第139話 抑えきれない思い
日中にドルハムとした約束が頭のなかを過ぎる。
何もかも忘れるぐらい、無茶苦茶に感じさせて欲しい……。
つい口にしてしまったが、素直なルノルノの中に秘められた欲望だった。
今ルノルノはミチャと共にベッドに入ったところだ。
ミチャに濃厚な口付けをせがむ。彼女はそれに応え、抱き締めてくれる。
ふとミアリナの抱擁を思い出す。甘く、優しく、温かい姉の抱擁。
ミチャに同じものを求めてしまう。ただ甘えたい。ミアリナが与えてくれた温もりを与えて欲しい。
しかし同時に、ミチャはミアリナが与えてくれなかった淫らな温もりも与えようとしてくれる。
『今日もしたい……?』
『いいの……?』
それは甘く切ない愛のある快楽。ミチャだけが与えることを許された特権。
その特権を今ドルハムにも与えようとしている。
好きなのはミチャ。
ミチャに比べれば、ドルハムのことは好きじゃない。
だけど、ドルハムのこと自体は嫌いじゃない。
男の人はいらない。
でも彼のことなら許してしまう。
つまり、彼は特別な存在になろうとしている……。
ルノルノは妄想する。ドルハムに抱かれるところを。ミチャが与えてくれる性感に乗せて、ドルハムと交わることを想像した。
彼にまた絶頂に導かれれば、今体を支配している愛しい気持ちが彼に向けられていくのだろうか。
彼の部屋に行ったら、自分はどうなる?
押し倒され、服を脱がされ、体を開かされ、彼に覆い被さられる。
好奇心が湧いて来る。想像を続けてみる。
彼に愛撫され、快楽に悶える自分が容易に想像出来る気がした。
しばらくミチャに抱かれながら、妄想でドルハムに抱かれた。
荒々しく、力強い愛撫。男が女を力で支配していくような愛撫だ。
(お願い、入れて……)
その力強い彼に支配されながら、自分を蹂躙してくれるようにおねだりする。
動物のように四つん這いになると、彼は後ろから自分の腰を持つ。
彼の力強い獣欲が、自分の中へと入ってくる。
そしてゆっくりと、自分の中を彼の熱い怒張が占拠していく。
中を抉るように突き上げてくる。
腰が動く。そしてその動きは徐々に速くなってくる。
肌と肌を打ち付ける音が、部屋に響き渡る。
ルノルノは彼に蹂躙される快楽に甘いよがり声をあげる。
部屋に響き渡る喘ぎは彼の興奮を誘う。
向きを変え、今度は前から犯される。
彼に抱きつき、脚を彼の腰に回して抜けないように固定し、女の本能で男を求める。
彼の虜となり、牝となり、奴隷となる。
ミチャのことなんか忘れてしまい、彼の女になり、彼との運命の糸に縛られていることを実感する。
激しい快楽に襲われた。
一際大きいよがり声をあげ、一気に絶頂へと駆け上がっていく。
ドルハムの濃厚な精液が自分の中を満たしていくのを妄想した。
男の子種が自分の中に容赦なく注がれる。
ルノルノは激しい多幸感の中で絶頂に達した。
『いつになく、激しかったじゃん』
ミチャが疲れ切った顔でルノルノの顔を覗き込んだ。
『そうかな……』
ルノルノはミチャの口づけをせがみ、何度も何度も濃厚に舌を絡めた。
ようやく解放すると、ミチャはルノルノの上から離れ、横に並んで寝転がった。二人でしばらく天井を眺めていた。
『……やっぱ、ルノルノのこと、好き』
ルノルノは肩で息をしながら、顔を横に向け、ミチャの顔を見た。
『……うん? どうしたの……? 急に』
ルノルノはミチャの腕にしがみつくように体を寄せ、密着した。
『んーん。最近ずっとドルハムと仲良さそうだしさ。子作りの約束もしちゃうし。あたしのことより彼のことの方が好きになっていってるんじゃないかなー、なんて思って、ずっと不安で……』
どきっとした。さっきの妄想がばれたのではないかという錯覚に陥る。
『でも、こうしてると、その不安も消える気がする。やっぱりルノルノと蕩け合いたい』
ルノルノは妄想を否定するように、ミチャに口づけた。
確かにドルハムのことを考えながら交わるというしてはいけないことをした。だがそれはちょっとした妄想を楽しんでみただけだ。
本当に好きになった訳ではない。
好きなのはミチャだけだ。
ドルハムのことはほんの興味であって、好きとは違う……。
『私だって、好きなのはミチャだけだよ……。ミチャとずっとこうしていたい。いっぱい蕩けあって、温め合って、気持ち良くなりたい……』
そう、これこそが嘘も偽りもない、純粋な気持ち。
自分の中にある本当の気持ちだ。
こうしているだけで幸せ。
これだけ深い愛情を感じる相手は彼女において他はないのだ。自分のミチャに対する想いは不変だ。
ドルハムのことが気になり始めているなんて……そんなはずはない。
これは単なる気の迷いに過ぎないのだ。
『ドルハムさんと子作りするのは、あくまでミチャとの生活のためだよ』
ミチャはじっとルノルノを見つめた。その表情はとても不安げだった。
『あたしを捨てて、彼の方に行っちゃわない?』
『行かないよ。当たり前じゃない』
『子作りしたら、気が変わらない?』
『変わらないよ』
『あたし達、ちゃんと一緒になれるのかな……』
『なれるよ』
力強くそう言った。
しかしルノルノの心の中に芽生えた男に対する好奇心は、いくら否定してみせても片隅に残った。
彼との間にある運命の糸は雁字搦めになって自分の心を捉えている……。
いくらミチャのことが好きと思い込んでも、運命の糸の行方には逆らえないのではないか……?
(そうなれば、ミチャはシュガル様のものになり、私はドルハムさんのものになる……)
ミチャの不安な気持ちはルノルノの不安をも煽った。しかし同時に心の片隅に残った好奇心をも震わせている。
ルノルノは自分が考えている以上に彼への想いが募っていっていることを自覚せざるを得なかった。
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