幻海メンタルテイル

イズラ

第1章 暗闇の中で

第1話 結界術(1)

 空中で動きの止まったマジックペン。

 それは薄紫の縁取りに収められ、その眩い光は この目にも鮮やかに映っていた。


 女性が指でコインを弾くと、コインは高速でクルクルと回転しながらペンへと飛んで行く。

 私の目がコインを追いかけていたのは ほんの一瞬で、浮かんだペンに当たれば コインは「ピキン」と鋭い音を立てて砕け散った。


 私は息を呑んだ。


 ペンを覆う『結界』に衝突した反動。

 それによってコインという金属の塊は破壊された。




 春空にバラを飾るように美しい所業。

 さすがは”超高度”の結界術師。


 結界の遠隔操作や空中維持なんかは、私でも到底できない術である。

 正に神の領域だ。


 ベンチに座って呆然と見ていた私だったが、あまりの高等テクニックに自然と拍手をしてしまった。


「分かった? これが遠隔からの結界操作。これができれば、人間を瞬時に守ることもできるの」


「は、はい。天下野けがのさん。参考にさせて、もらいます……」



 ニコッと妖麗な笑みを浮かべる天下野けがのさん。

 プロは面構えが違った……。


 同じ結界術師なだけに 格の違いを思い知らされた。


――違う、そうじゃない。


 確かに圧倒はされたが、


「それじゃ、私はこの辺で 帰らせてもらうねー。また教えてほしいこと とかあったら 気軽に呼んで。……ねっ? 秀子ひでこちゃんっ❤」



 とにかく、ノリが軽い……!

 別にお堅い方が好き、ってことはないけども!

 だからと言って ここまで軽いと こっちが恐縮してしまうでしょうが……。


 「わっかりましたっ!」と滑稽な返事をし、私――只町秀子ただまちひでこは彼女を見送った。


 何ら変わりのない近所の公園での、たった数分の出来事であった。

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幻海メンタルテイル イズラ @izura

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