第10話

「美奈さん。最近、お疲れのようですね」

「そんなこと……」

 反射的に否定しかけてやめた。

「ちょっと……仕事が忙しくて……」

「なら、お母さんに愚痴を聞いてもらったらいいと思いますよ。楽しい話も楽しくない話も、子供の話はなんだって聞きたいものです」

 川田さんにも、2人のお子さんがいる。上の子は、美憂と同い年だと以前聞いた。川田さんは母に自分の姿を重ね、私たちに自分の子供の姿を重ねているせいか、とても親身に接してくれる。

 以前はその心遣いが嬉しく心の支えになっていたけれど、今はただ、煩わしい。何をしたって、母は死んでしまうのだから。

「宮田さん。ちょっとだけ、美奈さんの愚痴、聞いてあげてくださいねー」

 母にそう声をかけ、川田さんは病室から出て行った。きっと、私が愚痴を言いやすいように気を遣ってくれたのだろう。

 私はマッサージの手を止め、大きく息を吐く。

「こんなの、なんの意味もない……」

 母が死に続けて、2週間が過ぎた。もう美憂の嗚咽を聞いても、父の怒鳴り声を聞いても、何も感じない。翌朝には、2人とも母が死んだことを忘れて平然としているのだから、私も平然とするしかない。

「お母さん。なんでこんなことになってるの?」

 当然、母からの返事は無い。

「お母さんは何度も死んで、苦しくないの?」

 ——母も自分が死んだことを忘れているのだろうか? それとも、私のように覚えているのだろうか?

「何度も往復するの疲れるから、呼び戻すなら早めにしてね」

 母に私の声が聞こえていたのかいないのか、この日呼び戻された時間はかなり遅く、夕食の後片付けをしている最中だった。

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