第4話 イチゴのタルト

「お待たせしました。春のスイーツ、イチゴのタルトです」

「ありがとう。わあ……」

 怜央れおの前にお皿が置かれ、れいなタルトにかんたんした。おのあとヒラリときびすかえしていったその姿よりも、今はようすけの作ったというタルトに目をかがやかせていた。

しそう」


『そういえば、あのころも「スイーツの勉強をしてる」って言ってたっけ』と思い出しながら少しずつ食べ進めていると、こうすいの香りとやわらかい色のブラウスが視界のはしに映った。

「えっ」

「味、どうかな?」

 ニコニコと向かいの席にすわようすけに、思わず怜央れおの手が止まる。表情からして、以前のように『何か良いアイデアあったら意見ちょうだい』と、意見を期待しているところなのだろう。

「お、しい……よ」

 昔も、親しいあいだがらに見せるそのふんにさらにんでしまったのだから、そんな風に接してくるようすけに対して、怜央れおどうようかくしきれなかった。そんなかのじよに、ようすけは思わずといった様子で笑い出す。

「あはは、さっきまでちょっと気まずかったから。昔からえんのあった子がまたきてくれたのにもったいなくて」

 つくろうようにいつしよに笑う怜央れおの内心は――

「(やっぱり気付かないでいて……!)」

 再び告白しようにも、その道のりは長く感じられた。


「……はぁ」

 フォレスタで会計を済ませ、外に出た。良い香りの店内とはちがって、味気ない街道の空気にため息が混じる。成功したような、失敗したような、何とも言いがたい感じがして、この後の予定をどうするかも決めていなかった。

「久々に、森宮神社行こうかな……」

 しばらく歩いた先にある、土地神ながらえんむすびの神様として、しばらく前から話題になった神社。『元地元とはいえ、ふんも変わっているのかな』と怜央れおは足を向けた。その時、弱い追い風がき、うすぐもりだった雲のすきから日光が差し出した。

 多様性がどうとか気にしたことはなかったが、考えてみれば『フォレスタ』ほど見た目にもいろい場所は他に無かった。

そうさん、居るかなあ」

 かよめていたころによくカウンター席でいつしよになった、少し年上で森宮神社のあとぎ。口数は少なく、くせの強い店員たちに時々引いていたことを思い出してしそうになった。


 森宮神社にとうちやくすると、外出からもどったところらしいそうと目が合った。

「……あ」

「こんにちは……」

 きんきようと事情を話そうとしたところ、そうが何かを思いだしたらしくかんがみ始めた。何やら『……え、夢で見たの、これ?』とぼそぼそとつぶやいた後、一人なつとくしたらしく手招きしてきた。

「えっと、お参りしたら、おみくじ引いて」

 それを言うだけ言って、そうは『じゃあ』と社務所の方へと消えていった。

 周囲をわたすと、神社は相変わらず静かで、平日ということもあってそこまで人は居なかった。さいせんばこぜにを投げ入れ、すずを鳴らす。二礼し、かしわを打ち、一礼。

「(ようすけと、いつしよに居たいです)」

 これがせいいつぱいの願いだった。決心するには遠すぎるけれど、会いに行くくらいなら。


 ――リン……


 すずの音が鳴った気がした。目の前のすずとはちがう音におどろいた怜央れおは、我に返って小さくおをしてから社務所に向かった。

「おみくじ、100円か」

 代金を箱に入れ、一枚を取り出して開いてみた。

ちゆうきち――急がば回れ……かあ」

 今の気持ちからするとそんなものか、とおみくじをひもにくくりつけた。最後に、おくで仕事をしている様子のそうに軽くしやくをすると、かれしやくを返してくれた。

「神社も、また来ようかな……」

 そんな風につぶやきながら、怜央れおは神社を後にした。

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