第14話
ベッドで目覚め、枕元のスマホを手に取る。目覚めてすぐ、日付と時間の確認をするのが日課になった。続いて、履歴も確認する。昨日の帰りにした彼との約束が、果たされたのか果たされなかったのか気がかりだったから。
昨日の通話履歴は、1つもなかった。
母の死がなくなると同時に、それにまつわる事象も全てなくなってしまう。母の死を告げる病院や美憂からの着信履歴もそれにまつわる会話も、全てなかったことになる。代わりに、記憶にない彼との通話履歴があったらどうしようかと思っていたから、なんの履歴もないことにほっとした。
「お姉ちゃん。牛乳、忘れず買ってきてね」
2人で並んで朝食の準備をしていると、美優が思い出したように言った。
「牛乳? もうないの?」
「やっぱり忘れてる! 昨日の夜、お父さんが飲んじゃったからって、言ったじゃん」
「ああ……そう、だったわね」
「最近のお姉ちゃん、物忘れがひどいよね」
忘れたんじゃなくて、知らないんだとは言えなくて「ごめんね。疲れのせいかな? 特に夕方以降の記憶が曖昧になるんだよね」と、曖昧に笑って誤魔化した。
この現象が始まって1番困るのは、こういう時だ。母が死ななかった場合、普通に家族と食事をし、会話をして過ごす。その間の出来事は、当たり前だが一切覚えていない。朝になって美優に突っ込まれることが多々あった。幸い今は家族の間だけで済んでいるから何とかごまかせているけれど、これが彼や他の人も関わるようになった時、上手くごまかせる自信がない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます