第3話 自慢のスイーツ

 怜央れおは迷っていた。さっきの『友達が入りたがって』はうそだからだ。らしくないうそをついた自分がずかしくなり、『適当に過ごして帰ろう』という考えがすでに大部分をめていた。当初の『また話しかけるきっかけがしい』という目的は達成した。なので、今日の所はこれでじゆうぶん


「(いまだに、好きだしな……)」

 ようすけは男なのにわいいから、というのは確かにれたきっかけだが、かれの苦労を外野で見ていたなりに知っているからこそ、そのしんの強さにあこがれた。そして怜央れおが告白して、フラれた。中学卒業後にししてしばらく遠くに居たが、あきらめきれなかった怜央れおは、大学生になったのを機にもどってきたのだ。だから――


 ……と、かんがんでいたら、横からまたこうすいの香りがして、グラスが差し出された。

「お待たせしました。ダージリンティーです。……良かったら、何かスイーツもたのむ? 春のスイーツもあるよ」

「あ……うん、ちょっとメニュー見てみる」

「はーい、ごゆっくり」

 手をヒラヒラさせてもどっていくようすけを、『さっきは見過ぎたかな』とひかえめに見送る。春色のブラウスはオーダーメイドなのか、とすっかり成長したようすけの身長を見ておどろく。お店のエプロンを身につけ、ペンのキャップをわざわざももいろのものにこうかんしたらしい。


「(……もっとわいくなってる)」

 ずかしさをそうと、紅茶を少しだけ飲んで、改めてメニューに目を通す。スイーツはつうのメニューだが、聞くところによると、ここ二、三年はようすけが作っているらしい。時折、季節のメニューとしてようすけの手作りが出ていると聞いて、なおさら行きたくなったのだ。

「春のスイーツ……イチゴのタルト。――これにしよう」

 手を挙げると、すぐさま「はーい」と明るい声が返ってきた。

「何にする?」

 まっすぐれいに立つと、すわっていてはすがに視線を上に向けないと顔が見えないくらい、ようすけの身長は高い。それを分かった上で、ようすけは少しかがむような姿勢を取ってくれた。

「春のスイーツで。……作ってるんだっけ?」

「そ。ちょっと時間かかるけどお待ちくださいっ」

 思ったよりフランクに接してくれてホッとしたところでようすけに視線をもどすと、親指を立てて『張り切るから!』と口パクで言っていた。

「(そういうのズルいよ……)」

 思わずキュンとしてしまった怜央れおは、いま自分の本音を表情に出していないかとしばらくあせをかいていた。

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