアタシを夜刀神がここぞとばかりに狙いを定める。
空中では回避出来ないことを見抜いてんのか。素体が母さんだからと舐めていたら痛い目を見るなこれは。
まあでも、この誘いに乗ってくるようならまだ大丈夫だ。
「ギンちゃん、はぁい」
「さんきゅっと!」
目の前に投げられた分割された薙刀の柄を掴み、衣笠がフルスイング。
後ろに飛んでいた体を前に引き戻して貰い、こちらへ向かって来ていた夜刀神の顔面に飛び蹴り。完璧に入った。
そのまま曲げていた膝を勢い良く伸ばし、夜刀神を吹っ飛ばす。
次は衣笠の番だ。
「行ってこい!」
アタシもフルスイング。持っていた柄を放し、遠心力を使って衣笠を射出。
起き上がるよりも先に届けば良かったけど、そう簡単にはやらせてくれないか。
衣笠と共に夜刀神に挑む——挑み続ける。
最初は衣笠のおかげで互角に戦えていた。寧ろこっちが優勢なくらいだった。
だけど、その形勢も段々と傾いてきた。
「——っ!」
掌底を鳩尾に貰ってしまう衣笠。
「衣笠!」
「気にしてる場合?」
ほんの一瞬、蹲る衣笠に目が行った。
判断ミスを嘆いた時には遅い。今度はアタシの腹に回し蹴りが突き刺さる。
ズシリとのしかかる鈍痛に歯を食いしばるが、膝が折れる。
「どうしてどうして? 心優の為にこんな島破壊しようとしてるのに分かってくれないの? 歯向かうの?」
追撃はなく、クソみたいな疑問を投げてくる。
「島を破壊する奴の気持ちなんか分かる訳ねぇだろドヘボ野郎」
「そう……まだ躾が足りないみたいね!」
アタシへと伸びてくる背中の蛇を横から衣笠が叩き落とした。
「足りてるわぁ。足りてないのはあなたの頭じゃなくてぇ?」
差し出された衣笠の手を借り、立ち上がる。
「そうだな……道徳の授業を受け直すことをお勧めする——よ!」
前宙から渾身の踵落としを夜刀神の脳天に。
一般人相手には使えないアタシの十八番。
夜刀神の首がガクンと下に向く。が、直ぐに首を上げ、鬼の形相でこちらを睨む。
「チッ……」
最大の問題点は決め手に欠けること。
チャンスを見つけては出力最大で攻撃を叩き込んでいるのに効いている様子が見られない。
こっちは一撃貰う度にヒーヒー言ってるのに。ふざけやがって。
「瓶底宮司たちは?」
「ここに来ていないのが答えかしらねぇ」
「だよ……なっ!」
夜刀神の攻撃を避ける。
瓶底宮司たちも今頃天津甕星と戦っているんだろう。あっちが終わるまで耐え続ける策もある。けれど、アタシの力にも限界値がある。
もしもアタシが落ちた時、衣笠と爺さんで夜刀神の相手が出来るのか。
無理だ。
なら考えろ。考えろ。脳みそ全部使って考えろ!
「あぁもう面倒な奴らだ」
夜刀神がそう口にした瞬間だった。
背中の蛇の口元に光が集まっていく。
それが何かは分からない。分かるのは危険であることだけ。
「爺さん! 月乃と綾人を守——」
「ギンちゃん——!」
お札を持った衣笠がアタシの前に飛び出した。
刹那——白銀の光線が二本、駆け抜ける。
その一本が蛇人間を焼き消しながら校舎の壁に達し、爆発。
衣笠の張ったバリアが軌道を逸らしたもう一本は校舎の上部を破壊する。
響き渡る避難者の悲鳴。
ぶっ壊れた外壁の落下地点には突然の出来事に頭を抱える月乃と綾人。
「まずい! 衣笠、一旦任せる!」
返事も待たずに出力全開で走って——駆けて———駆け抜ける。
ギリギリのところで二人を瓦礫から救い出す。
「大丈夫か?」
「う、うん。ありがとうソヨ」
「ごめん! 一瞬思考が飛んでて……」
「良いから立て。呑気に立ち止まってお喋りしてる暇はないんだぞ」
「ははは! はははははははぁ!」
すると邪悪な笑い声が聞こえてきた。夜刀神だ。
「そっか……そう言うことだったのね……」
何かに納得したように不気味で不適な笑みを浮かべる夜刀神。
底知れない様子にアタシは息を整えた。
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