第8話

 目を開くと、自室のベッドに寝ていた。手探りで枕元のスマホを手に取り、日付と時間を確かめる。

 2月28日月曜日 5:46

 アラームが鳴る前に目が覚めてしまった。2度寝する気も起きなくて、のろのろとベッドから抜け出し、着替えて朝食の準備に取り掛かる。美憂と父が起きたら、確かめないといけない。

 ——昨日何があった? 母はどうなった?

 もしまた、母の死がなかったことになっていたら、そしてまた、今日も母が死ぬのだとしたら。

「おはよう、お姉ちゃん」

 朝食の準備が終わった頃、美憂がキッチンに顔を出した。

「おはよう」

「体調はもういいの? ずいぶん早起きだね。昨日、寝過ぎて早く目が覚めたの?」

 美憂が明るい声で尋ねる。その様子から、やはり昨日の母の死もなくなったことが分かる。

「昨日のお母さん、どうだった?」

「どうって? 元気そうって言ったらおかしいけど、特に変わった事はないよ」

 美憂の声が、少し沈んだ調子になった。

「喋りながらマッサージしてたらまぶたがピクピクして、起きるのかなぁって思ったけど、やっぱり起きなくて……」

 美憂の落ち込んだ姿は、かつての自分を見ているようだった。

 母の元に通い、今日は目を覚ますかもと思いながら声をかけ、目を覚さなかったことに落胆する。看護師に「焦らないで。少しずつ良くなってるから」と慰められた言葉を胸に、今まで通い続けてきた。

 私はもう、あの言葉を信じることが出来ない。良くなっているのなら、母は1度も死ぬはずがないのだから。

「美憂。あのね……」

「おはよう」

 私の声を遮るように、父がやって来た。

「おはよう、お父さん」

「おはよ。昨日遅くまで仕事して、今朝も普通通り出勤するの?」

 美憂がコーヒーを入れる父の背中に、嫌味たっぷり問いかける。

「昨日はトラブルで仕方がなかったんだ」

 苦笑いの父の顔は、少し疲れているように見えた。

「美奈は? もう大丈夫か?」

「うん。昨日、ゆっくりしてたから……」

 美憂の話から推測すると、昨日の私は体調不良で寝て過ごしたらしい。そんな記憶、微塵もないけれど。

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