第2話 再会

「――えっと、今日はどうして?」

 意を決してようすけが話しかけると、変わらず気まずそうに怜央れおは口を開いた。

「友達が入りたがって、私はほらその、お察しの通り気まずいから……」

「な、なるほど……」


 女装をつらぬき始めた中学生のころは、その本心に対して興味を持たれることも否定されることもこわかった。だから、怜央れおから告白されたときはあせが出た。その気持ちを否定はしたくなかったが、自分を守ることを優先した。自分に対して否定的な言葉をしぼすように言って、せめて「友人でいよう」と空元気を出して伝えたのだ。

 その一件から怜央れおとは友人ではいられたが、中学を卒業してえんになると苦い思い出には変わりなかった。


「……あの時はごめんね?」

「ううん、だいじようだよ」


 うわつらだけは「何でも無い」とは言えたが、ようすけの良心は痛んだ。あれからもずっと、怜央れおようすけのことをおもんぱかってきよを保とうとしてくれていた。そして、それは今もそうだった。

 一方で『かんばんむすめ』としては、お客さんをかんげいしたいし、めいわくさえかけなければ等しくむかれたい。それは両親の教えでもあるからだ。


怜央れおこそ気にしないで。せっかくお客さんとして来てくれたんだから」

 親指を立ててウィンクすると、ずかしそうに怜央れおは目をらしつつうなずいた。

「注文する? 決まったらでもいいよ?」

「……じゃあ、ダージリンティーで」

「かしこまりましたっ」

 おをしてくるりと背を向けたようすけから、春らしいももの香りがただよってきた。それにおどろいて、怜央れおはついその背中を目で追っていたのを、母親は気付いていないりをしながらカウンター客との会話にもどった。

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