第15話 小説化

「まあよくある物語の設定盛り込みすぎだね。私が編集者だったら即却下かも。ある意味フィクションよりフィクションかもね」


 由美の言葉は意外に私の心をつかんだ。私のこれまでの人生って意外と面白いのかな。自分では面白いと思ってたけど、こうして他の人からも言われると、少し手ごたえを感じる。まだ私は終わってないのかもしれない。


「いや、そうだ。それだ」


「何、いきなり。びっくりした」


「私の人生小説にすれば良いんだよ」


「小説?」


「私こう見えて、国語は小説だけすごい得意なんだ。」


「知らないけど」


「実は中学時代、ネットで小説見るのはまって以来、ネット小説あさりすぎて小説読む力だけ爆上がりで」


「でも、読むだけでしょ」


「まあね。でも間違いなく今自分の人生、どこの小説より面白い気がする」


「どこの小説でも、じゃなくてネット小説よりもでしょ」


「まあ本になった小説読まないから確かにそうだね」


「そんなうまくいくかな」


「任せて」


「その言葉で何回も任せたけどね。もう頑張ってとしか言えない。応援してる」


 由美は、完全に他人事だった。でも、今回もまた、由美の力が必要だった。もう真正面から頼むことにする。


「何言ってるの、由美はパソコン貸してよ、うちパソコンないんだから」


「また。スマホで書けば良いじゃん」


「パソコンで打たないと何時間かかるか」


「どんな大作書くの?」


 確かに。何文字書けばいいんだろう。そもそもお金になるんだろうか。ここまで私たちはまるで当たり前にお金になることを前提に話してきたけど、どうなんだろう。でも、ああいうのって多分文字数ごとにお金ってもらえたりするよね、多分。だって、小説書いてちゃんとサイト盛り上げてるし。広告もめちゃくちゃ入ってるから、儲かってるだろうし、多分そうだよね。

 それなら、文字数いっぱい書いた方が得だと思った。


「わかんないけど、書くならしっかり書くから」


「私もパソコンレンタル業で一攫千金っていう小説書こっかな。」


 由美もしょうもないボケをしてきた。

 ただ、パソコンは無料では貸さないという強い意志を感じた。ただ、ここを真正面から戦って、無料じゃないって約束をしてしまうと無料じゃないことが確定してしまう。そう思って、とりあえずうやむやにするつもりで、こう言う。


「いいんじゃない」


「ちゃんとレンタル料とるよ」


 まだまだ食い下がってきた。


「出世払いで」


「出世してよ、ちゃんと」


 出世払いという形で何とかうやむやにできた。こうして小説を書くことになった。



 由美の家に毎回行って書くのは申し訳ないというのと、書きたいときに書けないというモチベーションの問題から、由美に何とか頼み込み、パソコンごと貸してもらった。ただ、動画編集に使っていたパソコンは彼氏とのゲームに使うということで、古い方のパソコンを貸してもらった。2つパソコンがあったことには驚いた。別に文字を書くだけなので、全然問題なかった。

 ちなみに、学校からの貸与PCでも良かったけど、万一監視とかされてたら恥ずかしいというのと、アイデアを盗まれないようにというのもあって、やめておいた。


 それからというもの、ひたすらパソコンに向かって格闘する日々が続いた。

 お母さんはパソコンにひたすら向かっている私に、勉強するか働けと言ったけども、何とか無視して続けている。いや、無視はできないので、スナックの方を手伝いに行って、何とかしている。

 私のことが拡散されたときもスナックの話はギリギリネットには出なかったけど、当然一度私とスナックで会った人はわかる。あのニュースを見て、スナックを思い出したという人も多いらしく、結構にぎわっている。私も毎回お客さんに釈明する。もはやお客さんが私をパパ活に誘って、私が断るっていうのが一つの流れにすらなっていた。基本は、学校、小説、スナックのどれかをする日々だった。

 ネット小説は連載という形が多いため、完成しなくても出そうか悩んだけども、いざ始めてから途中で連載が止まってしまうのを何度も経験した読者側の視点としては、連載は終わりまで中断してほしくないというのが偽らざる気持ちだった。そこで完成を目指した。

 とはいえ、稼ぎがないままだと家計が終了してしまうので、なるべく早く成果を出すために、まずは完成するために必死に頑張る。


 早いのか遅いのかわからないけど、3週間で作品をとりあえず書ききった。9万字くらいで、毎日3000字分アップすれば大体1か月くらい連載できる量だった。もちろん、誤字脱字とかおかしいところとかあるとまずいから確認しないといけないけど、自分でやる元気はもう残ってないほど達成感に満ちていたので、由美に頼むことにした。


 パソコンを返却するという体で、由美の家に行った。


「もう小説やめた?」


 由美はすぐにやめると思っていたらしい。


「むしろ完成した」


「すごいじゃん、おめでとう」


「ありがとう。でさ、書けたはいいんだけど、誤字脱字とかが多分あるからさ、でもこういうのってダブルチェックした方が良いかなって思うんだけど」


「そうかもね」


「ということで、よろしく」


「出たよ、このパターン。やらないよ」


 この後、いつも通り由美を何度か説得して確認について承諾してもらった。

 


 1週間経った土曜に由美に呼び出され、家に行った。

「あのさ、何なの?これ」


 早速、由美から怒られた。どうも読んでいる途中で、熱が入ったらしい。これはこれで面倒くさいけど、ありがたく聞いておく。


「まず、登場人物の名前だけど、誰ですか?高田由美って」


「由美だけど」


「だけど、じゃないから。実名はNGでしょ。私訴えて金もらうよ」


「いや、フィクションだし」


「それでは裁判所許してくれないから」


「そうなの?」


「春乃はそこまで常識ないと思わなかった」


 これまで私はファンタジーものばっかり読んでて、カタカナの名前の登場人物ばっかり見てたから、そんなこと一度も気にしたことなかった。もちろん、場所に関しては名前を変えていたけど、登場人物は有名人じゃないから、変えていなかった。


「これ名前1から考えなきゃいけないの?」


「だね。いいよ、私も協力するから」


 完全に由美はやる気になっているらしい。正直登場人物の名前には興味ないから、積極的に考えてもらえると助かるなと思う。


「それから、この高田由美って名乗るキャラクターなんだけど、もっとかわいくできない?」


「ありのまま書いたんだけど……」


「ありのまま?地味メガネじゃなくて、メガネ外したら絶世の美少女でいいんじゃないかな」


 これはただのキャラクターへの文句でしかなかった。


「いやいや、由美のこと書いたんじゃないよ。あくまでフィクションだから」


「私は私が美少女ってことを言ってるんじゃなくて、この登場人物の高田由美が美少女って話してるから。フィクションの話してるから。多分そっちの方が盛り上がるから」


 無理難題なお願いだとも思ったけど、ここから1時間粘られ、設定を変更することに決めた。

 他にも、誤字脱字が大量にあったのを全てパソコン上の校閲ツールを使って直してくれたので、修正はすぐに終わった。

 その日と次の日の日曜で、登場人物の名前を変えて、完成した。ちなみに、由美は内容自体は割と面白いと言ってくれたので、私には文才も十分あったらしい。


 内容については、私がパパ活を始めるまでの極貧生活、パパ活の日のこと、そしてユーチューバーになってやったことまでのことを書いた。ちなみに、キャッチコピーはフィクションよりフィクションな人生にした。

 その日曜から、1話ずつアップを始めて、1週間経った頃には投稿した小説のサイトの週間ランキングで10位以内を取れるようになった。 

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