8話 もう一人の自分

 話がれたところで、ようすけうでけいを見る。

「あっ、そろそろ夕ご飯の買い出ししとこ。そう、ありがと!」

「どういたしまして」

 自宅側のドアに消えていくようすけを見送り、ドアが閉まった。そしてそうがカウンターに目を向け、くすくすとはつが笑っていたのを少しげんに思った後、その意味を察してしようした。

「くれぐれも内密にな」

「それも仕事、なので」

 母と旧友は、それぞれの気持ちには察しが付いていた。


 自室にもどったようすけえを始める。エプロン、ブラウス、スカート……と服をいではだになる。

 そこで気になるのは、自分の身体。男であることを捨てたわけではないのに、改めて「もう一人の自分」と共存する事実に直面していた。『怜央れおと居るなら、きっとその方が良い』という気持ちと、まだ『この自分でいたい』という相反する気持ち。そうは『急に変わる必要は無い』と言ってくれたが、『変わっていくべきか』で二の足をんでいるのだった。

「……どうしよう」

 周囲のこうの目にさらされるのをけるために、店に居ることが多い。安心するために、家族と出かける事が多い。自分らしくいるために、気にすることが多い。

 だから、『だれかを好きにならない方が良い』とあきらめていた、はずだった。


 本当は、いやではなかった。

 だからこそ、あの時、自分の保身のためにその告白を断ってしまったことを、ひどこうかいしていた。

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