看板娘(♂)は恋をする

うらひと

1章

第1話 12時のそのあと

 今日も快晴。過ごしやすい春の空。コーヒーの香りに慣れるともつたいないと、外の空気を吸ってからまたもどって中の空気を吸う。


 ここはきつてん『フォレスタ』。メニューはつうで、店員が変わり者と、知る人ぞ知るきつてん。朝の時間帯は軽食のトーストやサンドイッチを食べたり、出勤前にくつろぐ人が集まる。

 店内でコーヒーがくゆらせる湯気のおくに、先ほどの『かんばんむすめ』のまとう春色のアクセントを入れたエプロンが通り過ぎる。

 そこに、店長である母親から声がかかる。


ようすけ、ブレンドとハムサンドを5番へ」

「はーいっ」


 かんばんむすめ、といえばつうは女性だが、女性の制服を着た『かれ』もこの店でなら『かんばんむすめ』だ。ごろからわいいものに目がなく、『それにふさわしいいをしよう』とそのかんばんむすめこと、くすのき ようすけは所作にも気を配る。

 もちろん、少年の心も忘れてはいない。ようすけとは対照的に男っぽいと評される、妹の京子がリフティングの練習をしていると、ようすけも加わったのちにパス練習もする。また、京子が「またかついいしようを着たい!」と言うと張り切って王子様のようなしようを作ることもある。

 これからの話は、そんな家族に囲まれて暮らすようすけが、ある女性と再会する話。


 昼過ぎにもなると、客層も少し変わってくる。主に学生の割合が増えて、スイーツもたのまれることが多い。

ようすけさん、ショートケーキの準備を手伝って頂けますか」

「わかりましたーっ」

 今度はバリスタを務める父親に呼び止められ、担当であるスイーツの準備のためにカウンターに入った。――その時、ドアベルが鳴った。

「いらっしゃいま――」

「――あっ」

「あっ」


 ようすけにとって見覚えのある女性。大学生くらいのかのじよと目が合い、おたがいに固まってしまう。

 父親のじゅんも「おや、」と思い出したようだが、むすたちの間にただよう気まずい空気を察して、しやくののち、自らカウンター下の冷蔵庫に手をばした。

「……ひ、久しぶり」

「久しぶり、怜央れお……」

 中学卒業以来の再会はとつぜんで、どこかほろ苦さを思い出した。

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