第22話「挿話・うたいましょうならしましょう」


 しんみりとした曲から始まった姉ちゃんのライブ。

 家を出る前はあんなに緊張してて、さっきまで「吐きそう」のメッセージが滝みたいに流れていたのに、ちゃんと最後までミス無しラブゲーム。

 励ましも込めてグーを高く掲げたら、目が合った姉ちゃんが苦笑い。

 なんで苦笑いしてんだよー! もっと喜べよー!

 あれ? そう言えば姉ちゃんなんで一人でやってんだ? ナナちゃんがピアノやるって言ってたはず。

 ピアノは用意されてるけど誰も座ってない。

 この曲は最近知った。もう一曲の方はずっと前から練習していた気がするからまさかやらないなんてことはない……と思う。

 

 「嬉しい反応ありがとー! ほんと安心した! だって見てよこれ! めっちゃ震えてるんだけどー!?」


 俺も含めてドッと笑いが起きた。

 けれど、隣に立っている母さんと父さんは呆れた目で見ている。特に母さんは「弱みを見せるなんて」と愚痴まで言う。

 皆んなが楽しんでて、姉ちゃんだって最高のパフォーマンスを見せているのにどうして母さんも父さんもそんな顔をするんだよ。

 前は姉ちゃんとも全員仲が良かったのに……。

 今の姉ちゃんだけ仲間外れみたいな家の空気が俺は嫌いだ。

 だから母さんと父さんを連れてきた。

 何をやっても見ようとしない二人に見せつけてやれ! 姉ちゃんの凄さを!

 そう思った時、ステージの横から人が出て来た。やっとナナちゃんが来たのかと思ったけど——違う。

 

 「綺麗な髪……」


 俺の漢字ワークよりも真っ白な髪が揺れている。

 違う。あれは白じゃなくて……銀? ってことはあれがソヨちゃん? え、やっば! 超可愛いじゃん!

 ソヨちゃんと目を合わせた姉ちゃんの顔と手から緊張が消えたのが見て分かる。

 うーわ! 姉ちゃん分かりやっす!

 そして金の姉ちゃんと銀のソヨちゃんが超絶ヤバいくらいの演奏と歌を披露して会場を盛り上げたと思ったらアンコールで更に上げた。

 アオハルシンプレックスやっばああああああああ!

 姉ちゃんの綺麗な歌声とソヨちゃんの力強い歌声のマッチアップがばつぐんだ!

 

 「月乃が……こんなに?」

 「沢山の人に愛されてたなんて」

 「母さん、父さん。最近姉ちゃんのこと全く相手にしてないから知らないんだろうけど、姉ちゃん凄いんだぞ?」


 姉ちゃんが相手にされなくなった理由はなんとなく理解してるつもりだ。


 「困ってる人見過ごせないから近所や学校の皆んなから信頼されてる。それに姉ちゃんは自信がないのに、それでもやるんだ」


 俺は自信がないのを自覚して行動を起こせる姉ちゃんが凄いと心から思える。


 「姉ちゃん風に言うなら特別な個人にはなれないのかもしれない。でも、今日みたいに誰かにとって特別な一日を作れる人だよ姉ちゃんは。父さんみたいな記録を残せなくても、母さんみたいに売れっ子アイドルになれなくたって良いじゃんか」

 

 だって、姉ちゃんは姉ちゃんなんだから。

 俺だって今は偶然卓球が上手いだけで、これから先もずっと続くかどうかは分からない。姉ちゃんみたいに何処かで止まっちゃうかもしれない。

 だったら。


 「俺、家族皆んなで笑い合える普通が欲しい。前みたいに楽しい話で笑って、悲しい時は支えてほしい。今のままじゃ姉ちゃんがあんまりだ」

 「太陽……私たちがどれだけあなたのことを思って——」

 「いや、はなちゃん。太陽の言う通りだ。オレたちは能力だけを見て、肝心の子供たちを見られていなかった。能力すらも見誤ってた」

 「父さん……」


 父さんが俺の頭に手を優しく乗せる。


 「ごめんな太陽。お姉ちゃんを放置して。月乃も大事な家族なのに」

 「そうね……あの子は何もかもが私たち主導でやってたものね。思えばこっちが決めるより自由にやらせた方が良かったかも」

 

 多分だけど父さんも母さんも現状をどうにかしたかったんだと思う。

 そうじゃなきゃ俺に言われたからって音楽祭には来ない。

 

 「太陽ー! 踊ろー!」

 

 その時、姉ちゃんがステージ上から俺の名前を呼んで手招き。

 え? これ行って良いの!? ステージ上がっちゃって良いの!?

 姉ちゃんが言うんなら大丈夫か!


 「じゃあ、父さん母さん! 行ってくる!」


 俺は姉ちゃんが居るステージへと飛び込んだ。

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