サンフランシスコの流れ星。アンビシャスな人々の波乱万丈ストーリー
九月ソナタ
プロローグ
「野心をもちなさい」
野心って、何ですか。
なんでそんなものを持たなくっちゃならないんですか。
千彩は漫画家。高校の時に応募した作品が賞を取り、雑誌に載った。出発はよかったが、その後、3作を描いたがまあまあ、その後は15年以上もヒットが出ていない。しかし、道長は諦めず、受ける作品が出ないのはも千彩に野心がないからだと思っている。
ある朝、千彩がコンビニでバイトをしていたら、偶然立ち寄った道長とレジで顔を合わせてしまった。
「何してるんですか」
と彼は激怒した。
この時刻こそ、仕事に一番集中できる時ではないかというのだ。
何をしているって、見ればわかるでしょ。
働くことの何が悪いのですか、と言おうとしてやめた。
彼の顔が真剣すぎた。こんなに真摯に期待してくれているのは、世界中で彼だけだからだ。そんなことはわかっている。ありがたいと言うべきなのだ。
漫画家をギブアップする前に、一度だけ、心を大きく開いて、彼の言うことには全部耳を傾けてみよう。もうだらだらはいやだ。真剣に取り組んで、だめならきっぱりと諦める、とそう決めた。
千彩は久しぶりに、札幌に両親の墓参りに来た。
その帰り、羊ヶ丘に行った。
そこにはクラーク博士の銅像があり、「ボーイズ・ビー・アンビシャス」と遠くを指さしていた。
少年よ、大志を抱け。
千彩は30を越えている。
博士、私はまだ間に合いますか。
どうやって、大志を抱けばよいのですか。
クラーク博士の言葉には「like this old man」、「この老人のように」という続きがあることを知った。
彼はこの時、50歳、この言葉から、彼がその年で野心を抱いていたことがわかった。
博士の指はどこを、何をさしていたのだろうか。
千彩はその指は、カリフォルニアをさしていたと思う。
サンフランシスコをさしていたと思う。
あそこは千彩が子供時代を過ごしたから、よく知っている場所だ。
クラーク博士が生きたのは、ゴールドラッシュの時代だった。
先生と同じ年代の人々がサンフランシスコで事業を展開、たけのこが伸びるスピードで大成功を遂げていた。
クラーク博士は札幌農学校に教頭として来日した。博士は若い学生たちに出会い、自分ももう一度、チャレンジしてみたい。アンビシャスに生きてみようと思ったのではないだろうか。
博士はわずか8カ月余りで日本を離れ、アメリカで新しい事業を始めた。
失敗続きの後、7つの鉱山を買収、大きな利益をあげたのだ。しかし、成功も束の間、パートナが横領逃亡したので、179万ドルの負債を抱えて会社は倒産してしまった。投資してくれた親戚や知人からは恨まれ、59歳で、孤独な人生を終えたという。
「自分の人生で誇れる時があるとしたら、北海道のあの9カ月間だ」
と死ぬ前に、彼が言ったそうだ。
クラーク博士の人生が幸福だったか不幸だったか、それはわからない。
では、彼が指さしたサンフランシスコのアンビシャスな人々の人生はどうだったのだろうか。
千彩はサンフランシスコで「流れ星」のよう輝いたアンビシャスな人達の物語を描いてみようと思った。時に感動的、楽しく、哀しく、冒険的で、ファンタジック、でも、時に悲劇が襲った人生のストーリーを。
もう一度、この魂を燃やして描いてみたいと千彩は思った。
*
では、生々しくワイルド、時には愛すべき人々の物語を始めます。どうぞお付き合いください。
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