第11話
「お姉ちゃん。今日からあたしが病院行くからね!」
最近、早起きになった美憂と一緒に朝食の準備をしていると、美憂が突然言い出した。
「えっ? なんで?」
「やっぱり忘れてる。昨日、言ったじゃん」
「昨日?」
昨日は病院を出てすぐ呼び戻されて、そのまま朝になったから、美憂と話が出来たのは朝だけだ。私の記憶にない時間に、どんな話をしたのだろう?
「今日終業式で明日から春休みだから、しばらくはあたしが病院行くって……」
「あ、そうか……そうだったね……」
同じ毎日が繰り返されているようで、時間はちゃんと進んでいる。高校はもう、春休みになるのか。
「でも、毎日通うのって大変だよ。交代交代にしない?」
「大変だからだよ! お姉ちゃん、最近疲れてるみたいだしさ、春休み中くらいあたしががんばるよ!」
美憂は、まだ倒れた母の発見が遅れた責任を感じている。母が病院に運び込まれた直後、遊びに出かけなければ、もう少し早く帰って来たらとしきりに自分を責めていた。私も父も、美憂のせいじゃないと何度も伝えたのに、まだ美憂は納得していなかったんだ。
きっと母が元気になるまで、美憂は自分を責めることをやめないだろう。母が元気になることなんて、決してないのに。
「じゃあ、春休みの間はお願いしようかな」
これ以上は言うことがなくて、美憂の気の済むようにさせることにした。
「うん、任せて! なんなら春休みが終わった後も、時々は私が行こうか? そうすれば、お母さんが目を覚ました瞬間を見れるかもしれないしね」
美憂の言葉に、胸がズキリと痛んだ。母が決して目を覚まさないことを知っているのは私だけだ。罪悪感に目をそらしながら、何とか返事を返す。
「そうね……部活のない日に頼もうかな……」
何時間後に、この笑顔が悲しみで歪むのだろう。何時間後に、この笑い声が慟哭に変わるのだろう。そして翌朝には全てを忘れ、笑顔の朝を迎えるのだ。
——この異様な毎日は、いつまで続くの? これからずっと、何年も続くというの?
「おはよう。2人とも早いな」
父が眠そうな顔をして、ダイニングに入ってきた。
「おはよ、お父さん。今日も遅いの?」
「あー、いや、今日は早く帰れると思う」
2人の会話から、ここ数日父の帰りが遅いことが分かる。私の記憶では、連日仕事を切り上げて病院に駆けつける姿しか見ていないけれど。
「今日から美優に病院に通ってもらって、私がご飯作るの。ご飯がいらない時は、早めに連絡してね」
胸に渦巻く不安と恐怖を押し殺し、必死で明るい声と笑顔を作った。
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